No.258 狭山神経内科病院 沼山貴也 院長 後編:長期療養の多い神経難病の看護

インタビュー

 

前編に続き、医療の進化について、特に神経内科看護とその関係について、

沼山先生に語っていただきました。

 

医療のAI化と神経内科医療

 

荒木:少し話題を変えまして、最近話題の医療のAI化についてお尋ねいたします。

私どもは看護師向けのWebメディアなのですが、医療のAI化により看護業務はどのように変化して行くか、

何かお考えがございましたらお聞かせください。

 

沼山:医療にAIが入ることで変化するのはむしろ医師の業務ではないかという気がします。

人間よりもはるかに膨大なデータを蓄え得るコンピューターは特に診断のプロセスにおいて、

活用の拡大が考えられます。

 

 

ただ、私の専門領域での話になりますが、例えば手の震え、不随意運動を訴える患者さんを前にしたとき、

もちろんその症状を動画撮影しコンピューターで解析するという手法も可能かとは思います。

しかし振戦のパターンを判定して患者さんの背景因子や随伴症状と合わせて

「この震えは何なのだろう?」と考える「神経症候学」は、明確な捉えどころのない情報を

取捨選択しながら疾患を鑑別し、確からしい診断へ絞り込んでいくという作業です。

このような作業はたとえAIが進化したとしても、最後まで人間が担う仕事として残るような気がしています。

 

 

同じようなことは看護師業務についても言えるかもしれません。

患者さんの一番身近にいて行うケアのうち、

コンピューターがとって代われるところがあるだろうかと考えても、なかなかイメージしづらいです。

看護師の仕事は、やはり依然として人間でなければできない部分が大きいのではないでしょうか。

 

神経内科における看護の特殊性

 

荒木:そうしますと、看護師の業務で一番大切だと思われることはどのようなことだとお考えですか。

 

沼山:患者さんに最も近い存在である看護師への期待として、患者さんの苦しさを理解する、

患者さんの訴えを聴くことが最初にあり、常に寄り添う立場でケアをできることが理想です。

ただし、当院で診ているような神経難病の患者さんはコミュニケーションの疎通も難しい方が多く、

訴える内容を読み取るだけでも大変なことです。

 

 

また訴える内容を理解できたとしても、

その対応は看護師あるいは医師だけでは完結できないことが少なくなく、

多職種によるチームでの対応が必要です。

チーム医療の重要性は多くの領域でかなり以前から言われてきましたが、

神経難病の現場では特にこれが重要です。

多様な職種のスタッフが連携して患者さんを支えていく。

そういう中で、やはり一番患者さんの身近にいる看護師の役割が、たいへん大事なのではないかと思います。

 

 

荒木:看護師については離職率の高さがよく指摘されますが、その点はどのようにお考えでしょうか。

 

沼山:離職される直接の理由は一人ひとり異なりますが、自分の過去の経験から推測すると、

やはり人間関係の問題が大きいのではないかと思います。

人間関係に支障があると、たとえ待遇が良くても長くは働けないのではないでしょうか。

そうだとすると、職場の雰囲気やスタッフ間の意思疎通を改善するといったことが、管理職、

特に院長である私の重要な仕事になってきます。

管理する者がそういった問題点を常に把握していることが肝要です。

 

どんなときも明るく振る舞いたい

 

荒木:職場の雰囲気を良くするために先生が心がけていることはございますか。

 

沼山:院長職を務めていると何かとたいへんなことがあるのは事実です。

しかしどんな時でも不機嫌な顔は見せず、職員の前では明るさを失わないようにしています。

また、人から相談を受けたら断らずに耳を傾けることを心がけています。

 

 

また、当院の特徴として、先ほどから申しておりますように

神経難病の患者さんが多くいらっしゃいますので、この領域に無関心な方は

長く働き続けることが困難だと思います。

ですから、「うちの病院はこういう特徴があります」ということを人に向けて発信し、

興味を持った方に就職していただきたいと考えています。

実は今回、インタビューのお話を受けましたのも、そういった意図を持ってのことでした。

 

 

荒木:このようなインタビューにお応えいただくことのほかに、

どのような手段で貴院の特徴をアピールされていますか。

 

沼山:正攻法は学会発表ですね。

症例報告などを積極的に行っています。

ただ、医師対象の学会に参加する看護スタッフはごく少数ですので、

例えば地域の保健所から講演の依頼があった時にはできるだけ応じるようにしたり、

患者さんの家族会のような場所にもよく顔を出すようにしています。

 

 

2年ほど前からは、医療関係者を対象にした地域公開講座と病院の見学会を開催しております。

このような活動を通して、少しでも当院の存在と特色を理解していただければ幸いです。

 

職員からのプレゼント

 

荒木:そろそろお時間が残り少なくなってきましたが、

先生の仕事以外の時間の使い方を教えていただけますか。

 

沼山:もともとそれほど趣味がある人間ではないので、休みの日は家でごろごろしていることが多いですね。

と申しますか、実のところ、日頃の睡眠時間をいかに確保するかで苦労しています。

健康に気をつけるために休みの日は身体を休ませるということです。

ちょっと無趣味の言い訳のようですが。

 

 

荒木:ふだん大変お忙しくしていらっしゃるからですね。

 

沼山:本当は旅行が好きです。

二人の子どもがそろそろ大学を卒業するので、今のうちに家族旅行を、などと考えています。

 

 

荒木:ところで、あちらのケーキのお写真と似顔絵はどのような経緯で。

 

沼山:ケーキの写真は平成26年に院長に就任して最初の誕生日に、

職員が祝ってくれた時の記念で、大事にとってあります。

似顔絵の方は、院内で「画伯」と称される絵の上手な薬剤師さんに描いていただいたものです。

自分でも「似ているなあ」と感心しています。

 

看護師へのメッセージ

 

荒木:では最後に、看護師へのメッセージをお願いします。

 

沼山:神経内科専門という病院は当院以外にそれほど多くありません。

当院には、神経疾患の長期療養を担うという特徴がありますので、

まずは神経疾患のケアに関心がある方にご興味を持っていただきたいと思います。

 

 

加えまして、少し抽象的な言い方になりますけれども、

治療法がない疾患に対して病院として何ができるのかということを、我々は常に悩み考え続けています。

難病とともに生きる人への医療・看護を提供することが当院の使命ではあるのですが、

ではどういったことができるのかを思案し、日々工夫しています。

 

 

ひと言ではなかなか言い尽くせない取り組みなのですが、

こういったことに共感していただける方に、入職していただきたいというのが正直なところです。

もちろん、現在はそこまで意識はしていないけれども関心はあるという方に、

一定期間であっても当院に勤務していただくことは、

将来に向けてたいへん意義があることではないかと考えています。

 

インタビュー後記

入院患者さんのうち最も多く占めている疾患が筋萎縮性側索硬化症(ALS)だという狭山神経内科病院。

顕著な改善を期待することが難しいケースが多い中、医療スタッフの方々は日々苦悩を重ねながら、患者さんの健康と幸せを支える努力をされているようでした。

もちろん看護師にも神経難病と向き合って行く姿勢が求められるのでしょう。

沼山先生がおっしゃった「どんなときも明るく振る舞いたい」という言葉の重さが、ズシッと響くインタビューでした。

 

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Photo by Carlos