前編に続き柴田社長に、会社経営の視点から見た医療の問題、看護師への期待、
二酸化塩素による空間除菌の可能性と夢を語っていただきました。
セルフメディケーションによる医療費削減
中:貴社の経営に関わるようになられた後、業績はいかがでしたでしょうか。
柴田:お陰様で私が当社に入り5年ほどで上場を達成し、
二酸化塩素を用いた衛生管理製品のクレベリンも、正露丸の売り上げに匹敵するほどに成長しました。
この両製品は現在、国内のみならず海外でも売り上げを伸ばしています。
いま日本では医療費の高騰が問題になっていますが、
その解決策の一つにセルフメディケーションの普及があります。
OTCや衛生管理製品を適切に用いながら疾患を予防・早期対処し、改善しなければ医師の診察を受ける
という、いわば社会的なトリアージを推進することで、医療費の適正使用ができるはずです。
二酸化塩素のポテンシャル
中:二酸化塩素について少しご解説いだけますか。
柴田:二酸化塩素は殺菌作用を有し、その作用は塩素より強く、
ヒトに対する有害性を有さない低濃度のレベルでの除菌が可能です。
我々はその効果と安全性を両立し得る域値を見出し、これまで複数の英語論文で発表してきています。
また今年の日本癌学会ではランチョンセミナーを共催し、私が講演しました。
「なぜ癌学会で?」と思われるかもしれませんが、がんの原因の15%は感染症と言われています。
例えばピロリ菌による胃がん、肝炎ウイルスによる肝がん、パピロマウイルスによる子宮頸がんなどです。
ウイルス・菌の感染を減らすことが一部のがんを減らすことにもつながり、
両者は決して無縁ではありません。
また、災害時の感染症対策の一つとして空間除菌が期待されます。
その切り口からは、やはり今年開催されたアジア太平洋災害医学会にて講演させていただきました。
中:社長がドクターでもあるため、会社のマネジメントとともに広報活動も同時にできることは
有利な点とお考えですか。
柴田:それが可能なのは既に多くの論文を発表してきたからです。
二酸化塩素に関して20本以上書いています。
サイエンスとしての研究で得たエビデンスを講演で発表することは、薬機法違反でもなんでもありません。
学会での発表に加え、昨年からは阪大に空間環境感染制御学の寄付講座を開いています。
さらに二酸化塩素のクレベリン除菌システムを用いた環境下ならiPS細胞を低コストで培養できる
という仮説のもと、培養細胞の毒性試験等の研究を進めています。
現場の悩みを組織で改善する
中:素晴らしいですね。
外科医として治療に当たられていた頃から現在まで「人の命を救う」という点で
ずっと繋がっていらっしゃるように感じました。
柴田:今は日本二酸化塩素工業会の会長も務めています。
先ごろ、行政の指導の下、安全性の規格の一つである室内濃度指針値が策定されました。
この規格が普及し空間除菌のコンセプトが定着すること、そして、それによって家庭や医療機関内に
細菌やウイルスがほぼ存在しなくなることが実現できれば、私の一生の目標は達成できると考えています。
中:臨床医から経営者のお立場になられてお気づきになったことはございますか。
柴田:医療現場にいた時は、行政が決めたことには絶対服従でお上に物申すなどありえないと
感じていました。
しかし企業のトップとしての活動を通して、日本政府や各省庁は民意を聞く耳をしっかり持っている、
民意を反映できるシステムがあるということがわかりました。
例えば日本二酸化塩素工業会を組織し業界として提案することにはしっかり対応してくれますし、
OTC医薬品協会で薬剤の効能・効果に関する要望をすればそれも相談可能です。
世のため人のために何かをしようという時には、アクティブに動いて現場で合意を形成し、
行政と対話をしながら、仕組みをともに作り上げていくことが必要です。
それをしようとせず、現場で苦労を重ね「仕方がない」とあきらめていては何も変わりません。
AI技術による医療と看護の変化
中:民意をまとめていくことも今の社長の大きな役割の一つなのですね。
柴田:これからは第四次産業革命といわれ、AIやIoTを駆使した医療が始まろうとしています。
それによって医療従事者の負担の軽減も期待できます。
