No.252 済生会神奈川県病院 長島敦 院長 後編:地域で困っている人のための病院

インタビュー

 

前編に続き長島先生に、看護師への期待や、看護師が人間として成長していくために必要なこと、

そして普段の時間の使い方などをお尋ねしました。 

 

 

看護の良し悪しで患者さんの転帰が変わる

中:患者さんに対する十分な説明の重要性を先生自身のご経験をまじえて解説いただきました。

先生がおっしゃるその重要性は、看護師にも共通することのように感じますが、いかがですか。

 

長島:おっしゃる通り、看護師も同様です。

まず、患者さんと顔をあわせ、お話を傾聴する。

そして、その人がどう思いどう考えているか、ご家族は何を期待しているか、

それらを理解することからスタートします。

 

 

その理解から、どういう看護をすべきか方向性を決め、実践し、

本当によいかたちの看護ができた場合に信頼関係が構築され

「この看護師さんは素晴らしい」と評価していただけると思います。

このようなプロセスに加えて看護師は笑顔が大切です。

この点は本当に必須だと思います。

 

 

中:看護師の話題に関連して伺いますが、

これから将来的に看護師の役割はどのように変化していくと先生はお考えですか。

 

長島:ますます重要になっていくと思います。

「患者さんを元気にする」という医療という枠組みの中で、看護師の割合が今後増えてくはずです。

なぜなら治療において結局のところ医師は限られた部分を行うだけで、肉体的なサポートにしろ、

精神的なサポートにしろ、患者さんに接する部分の多くは看護師が担っているからです。

看護の良し悪しによって患者さんの転帰は変わるとも言えます。

 

「本学」と「末学」

中:医療における看護師の役割が、今まで以上に重くなるということですね。

 

長島:特に精神的なファクターが大きいと思います。

患者さんに心地よく入院生活を送っていただくほど、回復も早まると思います。

「優しい心」を持った看護師がその手腕を十分に発揮できるように、看護師でなくてもできる仕事は

他の職種にシフトすることも、今後は必要かもしれません。

 

 

中:先生がおっしゃる「優しい心」を培い、

人としての幅を広げ人間力を高めていくにはどうしたらよいのでしょうか。

業務の多忙さもあり職場の医療機関と自宅の往復ばかりになってしまっている看護師も少なくないようです。

何かアドバイスとなるお考えをお聞かせください。

 

 

長島:それは「本学」と「末学」という話になりますね。

末学は自分の仕事に直結する知識で、本学はその人の人格を高める学のことをいい、

後者を育む方法の一つはやはり自分で経験することだと思います。

実体験を積むこと以外に、多くの人と接して立ち振る舞いや考え方や吸収すること、もう一つは読書です。

この三つから学ぶしかないと私は思っています。

 

 

中:確かに一冊の本との出会いで人生観が変わることがありますね。

看護学校や看護大学で学び看護師として働き始めると、物事を別の側面から捉え直すという発想が少なく

なってしまう可能性もありますので、たいへん具体的かつ実践的なアドバイスをいただけたかと思います。

 

地域密着の「温かい医療」を提供する

中:ここで話題を変えて貴院について伺いますが、貴院の特徴はどのような点にあると思われますか。

 

長島:先ほど少し申しましたが「当院は地域の困っている人たちのために存在している」と常々

職員に伝えています。

つまり当院は、地域に密着した医療を実践しています。

地域で困っている人たちとは、地域住民や実地医家の先生方です。

その方々との関係を築くために、スタッフができるだけ院外へ出ていくようにしています。

 

 

例えば疾患に関する講演会にスタッフを派遣したり、神奈川区の区民祭りにも参加します。

病院が地域の催事に参加するとなると、血圧測定や医療相談が多いと思いますが、

当院では「地域と仲良くなる」ことを一番の目的として、栄養バランスの良いスープやサーターアンダギーという

沖縄のお菓子を栄養科が作り、皆さんに提供したりします。

 

中:地域社会から請われてではなく、積極的に地域活動に参加されていらっしゃるのですね。

 

長島:地域包括ケアシステムがスタートした当時、このような社会システムの構築は

行政主導でなければできないと考えていたのですが、それだけでは無理であることがわかりました。

そこで当院で行うカンファレンスに区役所のスタッフをお呼びして、

地域の人たちが何に困っているのかを理解していただくようにしています。

 

 

保健所との繋がりも強くなりましたし、いま当院は本当に地域に密着した病院になったと思います。

高度急性期病院では在院日数等の関係もあり、どうしても「冷たい医療」になってしまいがちですが、

ここでは「温かい医療」を提供できます。

そういう医療をしたいという医療職者にとって、当院は最適の職場だろうと感じます。

 

ぼーっとする時間

 

中:最後の質問ですが、先生はふだん、お仕事以外の時間をどのように使っていらっしゃいますか。

 

長島:あまり趣味のようなものはありません。家に帰って妻の手料理でお酒を飲むのが楽しみなくらいです。

あとは空を眺めたり、海辺に行くことぐらいでしょうか。

先日、病院の窓から空を見上げているところを看護部長に見つかってしまい、

「先生、大丈夫ですか?」と声を掛けられました。

 

 

中:頭の中を一回クリアするために、何も考えない時間を作っていらっしゃるのですか。

 

長島:そうですね。

新しいアイデアというものは、考えようと思って考えた時には出て来ないもので、

何かの拍子に「これやってみようかな」と思い浮かぶ感じです。

ですから海に行って波の音を聞いている時も、何かを考えているわけではなく、

ただぼーっとしています。

江ノ島によく行くのですが、そこに行くモノレールの中で突然よい案を思いついたりすることがあるので、

いつも筆記用具を欠かさずに携えています。

 

 

中:アイデア帳ですね。

そのアイデアを元に、貴院がさらに変化していかれるのでしょうか。

 

長島:苦しみながらですが、変化を楽しんでいます。

 

 

中:本日は先生のご経歴やマネジメントのポイント、看護師の未来像など、

学ぶところの多いお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 

長島:ありがとうございました。

 

インタビュー後記

困難に立ち向かう情熱とパワーを常にお持ちの長島先生。

 
患者さんの希望を尊重する医療を提供することに対する強い信念をお持ちです。
 
何が正解かを常に問い続け、自らやりたいことを実践するのではなく、
 
患者さん主体の医療を模索し、時として苦しい決断だとしても、
 
信念を貫かれるお話は、とても感銘を受けました。
 
患者さんにとっても、家族にとっても、自らが意思決定することが、いかに大きな責任を伴うかを知る必要があります。
 
そこに医師と患者さんとの新しい関係が生まれていくのでしょう。

 

 

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