前編に引き続き、関越病院の長田佳予子看護部長へのインタビューをお送りいたします。
我々は果たして患者をケアしているだろうか
部長ご自身がスタッフに伝えていることはありますか。
長田: 常に伝えているのはナイチンゲールの「我々は果たして患者をケアしているだろうか」という言葉です。
「今患者さんの清潔ケアをしています」、「患者さんの痰を引いて呼吸を楽にしています」と言いますが、それは本当にケアしていることになるのかを追及して欲しいのです。
ケアするとは果たしてどういうことなのか。
患者さんはそれをどう感じているのか。
その行為は患者さんにどのような影響を与えているのか。
それともうひとつ、同じナイチンゲールの言葉で「感じること、考えることがなければどんな訓練も意味がない」というものです。
マニュアル通りにできることも大切ですが、それだけでは足りません。
実際に患者さんと向き合った時に、何か患者さんの感情や考えを感じ取る。
そして、それに対してどうしてあげたら良いのかを考える。
それが出来なければ訓練する意味がないということを伝えています。
いくら技術が進歩しても、そこはブレない看護の軸になっているのですね。
長田:そうですね。
医療が進歩して、今はAIが導入されていますが、考えることと感じることは人間しかできないことです。
そこは忘れてはいけないと思います。
今後は看護師がリーダーシップを
現在、医療を含めて社会環境が変化しています。
それに合わせて看護師も変化していく必要はあるのでしょうか。
長田:地域包括ケアの時代、患者さんの生活を看て、人としての尊厳を維持することが看護の大きな役割になっています。
例えば、この人は地域社会で暮らしているけれどももう少し病院としてサポートが必要だとか、地域の訪問看護ステーションに任せれば大丈夫だとか、それを見極めて次に繋ぐこともあるでしょう。
そうやって看護師が自然とコーディネート役を担うことが多くなっていくと思います。
そして同時に患者さんとご家族の代弁者にもなります。
その役割があるからこそ、今後は看護師がリーダーシップを取っていくと思いますので、できるように変わっていかないといけないのではないでしょうか。
看護師とよく関わるのは看護補助者だと思いますが、こちらの病院では看護補助者として働いている方は何名ぐらいでしょうか。
長田:看護学生のアルバイトも含めますと40人くらいです。
どのような事をお願いされていますか。
長田:看護師の指示を受けなくてもできる、ベッドメイキングや環境整備をお願いしています。
ただ資格は持っていないとしても、単なる人手不足解消のための人員ではなく、立派な医療チームの一員であるということを自覚して貰う必要はあると思います。
それだけ看護補助者のする仕事も重要という事ですね。
長田:そうですね。
日本看護協会によると、看護補助者の仕事は大別すると3つの分野があります。
その一つの診療の補助業務には、検体を届ける、中央材料室から物品を持ってくるなどありますが、これも1つ間違えたら大変な事になります。
看護補助者に依頼しているメッセンジャーの業務も、一見簡単に見えますが治療に確実に繋がっていますからとても重要です。
看護補助者に向けた研修など、チームで働く上で他に取り組まれていることはございますか。
長田:1年間で5テーマくらい学べるように研修を組んでいます。
その他には月に1回、補助者リーダー会議を開き、師長も交えて意見交換をしています。
彼らは患者さんの一番近くにいるからか、病気のことは詳しくわからないとしても、ちょっとした変化に気付いてくれることがよくあります。
その他の作業に関しても同じです。
彼らのそう言った気付きはとても大切なので共有をして、看護に関することでも改善すべきものはできるように取計らっています。
看護補助者との関係性も看護師が意識的に築いていこう、リードしていく必要があるのですね。
趣味からも学びを得る
お仕事もお忙しいと思いますが、気分転換には何をされていらっしゃいますか。
長田:私はじっとしているのが苦手で、冬でも月に1回は登山に行きます。
登山は趣味ですが、その中でも人との関わりの大切さなどを学ぶことがあります。
登山は楽ではありません。
普段は何気なく歩けますが、標高が高いところでは一歩足を踏み出すだけでとても苦しい。
それだけ苦しいし辛いのですが、なぜかまた登ってしまいます。
きっと自分の中で目標があることと、達成感を味わえることが大きいのでしょう。
あとは趣味を持つことで、色々な人と出会えます。
関わりがその場限りだったとしても、その時に一緒に感動を味わって何か繋がりが生まれると思います。
そういう辛い場面を乗り越えて達成感を味わった経験、人との繋がりを得た経験があると、何か壁に直面した時にもやっていけるように思います。
長田看護部長からのメッセージ
長田:今、医療は地域包括ケアシステムの時代に突入しています。
「患者さんを地域で見ていく中で、医師は医療のことを考える。
どうしたらこの患者さんの病気が早く治るか、という所を考える。
介護に携わる人はその生活を考える。
どうしたらこの患者さんがトイレまで歩いて行けるだろうか、という所を考える。
でも看護職は患者さんの病気のことと、その患者さんが生活することの両方を合わせて考えて行動を起こせる。」
と、ある医師が言ってくれました。
私はそこに「尊厳を守る」ということを加えたいと思います。
看護の仕事は簡単ではありません。
時には、私たち自身が体験したことのない痛みや苦しみ、気持ちを汲み取る、という不可能に近いようなこともする必要があります。
それでも、患者さんが一人の人間としてどう生きていきたいか、どういう最期を望むのかを考えていける役割は素晴らしいと思います。
看護部長となった今でも私は、看護師を目指した当時の自分に感謝しています。
今看護師を目指している人、看護師として日々頑張っている人には、是非責任と誇りを持って突き進んでいって頂きたいと思います。
シンカナース編集長インタビュー後記
長田部長のお話の中に「3年で一人前」という内容がありました。
看護師の役割の中には、リーダーシップをとり、患者さん、家族の希望を伺いながら現実の状況に合わせて医療を提供するコーディネータ的な役割が欠かせません。
それを考えても、卒後3年の教育の中で、チームリーダーの役割についても包括されていらっしゃるというのは、部長のお考えに沿ったプログラムなのだと感じます。
看護は個人での技術や知識だけではなく、チームとしての牽引者、まさにリーダーになる必要がある職業でもあります。
そうした中で、3年以内にチームリーダーについても学ぶことが出来るというのは、看護師が早々にチームを意識するためにも非常に大切なことではないでしょうか。
長田部長のお言葉でもある「責任と誇りを持った看護師」が一人でも多く社会で活躍できる環境を、部長はお創りになられていらっしゃるのだと実感しました。
長田部長、この度は本当にありがとうございました。
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・No. 41 長田佳予子様(関越病院)前編「約束に支えられて」
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