No.224 浅井病院 秀野武彦 院長 前編:身体疾患も診られる精神科医療

インタビュー

千葉県九十九里浜に近い東金に位置する浅井病院は、

精神科医療を中心としつつも内科や脳神経外科、整形外科も標榜し、人間ドックにも力を入れています。

病院長の秀野武彦先生に、そのような特色ある展開について詳しく解説いただきました。

精神科医療、高齢者医療、予防医療の三本柱

嶋田:本日は浅井病院院長、秀野武彦先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願いいたします。

秀野:よろしくお願いします。

嶋田:まず、貴院の特徴を挙げていただけますか。

秀野:当院は、精神科374床、内科87床、計461床の病院です。

人間ドックにも力を入れており、年間受診者が8,000人に上ります。

この受診者数は、精神科が母体の病院としては日本でもかなり上位に位置するはずです。

また当院は認知症疾患医療センターに指定されています。

対象となる地域はかなり広く、南北66キロにわたります。

たいへん遠くから来院いただくことになりますので、極力、患者さんの地元で治療を継続でき、

地元で生活できるような援助を目指しています。

加えまして最近、訪問診療も始めました。

これも特徴と言えるかもしれません。

そのほか、法人としては老人保健施設や特別養護老人ホームなども擁し、

浅井ヘルスケアグループを形成しています。

病院とこれらの施設が協同し、

精神科医療、高齢者医療、予防医療を三本柱として地域医療に貢献しています。

自身の病気をバネに

嶋田:ありがとうございます。

次に、先生が医師になられた動機をお聞かせください。

秀野:生まれつき片方の腎臓が悪く腎臓結石ができやすい体質で、

子どもの頃から腹痛を頻繁に繰り返しており、たびたび病院にかかっていました。

そのため幼いながら「いずれは自分の体を自分でなんとかしたい」という気持ちを

抱いていたことを記憶しています。

高校生ぐらいになり、将来を具体的に考える段階になって明確に医師を目指すようになりました。

嶋田:医学部に進まれてから、記憶に残るエピソードはございますか。

秀野:記憶に残るエピソードと言えば、大学時代に腎疾患の治療のため手術を受けたことです。

当時は今と異なりかなり大きく切開し、術後の痛みも大変でした。

入院期間も1か月近くに及びました。

楽しい思い出としては、中学校から始めていた軟式テニスを大学でも続け、汗を流していたことですね。

暗くなるまで練習し、ボールが見えなくなったら終わりにするという毎日でした。

手探りで研究を始めた精神科医療

嶋田:ご専門領域はどのようにお決めになったのでしょうか。

秀野:当時は今のようなスーパーローテートシステムがなく、ストレート入局でしたから、

学生時代から悩みました。

腎疾患で手術を受けたこともあって泌尿器科なども考えましたが、最終的には精神科を選択しました。

嶋田:精神科にどのような魅力をお感じになったのでしょう。

秀野:やはり「人の心はどこにあるのか」という素朴な疑問です。

脳科学の進歩は目覚ましく今では多くのことが明らかになっていますが、当時、

脳はまだブラックボックスで、手探りで研究をしている時代でした。

先が見えないだけに、興味を引かれました。

精神科患者さんの身体疾患に対する責任

嶋田:ご卒業後の経歴についてお尋ねします。

実際に精神科医として研修を始められて、何かお気づきになったことはございますか。

秀野:医科歯科大の神経精神医学教室に入局し、そこから派遣というかたちで当院に着任しました。

当院に来てから強く意識するようになったことは、精神疾患の身体合併症の問題です。

今から30年以上前は精神科の患者さんが身体疾患を発症しても受け入れる病院が見つからず、

救急車でたらい回しになってしまうことがよくありました。

この問題の解決のために、自分でも患者さんの身体疾患を診ていこという意思をもつようになりました。

その後、上司や先輩が転勤や開業などで少しずつ減っていき、自分が比較的まだ若いうちに

副院長に任命されたため、患者さんの身体的な問題は自分が率先して取り組まなければいけなくなりました。

嶋田:では、かなり早い段階から

精神科患者さんの身体疾患の治療という課題に向き合っていらしたのですね。

秀野:当院の先輩方もそういう取り組みをされてきていて、ある程度は道筋が整っていました。

例えば私の指導医だった先生は、上部消化管の内視鏡検査を当院で施行されていました。

それらを踏襲しながらできることを増やしてきたという感じです。

嶋田:精神疾患を持つ患者さんの入院受け入れには、いまだに消極的な医療機関が多いと思います。

そのような環境にあって貴院のような存在は

患者さんやそのご家族にとってたいへん心強いものだと思います。

秀野:もちろん身体疾患のすべてを当院で診られるわけではありませんが、

できるだけ治療を完結できるように努めたいと考えています。

転石苔むさず

嶋田:先生がこちらの院長になられたのはいつ頃でしたか。

秀野:平成25年です。

丸5年たちました。

嶋田:院長に就任されてから、どのような点に力を注いでこられましたか。

秀野:立ち止まらずに変化をし続け、病院を動かすという点です。

「転石苔むさず」の良い面を重視して、

医療も一つの事業と考え柔軟に動ける組織であることを意識しています。

後編に続く

Photo by Carlos