第8回目のインタビューは、シンガポールで生活する日本人の健康をサポートする、ニチイインターナショナルクリニックで取締役として勤務されている田所優一(たどころ ゆういち)様にお話を伺いました。
海外で日本人の健康を支えるということ
シンガポールにこのクリニックを開院された経緯について教えてください。
田所:クリニックの名前にもついているのですが、当院の経営母体は、日本で医療事務業務を中心に介護や教育等のサービスを提供しているニチイ学館なんです。会社のグローバリゼーションの取り組みの一つとして、シンガポールでクリニックの運営を始めました。
こちらではどのような診療を行っているのですか?
田所:シンガポールではGP(General Practitioner)と言われる総合診療医、日本で言う「かかりつけ医」があらゆる医療の入り口となっています。病気やケガを発症した際は、まずはGPのいる病院やクリニックを受診し、病状等によって必要であれば専門医を紹介し治療を受けます。当クリニックでは、最初の窓口となる総合診療を行っています。GPとしても経験豊富な日本語を話せるシンガポール人医師が勤務していますので、日本語で受診できます。
来院する患者さんはどのような方たちがいらっしゃいますか?
田所:ほとんどが日本から来ている駐在員の方、その奥さんやお子さんですね。日本から来る海外旅行者の方たちもいらっしゃいます。疾患としては風邪など軽症な疾患の診察が多いですが、ケガなど整形外科の患者さんもおられます。
健康診断も受けられるのでしょうか?
田所:はい。日系企業の健康診断項目に対応した健康診断もパッケージとして準備しています。シンガポールでは一般的でないバリウム検査も可能です。また、インフルエンザ、A,B型肝炎、お子さんの予防接種も実施しています。日本で使っていた母子手帳を持ってきていただければ、必要事項に記載もしていますし、乳幼児健診も受けていただけます。小児科の診療も多いので、ガチャガチャの愛称で日本で親しまれているカプセルトイも置いているんですよ。
日本で受ける健康診断や乳幼児健診をここでも継続して受けられるのは海外赴任中のストレスや不安を最小限にできますね。健康診断から診療まで、かかりつけ医として頼れる存在ではないでしょうか。
様々なサポート体制で安心を提供
田所:これはニチイ独自のサービスなのですが、小児科診療後のサポートの一つとして、今年1月から「小児科オンライン」という遠隔医療相談サービスの提供を始めました。診療時間内に受診できなかった時や、診療時間外でも親御さんたちをサポートしたいと考え、日本の小児科オンラインと連携し、連携体制を整備しました。お子さんの病気に関することはもちろん、離乳食や発達等の育児相談をすることも可能です。
日本人の小児科医に相談できることは大きなメリットですね。海外で子育てをしている駐在員ご家族は常に不安を抱えていらっしゃるでしょうから、このサービスは非常に心強いですね。他にも日本人の患者さんへのサービスはありますか?
田所:はい、24時間通訳者につながる遠隔通訳サービスを提供しています。当クリニックでは日本語で受診できますが、専門医に紹介になった場合、専門医のクリニックは基本的に英語でのやりとりになります。この遠隔サービスを使えば、英語に不安のある方も安心して検査や入院治療ができます。また、日本から来る海外旅行者の患者さんもいらっしゃるので、海外旅行保険等に加入していればキャッシュレスで受診することが可能です。
専門医への紹介等、医療連携はどのように行っていますか?
田所:当クリニックは、Farrer Park Hospital(ファーラー・パーク・ホスピタル)という私立病院内にあります。病院は検査機器や入院病床を管理しており、当院の患者さんの検査や入院を手配して行うことができます。また、当院と同じように専門医も病院内で開業しており、病院内の専門医とも連携しておりますので、安心して治療を受けることができます。
病院内にクリニックがあるというのはシンガポールにおける医療の特徴ですね。
シンガポールで看護師として働く
こちらでは日本人の看護師さんは勤務していらっしゃいますか?
田所:現在一人勤務しています。患者さんへの直接的な医療行為はしておらず、他の看護師やドクターのサポートなど、クリニックアシスタントとしての役割を担っています。通訳もお願いしているので、業務内容は幅広くなっていますが、どれも正確・丁寧に対応してくれています。
シンガポールではワーキングビザをとるのが難しい現状があります。そのため、ビザが必要な方は大卒者の採用となります。
シンガポールで働くためにはどのような看護師が求められますか?
田所:シンガポールは色々な国の方がいるので、積極的・主体的に行動できて、周囲の人たちとコミュニケーションをとれることが求められていますね。保険診療で受診する方もいらっしゃるので、保険についての知識も必要です。GPは診療範囲が多く、必然的に薬の種類も多くなりますし、日本では使っていない薬を扱うこともあるので、新しいことを吸収できる柔軟な考え方ができる人が、スタッフにも患者さんにも受け入れられると思っています。
また、専門医の予約や入院の手配など、他機関とのやりとりが発生しますから、英語はある程度スキルを持っている必要がありますね。
コミュニケーションはもちろん、英語力も必須なのですね。
<シンカナース編集長インタビュー後記>
田所さんはとても穏やかで優しい方でした。シンガポールでの医療や看護に関すること以外にも、シンガポールでの生活の仕方を伺ったり、提携病院の案内などにも快く対応してくださいました。田所さんより「医療従事者ではないので、より良い医療環境を作り、サポートすることが自分の役割です」というお言葉をいただきましたが、慣れない海外生活に挑戦するにあたって、こうして医療従事者を理解してくださる人と一緒に勤務出来ることは大変心強いことです。
隣接している病院のスタッフの方々からも、マンモグラフィーや、MRIなど最新の検査機器や、ホテルのような病室、数年後に開花する予定の日本の桜が植樹された中庭まで案内していただきました。クリニックと病院が同ビル内にあり、提携されていること、また必要時は、日本人看護師が通訳として検査に付き添ってもらえるなど、日本人にとっても安心して医療を受けることが出来る環境が整っていました。
新しく明るいクリニックで、穏やかな取締役の田所さんと、シンガポールでの日本人向け医療サービスを構築していくというのは、とてもやりがいのあるお仕事だと思います。一方で、真剣に構築されている段階だからこそ、中途半端に投げ出すような看護師が迷惑をかけるようなことがあってはならないなとも感じました。田所さんのお言葉にもあるように、主体的に自分の役割を見つけ出せる看護師に応募してもらいたいです。
病院概要
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