今回は関越病院の長田佳予子看護部長にインタビューさせて頂きました。
長田佳予子看護部長の手腕に迫ります。
約束に支えられて
看護師になろうと思ったきっかけを教えていただけますか。
長田:まずは身近にいた叔母の存在があります。
叔母は看護師の資格を持っていながら家庭の都合で現場に務めることはできなかったのですが、近所の方に向けてオムツ交換や着替えの仕方を教える御茶会を開いたりして、社会貢献をしていました。
その姿をみて素晴らしいなと思っていました。
そしてその叔母が、私が困っている人のお世話をしたくなる性格だと知って「看護師さんになったら?」と勧めてくれたのです。
叔母の活動も見ていましたから、もう絶対看護師になろう、と心に決めました。
学校選びはどのようにされましたか。
長田:大学病院でしたら教育と研究両方の側面を持っているということで、埼玉医科大学に進学しました。
学生時代から印象に残っている出来事はありますか。
長田:忘れられない患者さんが2人いらっしゃいます。
学生の時に受け持った腎臓がんの患者さんと、看護師になってから受け持った骨肉腫の方です。
一人目の方は、常に痛みや嘔気があり食事を食べると戻してしまっていたのですが、食べ続けることを望まれていました。
その方にとって食べることは生きることと同義だったのです。
そこで主治医を含めた医療スタッフとご家族も一緒に加わってもらって、患者さんの「食べる」という望みが叶えられるようにしたところ、不思議なことに患者さんの痛み止めを使う量が減りました。
二人目の方は痛み止めを使わないと痛みがあるけれども、使うと意識が朦朧としてしまうのでご家族と過ごす時間が取れないというジレンマを抱えていました。
ですので、私も出来るだけ患者さんがご家族と過ごす時間を持てるように、痛み止めを使わないでよくなるようマッサージやポジショニングを行なっていました。
患者さんも、ご家族と会うと元気になって、お子さん達に料理を教えたりすることが出来るようになりました。
そうすると徐々に痛み止めを使う量が減っていったのです。
このお二人に教えて頂いたのは、患者さんの気持ちを理解して、そこに力を注いでいけば生命の力を引き出せるということです。
そしてそれが出来るのは看護師だけだろうということです。
治療ではなく看護だからできる、看護の真髄ともいえる貴重な体験ですね。
長田:もし彼らの希望を叶える努力をしないで、「食べられないから薬を飲みましょう」「モルヒネを使わないと苦しいから使いましょう」としていたら、多分、この患者さんたちは生きる意味を失って、本当に苦しい思いの中亡くなっていってしまったことでしょう。
もうこれ以上治療ができない、という状態にある方がどのようにその方の人生を全うするか。
看護はそこに関われる仕事だと思います。
看護師が辛くなった時には、最初に出会った2人やご家族と交わした「立派な看護師になる」という約束を思い出して、何とかここを乗り越えるためにできる限りの努力をしよう、後ろを向いていてはいけない、と思います。
学生時代の体験がその後の支えになっているのですね。
管理者になろう、という志は元々あったのでしょうか。
長田:元々そのつもりはありませんでした。
でも管理の大きな役割である、教育には初めの方から関わってきています。
始まりは看護師2年目になった時に今でいうプリセプターになり、新人の対応と実習生の面倒をみることでした。
暫くして教育担当に任命されまして、色々と試行錯誤しているうちに後輩たちにも慕われ、彼らが成長していくのをみるのも嬉しくなって、教育のやりがいを感じるようになりました。
その後も様々な形で教育に関わってきて、そのまま管理の道に進んできました。
合言葉は「3年で一人前」
新人教育にとても力を入れていらっしゃるようですが、具体的に教えて頂けますか。
長田:「3年で一人前」を合言葉に、教育のスケジュールを立てています。
1年目はとにかく職場適応と技術の習得をしてもらいます。新人が辞めていく2つの大きな理由は看護技術が覚えられないことと、医療事故を起こす不安です。
その2点を補完出来るよう技術チェックをしています。
2年目になったら1年目で身につけた看護技術を用いながら、患者さんに合わせた看護を展開できるかを見ていきます。
3年目では当院で採用しているチームナーシングのリーダーの役割が果たせるように訓練をしています。
自分の受け持ちだけではなく、チーム全体を見て、自分のチームメンバーを巻き込んで取り組むことを目標にしています。
この段階を終えると、大まかに病院のこともわかって、知識もついてきて自分から患者さんのご家族や医師、他職種と関係を持つことができるようになりますので、その状態を一人前としています。
それだけ年間の目標がはっきり示されていると、新人も安心して次に進めますね。
長田:看護師になりたいという志を持っていても、就職した後にどういうところに力を入れればいいのか、どういった勉強の仕方が求められているのか、は新人にはわかりにくいと思います。
ですので、こちらで予め目安を決めているのです。
勿論、4年目以降もクリニカルラダーを組んでありますから、それに沿って自分の目指す力をつけていって貰っています。
こちらの病院の教育プログラムを作る上で部長が焦点を当てたところはどこでしょうか。
長田:教育は教わる側は勿論ですが、教える側も成長できるという面があります。
当院では2年目の方にプリセプターをして貰っていて、経験するとやはり見事に成長します。
自分の仕事と能力開発だけに取り組むよりも遠回りになるかもしれませんが、人と関わることで相手の気持ちを感じ取る技術が身につきますのでいい看護師になっていくと思います。
あとは新人を育てるのは、それが新入職員でも師長でも誰でも、誰か一人の負担になるのではなくてチームです。
チームでやっているから色々な人から学びを得られ、協力してもらい、相談もできるようになります。
ですので、人との関わりを大切にしています。
後編に続く
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・No. 41 長田佳予子様(関越病院)後編「果たして患者をケアしているだろうか」
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