No.254 宮川病院 宮川政久 理事長・院長 後編:医療に必要な奉仕の精神

インタビュー


前編に続き、看護師に焦点を当て、宮川先生のお考えをお聞かせいただきました。 

 

患者さんの痛みを感じられる看護師

 

中:入院から在宅へと医療システムが変わっていきますと、医療職者もそれを前提に、変化を受け入れ、

自分がどのように貢献できるかを考えていく必要がありますね。

 

 

宮川:現在、看護師のシステムもいろいろ変わってきていますね。

当院にも認定看護師や特定看護師などが増えてきました。

では、これからの在宅医療の現場で活躍できる看護師はどれだけいるのでしょうか。

看護師なら誰でも在宅看護をできるのかと言えば、決してそんなことはないはずです。

 

 

病気は看るけれども病人を看ない看護師、例えば褥瘡の管理は上手だけれども

患者さんの痛みにはあまり目を向けない看護師はいないでしょうか。

 

 

成績の良い人が必ずしも良い看護師だとは限らず、成績が少しぐらい悪くても患者さんを大事にし、

患者さん中心の医療・看護に挑戦し続ける看護師がいま求められています。 

 

 

中:ところで先生は、看護師の特定行為に関して、どのようなご意見をお持ちですか。

 

宮川:特定行為を成すべき資質のある人は積極的に携わるべきだと思います。

ただし、看護経験が不十分であるのに特定行為を行うのはどうなのでしょうか。

少なくとも看護師長レベルを務め、後輩や部下の看護師を指導し、

看護の全体像を把握した上ですべきではないでしょうか。

そうでないと、我々医師の側も信頼して仕事を移譲できないと感じます。 

 

医師養成の課題

 

中:その一方で医師の数はもうあまり増えていきませんね。

医療現場の人手不足が加速されませんか。

医師の育成という点について、ご意見をお聞かせください。

 

宮川:医師の育成に関しては、現在の高校教育にも課題があると感じています。

どういうことかと申しますと、

単に偏差値が高いからという理由で医学部進学を勧める傾向があまりに強すぎると思うのです。

 

 

医師になるのに、ある程度の資質は必要と考えますが、特に頭が良い、偏差値が極端に高い学生は

医師よりも科学者等の学者になればよく、医師に向いているのは学業がすごく秀でていなくとも、

患者さんの痛みがわかり、患者さんの気持ちになって治療できる心の優しい、

視野が広い、気配りのできる人間です。 

 

 

中:そういうタイプの医師に診てもらった方が、患者さんは幸せですね。

 

宮川:絶対にそうです。

今、働き方改革で勤務医の労働時間の上限が検討されていますが、

そもそも医師の生活とは大変不規則なものです。

患者さんの容態次第で1週間家に帰れないことなどざらにあります。

 

 

私のように医師家系に育ったものはそれを当然のこととして思うのですが、

そうでない環境に育ち医師になった人は、患者さんよりも自分の生活を優先することが多いように感じます。

もっとも、実際に過労死に至る医師もいますから、非常に難しい問題ではありますが。

 

医療というサービス業に必要な奉仕の心

 

中:看護師の働き方についてはどのようにお考えでしょうか。

 

宮川:看護師も、結局のところ、我々と同じだと考えます。

今の看護師は2交替あるいは3交替で勤務時間がある程度守られていて、

我々ほど不規則な勤務はしていないと思います。

 

 

しかし基本的にはやはり、技術を身につけることも大事だけれども、

心がないと良い看護師になりきれないのではないでしょうか。

 

 

中:やはりそうですね。

医療職のベースとして一番大切なのは、医療に必要な心というころですね。

 

宮川:看護学生が勤め先の選択時に一番望むこととして、

土日にきちんと休めることや夜勤がないことを挙げる人が多いそうです。

しかし私は、土日にきちんと休めて夜勤がないことを望むのなら、

看護師になってはいけないのではないか考えます。

 

 

看護師に限らず、警察官、消防士、公共交通機関の職員など、社会の公器に身を置く者は、

自分のことより使命を優先する考えを持つものです。

このことを理解していない限り、良い看護師にならないと私は思います。

 

 

医療はある意味、全くのサービス業です。

サービス業に就く人たちが、奉仕の精神を失ってはいけません。

学生の頃の成績が良く、医療や看護のテクニックが優れていても、

奉仕の精神がなかったら患者さんは可哀想です。

 

選ばれる看護師になってほしい

 

中:そういう意味では、医師も看護師も、国家試験を受けてライセンスを取得する大前提として、

奉仕の心を持っていることが求められますね。

 

宮川:医療職というものは「自分主義」ではなく「相手主義」です。

相手、つまり患者さんがあって自分があるわけです。

自分主義で考えていては我々の仕事は務まりません。

なぜなら、患者さんは我々を選べるのに対して、我々は患者さんを選べないのですから。

 

 

中:おっしゃる通りですね。

 

宮川:ですから、我々は選ばれる医師にならないといけないし、

この記事をご覧の皆さんは選ばれる看護師にならないといけないということです。

 

 

中:お話をまとめていただきありがとうございます。

 

宮川:ほかの方々へのインタビューとは、だいぶ異なる内容だったかもしれませんね。

 

中:日本の医療を今後どのようにしていくかを真剣に考えてらっしゃるからこそのご意見だということが、

強く伝わってまいりました。

ありがとうございました。

 

宮川:ありがとうございました。

インタビュー後記

医療は政治。

中々伺うことがない宮川先生のお言葉に驚きましたが、内容を伺い納得いたしました。

医療職はとかく「良い医療を提供する」ことだけに集中しがちです。

一方で、医療の問題や患者さんの訴えをきちんと政治に反映してもらうため 医療職としての声を届ける役割も忘れてはならないのかもしれない。

その行為もまた、良い医療を提供することに繋がっていることを教えていただきました。

 

宮川病院関連記事

病院紹介

宮川理事長・院長インタビュー前編

宮川理事長・院長インタビュー後編

Interview with Toan & Carlos