その動きを待つばかりでなく、自分から動いていく必要があります。
もし私がまだ病院にいたとしたら、それをしています。
中:今のお話にあったように医療が大きく進化している中で、今後、
看護師に求められる役割はどのようなものになるとお考えですか。
柴田: AI等の技術が進んだ結果、最終的には看護師が医療の中心になると私は思っています。
なぜなら病棟や在宅医療で患者さんの一番近くにいて、
患者さんの状態を最もよく把握しているのは看護師だからです。
治療法の変更や決定はAIに任せた方が正確になると予測されます。
ですから看護師がさまざまなデータを入力してAIが出す指示を受け対処する。
そこに医師が加わり、看護師・薬剤師と一緒に行動するという感じです。
そういう時代になると思います。
責任重大ですが、将来の展望は看護師が一番明るいのではないでしょうか。
医師、薬剤師よりも明るいと思います。
世界中の感染症に挑む
中:弊社のビジョンが「看護のAI化」ですので、非常に興味深くお聞かせいただきました。
話は変わりますが、社長は著書を何冊か出されているようですね。
柴田:医師時代に2冊、経営者になってから1冊書きました。
医師時代に書いたものの1冊「肝癌の熱凝固療法(編著)」(厚生社)は
私が肝臓外科医としてメスを振るっていたとき、
転移性肝がんの治療でラジオ波やマイクロ波で熱凝固をするのですが、
その熱凝固の効果は血流に起因していることに気づき、一時的に肝血流を遮断する手法を開発して
「Cancer」などの一流誌に報告したことをまとめたものです。
もう1冊は「カリスマ外科医入門」(厚生社)というのですが、当時「カリスマ美容師」が
流行っていたことと、外科医を辞めても外科医であり続けたい思いで名付けたタイトルで、
私が自分でカリスマだと言っていたわけではありません。
経営者になってから書いた「外科医、正露丸を斬る」(ダイヤモンド社)は、
今日お話しさせていただいたようなことを書いてあります。
中:社長は「医師としても経営者としても成功された」と表現させていただいて間違いないと思いますが、
いま社長が抱かれている夢や、これをしていると楽しいと思われる瞬間があればお聞かせいただけますか。
柴田:楽しい瞬間はやはり未来を予測して、それに向けて計画をたて、行動し、
目途が立ち実現した時ですね。
私の最終的なゴールは渡辺淳一が「遠き落日」という小説で書いた野口英世の姿です。
野口英世はコンプレックスを持ちながら頑張って医者になり、ワンチャンスを活かしてアメリカに渡り、
最終的には感染症の研究途上に黄熱病で倒れました。
感染症は当時最大の医学テーマでしたが、今また大きな問題になりつつあります。
薬剤耐性菌の影響で2050年には年間1,000万人が亡くなり、
がんによる死亡者数を上回ると予測されています。
新たな抗生物質の開発も進んでいません。
このような状況では感染症の「予防」にいっそう力を入れなければなりません。
ですから当社も我々の論文をベースにさまざまな企業と協力し合って、
医療環境、生活環境の安全性を向上する取り組みを始めています。
エボラ出血熱などが流行した南アフリカへ、クレベリンを寄付することもしています。
アフリカをはじめとする世界中の感染症に挑み、その制圧に資することが将来の夢です。
中:ありがとうございました。
本日お邪魔した時点では看護師のことをもう少し伺うつもりでしたが、
お話があまりにも興味深く、幅広い話題になってしまいました。
結果的に、目標を持つこと、それを達成する方法など、
看護師にとっても参考になることが多々あったと思います。
本当にありがとうございました。
柴田:こちらこそありがとうございました。
インタビュー後記
誰もが知る大幸薬品。
一方で、柴田社長が医師であるということは、看護師にとって大変驚きがあるのではないでしょうか。
医師としての実績も多く、社長になられてからは上場を果たされた柴田社長。
まだまだ大きな目標に向かっていると語られる柴田社長の瞳はとても輝いていらっしゃいました。
自らの仕事に誇りを持つ大切さ、目標を達成する力、環境をポジティブに捉える想像力など看護師にとっても
貴重なアドバイスとなるインタビューでした。