埼玉県久喜市の東鷲宮病院は昨年秋、新築移転したばかり。
ピカピカの新病院の待合室には
移転前から長年通院しておられるたくさんの患者さんが診察を待っておられました。
このたび院長の水原章浩先生に、病院の特徴と、
先生が力を入れている褥瘡のラップ療法についてお聞かせいただきました。
新築移転し、きれいに生まれ変わった病院
久保:今回は東鷲宮病院院長の水原章浩先生にお話を伺います。
どうぞよろしくお願いいたします。
水原:よろしくお願いします。
久保:早速ですが、貴院の特徴をお聞かせください。
建物がたいへんおきれいですが、新築したばかりなのでしょうか。
水原:昨年2018年11月に新築移転しました。
当院の開設は1984年(昭和59年)ですが、その当時は付近に病院がなかったそうで、その頃から当院は地域に根付いた医療を提供しています。
現在も地域の人々に密着したホームドクター的な存在として機能していますし、
近隣の開業医の先生方や施設の皆さんと密接な連携を構築しています。
私がモットーとしている「地域連携の構築」をしっかり行っているのが当院の特徴といえます。
新築したことをきっかけに、地域医療のためにさらに邁進していこうと気持ちを新たにしているところです。
久保:後ほどその辺りのことを詳しくお聞かせいただきますが、
その前に先生のご経歴についてお尋ねします。
医師になろうとされたのはどのようなことからですか。
水原:私の祖父が産婦人科の医師で、私自身、孫の第一号として祖父に取り上げられました。
子どもの頃から医師として働く祖父の姿を見て育ち、
小学生の卒業文集で「将来の夢は祖父のような医者になること」と書いていました。
心臓血管外科医時代
久保:筑波大に進まれ、心臓血管外科をご専門になさったと伺いました。
水原:大学では野球部に所属していましたが、野球部の監督が心臓血管外科のドクターだったため、
有無を言わさず引っ張り込まれた感じです。
当時外科は花形で、はじめから外科系に進もうと思っていましたので不満はなかったものの、
いま思えば一番たいへんな科だったと思います。
朝から晩までの手術はざらでしたし、24時間手術というのも記憶にあります。
新米レジデントのときはICUに何日も泊まりこむこともあったので、
先輩医師からは2週間分の下着を買ってくるようにと言われたこともあります(笑)。
体力勝負でまるで運動部のノリ、それが性にあっていたかもしれません。
久保:その後、現在の院長職に就かれるまでの職歴をお聞かせください。
水原:筑波大の後は女子医大第二病院(現在の東医療センター)で心臓外科医療にどっぷり浸かりました。
その後は北茨城市立総合病院、
自治医大大宮医療センター(現在のさいたま医療センター)などで心臓外科医や一般外科医として勤務し、
2001年に当院に着任、副院長を経て2年前に院長に就任しました。
久保:院長に就任される際、決意されたことはございますか。
水原:考えていることは基本的に副院長時代から変わっていません。
医療というものはわれわれ医師だけでは成り立たず、
看護師さんや管理栄養士、リハビリ、検査技師などすべてのコメディカルスタッフが力を合わせて、
はじめて一人の患者さんを治すことができる、すなわちチーム医療で行うということです。
すべての職種が上手く機能して、はじめて患者がよくなっていくわけですね。
チーム医療はいまでは当たり前のことですが、いつもそのような信念でやってきました。
院長に就任しても同じ姿勢でスタッフと向き合っています。
ラップ療法との出会い
久保:先生は褥瘡治療、特にラップ療法でご高名です。
褥瘡治療にはコメディカルが関わる部分が大きいと思いますので、
その点からも、今おっしゃったコメディカルスタッフに接する姿勢を大切にされていらっしゃるのではないかと感じました。
水原:当院の看護スタッフはみな私と同じ考えで褥瘡をケアすることができます。
ひとつのキズに対して看護スタッフ皆と頭を悩ませながら、
そして治療効果をフィードバックしながら日々研鑽して相対しているので、当然同じ考え方になるわけです。
久保:そもそも心臓血管外科医でいらした先生が褥瘡治療を手がけられるようになったのはなぜですか。
水原:2002年度の診療報酬改定で「褥瘡対策未実施減算」が定められた時、
褥瘡対策委員長に任命されたのがきっかけです。
大きな声では言えませんが、それまでは「褥瘡は看護師がみるものだ」という認識で、真剣に対応したことはありませんでした。
ところが当時うちの病院には褥瘡の患者さんがたくさんいらしたのですね。
遅ればせながらことの重大性に気付き、それからは褥瘡学会に参加するなどして勉強を始めました。
そこでラップ療法に出会ったことをきっかけにスタッフと臨床研究に取り組み、
その成果を学会で報告したり、論文にしたり、著書を出したことから深みにはまっていったというわけです。
ラップ療法は当初、医療用品でないものを使うということで批判的な意見が大勢を占めていました。
そんな雰囲気の中で学会発表を続けるものですからまさに異端児扱いです。
影で「ラッパー」とあだ名をつけられて、目も合わせてくれない先生もいました。
しかし“いいものは良い!”の信念で研究を重ねていった結果、
ラップ療法の治療効果が従来の治療法と同等であることを証明し、論文で発表しました。
この成果によってラップ療法が褥瘡ガイドラインに掲載されたのです。
褥瘡治療に新たな歴史を加えることができたと自負しています。
個々のキズに応じた適正なモノを使いたい
久保:今はラップ療法に否定的な意見はトーンダウンしているのですね。
水原:今は医師よりもむしろWOCナース(皮膚・排泄ケア認定看護師)から
「まだラップなんてやっているのですか?」という言い方をされることがあります。
要するに専用の医療用品があるのだからそれを使えば良いという意見です。
私は創傷治療を専門とする形成外科医や皮膚科医ではありませんが、廉価なものを上手く使って治せるなら、当然その方がいいに決まっているという考えです。
高価な創傷被覆材に匹敵する代替手段があればWOCナースもその方法を知っておいて損はないと思うのですが。
久保:先生はどちらかというと、できる限り先進医療器具は使わずに治療しようとされているのでしょうか。
水原:私がラップ療法しかしない?そこがまた誤解されやすいのですが、
うちでは通常の創傷被覆材を多数のケースで使っていますし、
最先端治療であるVAC療法も積極的に取り入れています。
キズの状態はもちろんですが、入院、外来、在宅といったさまざまな診療環境に適した治療法を臨機応変に使い分けしているわけです。
そういう意味では医療用品、台所用品両者のいいとこ取りでハイブリッドな治療を提供しているといっていいでしょう。
私は決してラップ療法しかしない医者ではありません。
むしろラップ療法をしたことがない、
ラップ療法の良さを知らない大学病院や大病院のスタッフが可哀想だなと思っているくらいです。
久保:傷の状態や環境に応じて適宜治療手段を取捨選択しているということですね。
そのような個別医療を的確に進めていくには、
ケアの実際を担うコメディカルのスキルが経過に影響することもあるのではないでしょうか。
水原:おっしゃる通りです。
褥瘡治療は看護スタッフの協力なしでは全く成立しません。
患者さんを24時間みているのは看護師さんですからね。
したがってキズの変化に気付いて適切な処置ができるかは看護スタッフのスキルにかかっているわけです。
その点当院の看護スタッフは高度なスキルを持っているので、私が不在の時も多くを任すことができます。
後編に続く