No.270 板倉病院 梶原崇弘 理事長・院長 前編:地域のために、病院機能を高め続ける。

インタビュー

千葉県船橋市で、昭和15年の開院から80年に渡り

地域医療を守り続けてきた医療法人弘仁会板倉病院。

今回は新しく理事長に就任された梶原崇弘院長にお話を伺い、

同院のめざす病院像や地域への目線について語っていただきました。

 

歴史ある二次救急病院

 

久保:今回は、医療法人弘仁会板倉病院の理事長・院長である梶原崇弘先生にお話を伺います。

まずは、貴院の特徴を教えていただけますでしょうか。

 

 

梶原:当院は、一般病床91床を持つ二次救急病院です。

船橋市にある病院の中では最も歴史が古く、

船橋市南部を中心に、かかりつけ医の先生方と協力しながら地域医療を支える役割を担っています。

 

 

私が院長として当院に赴任した平成24年以降は、救急医療・健診・在宅医療を三つの柱と位置づけ、

平成27年には新病院を、平成29年には画像検査センターを開設するなど、取り組みを進めています。

 

肝胆膵外科のスペシャリストとして

 

久保:ありがとうございます。

梶原先生は、平成24年に院長としてこちらの病院に赴任し、令和元年7月に理事長に就任されていますが、

継承されたということでしょうか。

 

梶原:はい。当院は、祖父が昭和15年に開設しており、

私は3代目として、父から法人経営を引き継ぎました。

 

久保梶原先生がこちらの病院を継がれるのは、既定路線だったのでしょうか。

 

梶原:必ずしもそうでは無かったと思います。

両親からも医師になれと言われたことはありませんでしたし、

私自身も、身近に医師という職業があったので、

まずは、医師になってからその先のことを考えようと思っていました。

 

 

実際、当院に赴任する前は、日本大学病院や国立がん研究センター中央病院で、

がん専門医としてキャリアを積んできましたので、

実家を継がず、大学に残るという選択肢もあったと思います。

 

 

久保:がん専門医ということですが、診療科としてはどちらがご専門でしょうか。

 

梶原:消化器外科です。

そのなかでも、肝臓、胆嚢、膵臓や胃といった上腹部外科が中心で、

がんセンターでも肝胆膵外科に所属し、肝臓と膵臓の手術ばかりしていました。

 

 

久保:何故、外科を選ばれたのですか。

 

梶原:私の母は内科医ですが、祖父も父も外科医です。

他にも、ブラックジャックなどの漫画でもそうですが、

当時は、男性は外科になるというイメージを持っていましたね。

それで、素直に外科医になりました。

また、私は結論を早く出したいタイプなので、

『自分で手術して切って治す』という外科が向いていたのだと思います。

 

 

久保:なるほど。

肝胆膵外科といえば、非常に難しい領域だと思いますが、

やりがいとしてはどのような部分にあるのでしょうか。

 

専門医としてのやりがい

 

梶原:おっしゃるように、肝胆膵、特に膵臓がんの治療は難しく、予後も非常に悪いです。

 


 

ただし、逆に言えば、誰がやってもある程度の結果が出る治療とは違い、

自分の工夫やこだわりによって、患者さんの生存率を改善できる可能性があるとも言えます。

私自身、一人ひとりの患者さんに対し、少しでも良い治療をするにはどうしたら良いか考え続ける日々でした。

 

 

例えば、がん病巣を切除する場合には、手術所見に従ってただその範囲を切るのではなく、

周りの血管やがんの状態などを目で見て、ベストな切断部を常に意識しましたし、

縫合を行う際も、どう結び、どう結び終われば患者さんにプラスになるかを考え続けてきました。

2009年時は、日本で一番多く膵臓手術を行うなど、たくさんの症例を経験してきましたが、

そうした積み重ねの結果、患者さんの生存率も良かったと思います。

 

 

久保:ありがとうございます。

梶原先生は、消化器外科医としてバリバリ活躍してこられ、その後大学に残る選択肢もあったということですが、

こちらの病院を継ごうと思われたのは何故ですか。

 

救急医療・健診・在宅医療を柱にした病院改革

 

梶原:私が赴任する前、当院は少し機能を落としていました。

医師数も今より少なく、地域の救急ニーズにも充分に応えられない状態で、

経営も赤字に転換していました。

 

 

その一方で、船橋市の人口は右肩上がりで増加を続けており、

市内で発生する救急搬送件数も、それに伴い増え続けているような状況だったのです。

また、船橋市は、人口に対する病院数が全国平均と比較しても著しく少ない地域です。

このまま当院が機能を落とせば、地域住民が安心して暮らすことができなくなるかもしれないと思い、

病院機能を立て直すため、院長就任を決意しました。

 

 

久保:病院を立て直すために柱とされてきたのは、

救急医療・健診・在宅医療だとお話がありましたが、

具体的にはどういった改革を行ってこられたのでしょうか。

  

梶原:救急医療については、『断らない救急』の徹底です。

 

 

先ほども申し上げたように、赴任当初は医師数も限られていましたので、

救急搬送をお断りするケースも多く、年間約600台を受け入れる程度でした。

その一方で、父が医師会で理事をやっている時に、日本初のドクターカーを運用するなど、

当院にとって救急医療は特別な意味を持っており、何としても機能を高める必要がありました。

 

 

私は、可能な限り当院で救急搬送をお受けできるよう、

救急の専門医を配置するなど体制を整備し、『断らない』という意識改革を進めてきました。

その結果、現在では年間2450台程度の救急車を受け入れており、

この数字は、病床あたりの受け入れ数で、全国トップクラスです。

 

 

久保:健診についてはいかがでしょうか。

 

梶原:健診領域では、平成29年の画像検査センター開設が大きいと思います。

MRIやCT、マンモグラフィなどを完備し、高精度な画像診断が可能になっています。

 

 

また、近隣クリニックとの画像連携システムを導入し、

クリニックの先生がMRIやCTを撮りたいと思った時には、

すぐに当院の画像診断をオーダーしていただけます。

撮影した画像をお送りする際は、必ず無料で読影レポートもつけるようにしていますので、

クリニックの先生方からも喜んでいただいています。

 

 

久保:なるほど。『センター』という名前には、

貴院だけではなく地域で活用していただくという意味が込められているのですね。

最後に在宅医療についてはいかがでしょうか。

 

梶原:当院は、私が院長に就任した平成24年から、機能強化型在宅療養支援病院の認定を受けており、

地域の在宅医療を担うクリニックと連携しながら、足りない部分は自法人でも訪問診療・訪問看護を行うなど、

今後増加が予想される在宅医療ニーズに応えられる仕組み作りを進めています。

 

 

久保:ありがとうございます。

先生のお話からは、地域の医療機関等との連携を重視されているように感じましたが、

船橋市の地域医療連携はどういった状態なのでしょうか。

 

船橋市の地域医療連携

 

梶原:船橋市は、非常に連携の良い地域だと思います。

医師会がしっかりしており、行政とも非常に仲が良いです。

 

 

また、病院間の関係も良好で、三次救急と二次救急の棲み分けや連携も上手く機能していますし、

私が他病院に行って講演するなど、日常的な交流もあります。

ですので、今後はさらにそういった連携を強めていき、

地域の医療を守っていかなければならないと思います。

 

 

後編に続く

Photo by Carlos