前編に続き鈴木先生に、霞ケ浦医療センターが実践している女性患者と女性職員に優しい医療について、
そして看護師に期待すること、先生ご自身の趣味などを語っていただきました。
多職種連携の橋渡しの役割を看護師に期待
嶋田:貴院では指導者を育成するために、
職員の方の自己研鑽をどのようサポートされていらっしゃいますか。
鈴木:例えば、臨床研究、看護研究を積極的に行い、報告していただくようにしています。
また、多職種連携も精力的に行っています。
一例として私の専門である循環器領域ですと「心臓リハビリテーション」の取り組みが挙げられます。
高齢社会において、心疾患急性期は乗り切ったもののQOLが低下している方が増えています。
そういった方へ運動療法をはじめとする包括的なリハビリテーションを進めるにあたり、
医師、理学療法士のみならず看護師も、患者さんの生活指導や再発予防のための指導、訪問看護などで
重要な役割を担っていただく必要があります。
このような多職種が連携する医療の取り組みにおいて、その橋渡しをする一番の主役は医師ではなく、
やはり患者さんとそのご家族の最も近い存在である看護師だろうと思います。
嶋田:これから高齢社会がさらに進展していく中で、
貴院としてどのようなところに力を入れていきたいとお考えですか。
鈴木:一番大事なのはやはり人材です。
特にいま申しましたように看護師が病院を支えていく主役だと考えています。
患者背景を把握し最適手段を提案してほしい
嶋田:看護師への期待という点について改めてお尋ねしますが、
このような働き方をしてほしいといった具体的な要望をお聞かせいただけますか。
鈴木:具体的な例を挙げるとすれば、いま病棟で特に対応に苦慮するのは
高齢で認知機能が低下された患者さんです。
事故予防のために、後ろめたさを感じながらも抑制をかけざるを得ないことがあります。
病院は疾患を治療するところであり、介護やリハビリがメインの患者さんは
それら専門の医療施設に受け渡しを進めていかなければなりません。
そういったマネジメントはやはり看護師が適任と思います。
もう少し全般的なこととして、看護学校の入学式や卒業式の式辞としてよくお話しするのですが、
卒業後も患者さんの話によく耳を傾けてほしいということです。
学生のうちは患者さんの方からいろいろ話しかけていただけるのですが、いったん看護師として働き出すと、
知らず知らずのうちに上から目線になってしまう可能性があることに注意してほしいという意味です。
それぞれの患者さんにはそれぞれの人生があり、社会的背景があります。
それをよく推し測って患者さんに接し、最適な方法を提案できるようになっていただきたいと思います。
そして退院から社会復帰をサポートする、次の医療機関・介護施設へバトンタッチ、橋渡しをする、
そういう計画をしっかり立てられる看護師さんになることを期待しています。
女性患者さんに優しい医療
嶋田:ありがとうございます。
少し話を戻すようですが、先ほど
「女性患者さんや女性職員に優しく丁寧な医療を目指すことがスローガン」とおっしゃいましたが、
その点についても解説いただけますか。
鈴木:前院長の西田先生が子宮腺筋症の保存的手術の世界的権威でいらっしゃいます。
子宮腺筋症の手術治療は子宮全摘が標準とされていますが、西田先生が開発された腺筋症核出術により、
妊孕性を保持しながら症状の寛解、再発回避率ともに満足のいく成績を上げています。
現在当院においてこの治療法を先進医療として実施しており、
世界中から患者さんがいらっしゃるような状況です。
この術式は手術時間を要し医療者の負担もある治療法ですが、
当院産婦人科医は「若いご夫婦の挙児希望を叶えてあげたい」という思いで、治療にあたっています。
その姿を助産師や看護師が見ています。
結果として、患者さんの立場に立って優しく接する態度が培われるのだと思います。
また、当院には女性病棟を全国でもかなり早い時期に開設した実績もあります。
女性職員たちによる「自分が入院する立場になったらどうだろう。女性患者さんになるべく気を遣わせずに過ごしていただくにはどうしたら良いのだろう」という発想で始まったと聞いております。
さらに新しい動きとしては、今年度から産後ケア入院の受け入れも開始しました。
女性職員に優しい職場
嶋田:患者さんの立場を熟慮された素晴らしいお話ですね。
「女性職員に優しい」という点では、どのような取り組みされていますか。
鈴木:この話をするとみなさん驚かれるのですが、
看護部長や看護師長、事務部長などが他の職員の赤ちゃんをおんぶして仕事することもあります。
本当に困っている時はお互い様という雰囲気です。
嶋田:たいへんアットホームですね。
鈴木:そうなのです、本当に。
当院には、スタッフ全員が互いに困っていることに対して
いろいろな智恵を出して対応していこうというムードがあります。
料理は実益を兼ねた趣味
嶋田:最後の質問ですが、先生のご趣味を教えていただけますか。
鈴木:最近は料理ですね。
自分自身が結構な歳になりましたから、好きなものばかり食べていられませんし、
また診療において心臓リハビリテーションをしますので、指導する立場上、料理に興味が出てまいりました。
以前はキャンプをよくしていました。
アメリカに留学した頃、年間20ドルほど払うと国立公園内でキャンプができるのです。
すると、いろいろな動物に出会えたり、星空が本当に綺麗だったり、とても印象的で、
時間を見つけてはキャンプをしていました。
当院も緑に囲まれていて、夜は星空が綺麗ですし、しかも霞ヶ浦を見下ろす高台にあり、
環境は素敵だと感じています。
看護師へのメッセージ
嶋田:では、看護師へのメッセージをお願いします。
鈴木:霞ケ浦医療センター院長の鈴木です。
国立病院機構の病院には全国に6万人近くの仲間がいます。
そして全県に病院がありますので、いろいろな所で研鑽を積むことができます。
当院には筑波大学附属病院の臨床教育センターがありますので、大学との交流も活発です。
当院は以前から丁寧な医療を心掛け、特に産婦人科の患者さんが多いですので、
女性に優しい医療、丁寧な医療を心掛けてきました。
それに加え、急性期から在宅医療・介護まで、
患者さんとご家族のみなさんをしっかりサポートできる体制を確立しています。
今は治す医療だけではなく、きちんと支える医療が求められており、
その医療をマネジメントできる医療者を育てるのが当院の役割です。
国立病院機構の病院、かつ筑波大学附属の臨床教育センターということで、
看護師の資格を持っているみなさんは、さまざまな職種、あるいは役割を担うことができます。
患者さんを治す、支えるだけでなくて、
看護師の資格を活かせる仕事は今後、多岐に渡って広がると思います。
ぜひ仲間としてみなさんに来ていただけるとありがたいです。
どうぞよろしくお願いいたします。
インタビュー後記
茨城県土浦市に位置し、国立病院機構のひとつである霞ヶ浦医療センター。
スタッフの方々の相手の立場を思いやる姿勢が受け継がれており、アットホームな雰囲気を感じました。
看護師が病院を支えていく主役であると仰っしゃった院長のお言葉は看護師にとって何より心強い魅力的なお
言葉だと言えるでしょう。