東芝林間病院はその名称からわかるように東芝関連の病院で、
戦後の経済成長とともに歩んだ歴史があります。
院長の清水直史先生へのインタビューの前編では、
その歴史の一端と現在の特徴などをお聞かせいただきました。
高度経済成長を背景に「やさしさ」を充実
久保:本日は東芝林間病院院長の清水直史先生にお話を伺います。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
清水:よろしくお願いいたします。
久保:最初に貴院の特徴を教えてください。
清水:当院の特徴はやはり東芝健康保険組合直営の準公的病院であることが第一です。
昭和28年の開設で、その後の高度経済成長に加えて高齢者が少なかったという時代背景もあり、
当時、大企業の健康保険組合の収支は黒字で結構余裕があったようです。
そのため当院も手厚い人材を揃え、患者さんにやさしい医療を実現してきました。
その後、急速な高齢化の進展による健康保険組合の支出の増加と母体企業の経営環境の変化もあって、
病院経営としては徐々に厳しくなってきています。
しかしそうであっても、現在の職員の心の中にはかつてと同じく
「やさしい気持ち」があふれているように感じています。
もう一つの特徴は、これもやはりかつての名残と言えるかもしれませんが、敷地面積が広く、
ゆったりとした設計で建てられていることです。
また駅に非常に近くて利便性に優れ、外来患者さんに好評です。
入院機能としては、急性期と回復期、それに地域包括ケア病床を有機的に活用し、
地域に密着して医療を提供しています。
なお、訪れる患者さんの大半は東芝とは関係のない一般の方々です。
久保:今お話しいただいた中に「患者さんにやさしい病院」という言葉がありましたが、
先生はそれをどのような時にお感じになりますか。
清水:私は今から16年ほど前に大学から当院に異動してきたのですが、見学に訪れたその時、
見事に手入れの行き届いた緑の中にたたずむ病院の姿に感心しました。
「こういう細やかな環境を維持してそこで働いている職員の方って、きっとやさしい方だろうな」
と感じたものです。
そして実際その通りでした。
根っからの生物好き
久保:確かに、駅からたいへん近いにもかかわらず森の中にあるような、落ち着いた素晴らしい環境ですね。
続いて先生のご経歴について伺いたいのですが、医師を志されたのはどのような理由からでしょうか。
清水:小さい頃から生き物が大好きだったのです。
北杜夫の「どくとるマンボウ」の「航海記」や「昆虫記」に夢中になっていました。
将来の進路を考え始めるまでは、具体的に医師を考えていたわけではないのですが、
生命に接することができる職業に絞った結果、医学部を選択しました。
久保:どのような学生時代でしたか。
清水:私は東京で育ったため地方に魅力を感じて新潟大に進みました。
進学後も自然に親しむためワンダーフォーゲル部を作り、新潟や長野の山をたくさん登りました。
QOLを重視する整形外科へ
久保:ご自身で新しいクラブを立ち上げられたのですね。
ところで、先生は整形外科をご専門にされていますが、どのような経緯で整形外科を選ばれたのですか。
清水:手先が器用だったもので当初から外科系を考えていました。
外科の中でも整形外科の教授が非常に魅力的な方で、その影響を受けたという面があると思います。
整形外科は、例えば心臓外科や腫瘍外科で生じるような
生命に直結する場面や緊急対応すべき頻度は少ないですが、逆に言えば
時間をかけて患者さんの訴えに耳に傾け、それぞれの方に最適な治療法・術式を選択できる診療科です。
治療効果がQOLの改善という、目に見えるかたちで現れることも魅力です。
久保:それでは比較的早い段階で「目指すは整形外科医」と絞り込んでいらしたのでしょうか。
清水:実際は他の学生と同じように最後の6年目まで迷いました。
当時は卒後研修の後に進路を決めるのではなく、卒後すぐに専門科を決めるのが一般的でしたから。
久保:ご卒業後の経歴をお聞かせください。
清水:卒業後は東京に戻り、東大整形外科の医局に入りました。
そして関連病院での勤務を続け、先ほど申しましたように16年前に当院に着任しました。
院長就任は3年ほど前のことです。
生物への興味から人への興味、組織への興味に
久保:病院長に就任された時、何か決意されたことはございますか。
清水:医師を目指した理由として「もともと生物に興味があったから」と申しましたが、
生物としての「人間」も興味の対象でした。
学生時代に新しいクラブを作ったのも、そのような興味が関係しているのかもしれません。
今でも個々の人間や、人間の集団である社会に関心を引かれます。
ですから組織の中で多くの人との関係を調整しながら物事を進めるということが
あまり苦にならず、取り組むことができたと思います。
久保:ただ、病院のマネジメントとなりますと、
臨床医としての勤務とは大きく異なるのではないかと思いますが。
清水:マネジメントのポイントを挙げるとすれば、やはりコミュニケーションだと考えます。
いくら精緻な仕組みを作ったり、スタッフのモチベーションを刺激したりしても、結局、
個人個人がどのような思いで仕事に取り組んでいるかを把握することが必須です。
その上で全員が共感を持って理解しあって、少しずつ努力できるようにしていけば、
組織として増幅した力を持って動いていけます。
そのためにはやはり普段からコミュニケーションを大切にすることが一番だと思います。
久保:スタッフの方とコミュニケーションを充実させるために、どのような工夫をなさっていますか。
清水:例えば当院では以前、あまり医局会が開かれていなかったのですが、
私が院長に就任してからは毎月開催するようにしています。
また看護部長、事務長とは毎朝ミーティングを行い、
さらに良好なコミュニケーションを病院全体の毎期の目標にしています。
後編に続く