長年、大学病院で勤務された後、新小山市民病院の再生を期待され病院長に就任された島田和幸先生。
大学病院と市中病院の違いなどについてお話しいただきました。
非公務員型公的病院
中:今回は新小山市民病院病院長の島田和幸先生にお話を伺います。
先生、どうぞよろしくお願いいたします。
島田:どうぞよろしくお願いします。
中:まず、貴院の特徴を教えてください。
島田:当院は「市民病院」ではありますが、
現在は地方独立行政法人という経営形態で、非公務員型の公的病院です。
規模・機能としては病床数300の急性期病院で、ハイケアユニット(HCU)を12床設けています。
一方で一部の病棟は地域包括ケア病棟として用いており、
全体としてはこのエリアの中核的な総合病院として位置付けられています。
中:建物がたいへん新しくてきれいな病院ですね。
後ほど地方独立行政法人化の背景などについて詳しくお聞かせください。
その前に先生のご経歴に関する質問で、まず、医師になろうとされた動機からお話しいただけますか。
島田:私が高校の頃は高度経済成長期で、国全体が工業国家を目指していたようなところがあり、
医学部より理工系学部の方が高い人気でした。
私も理工系を希望すると同時に「人の役に立つことをしたい」という思いと、
「経済に翻弄されたくない」という思いから医師の道を選びました。
挑戦してから気づく資質もある
中:そうしますと高校時代には既に、ご自身が医師向きであるとお気づきでいらしたのですか。
島田:いえ、それはありません。
医師のプロフェッショナルな姿に惹かれた部分が大きいです。
医師としての人とのふれあいの楽しさや魅力は、この世界に入ってから徐々に実感するようになりました。
中:今こうしてお話しさせていただいていて、とても穏やかで優しい雰囲気が伝わってまいりますので、
もともと人と関わりあうことがお好きで臨床医向きでいらしたのかなと思いました。
そうではなく、医師になられてからその適性を磨かれていかれたということですね。
島田:そういうことだと思います。
今おっしゃった視点は看護師を目指す皆さんにとりまして大切なことかもしれませんね。
つまり、私は自分では意識していませんでしたが、その後の履歴から考えると、
本質的に医師に向いている側面がもともとあったのだと思います。
もしこれから将来の職業として看護師を考えている方がいらしたら、
ご自身が人に対するポジティブな関心を持っているかどうか、振り返ってみると良いかもしれません。
老年医学としての循環器学
中:私どものメディアに適したアドバイスをいただき、ありがとうございます。
医学部入られた後、ご専門領域はどのようにして決められたのでしょうか。
島田:私の専門は循環器です。
当時の日本には循環器疾患が少なかったのですが、欧米の後追いで日本でも増えていくだろうと考えたのが、
選択の理由です。
中:がんも増加が予測されていませんでしたか。
島田:もちろんそうですが当時がんはまだ治療できず、研究対象としても前途多難な疾患でした。
そのような難しい分野に進んで大きな発見をするか、循環器のように少しは将来性が見通せる分野に進むか、
大げさに言えば賭けのようなものでしたね。
中:そうでしたか。
続いてその後のご来歴をお聞かせください。
島田:私はもともと香川県の外れの地方出身で、田舎が好きです。
東京での暮らしも東大時代を含めて10年ほどしかありません。
その他は高知や栃木の大学に勤めていました。
地方では循環器専門医といっても心臓ばかりでなく、
疾患の基盤にある老年病学も深めていく必要に迫られました。
自ずと、やがて訪れるであろう高齢社会における疾病構造を思い描くようになり、
動脈硬化性疾患のリスクである高血圧等の研究に取り組むようになりました。
何十年も前のことです。
実際に今、老年病と動脈硬化性疾患への対応は医学の重要な課題になっています。
与えられた環境で新たな発見
中:かなり早い段階から将来のニーズを先取りし、常に一歩先を進んでこられたのですね。
島田:意図したわけではありません。
私に先見の明があるのではなく、ある状況に置かれた時にそれを受け入れ、
そこに新たな意義を見出すことを繰り返してきただけです。
中:それもまた看護師にとって大切なことかと思います。
自分の希望にあわない診療科に配属されたことで、
いつまでもモチベーションが上がらない看護師が少なくないと聞きますもので。
与えられた環境で楽しみを新たに見つけていくことが、医療職者には大切なことのように感じました。
島田:重要なポイントです。
医学や看護は非常に幅が広く、例えば看護師が働く場は病院だけでなく、行政や保健指導の領域もあります。
また病院内でも、当院を例に挙げても急性期、HCU、あるいは救急、さらに地域包括ケア病棟とあり、
それぞれに仕事のやりがいや奥深さがあるはずですから。
看護の奥行き
中:先生が看護の奥深さを感じられたのはどのよう場面でしたか。
島田:私はこれまでの勤務先がほぼ全て大学病院で市中病院は当院が初めてです。
大学病院は組織が大きいだけにシステム管理が行き届いていて、
看護師とコミュニケーションする機会がそれほどありません。
当院に来て初めて看護の力を思い知りました。
当院の看護師は、気づいた提案を次々に私に投げかけてくるのです。
「急性期で点滴中だから、経管チューブを入れているから、というだけで抑制するのは良くないのでは」と
提案されたことがあります。
その提案を起点に「ではどうやって抜かれないようにするのか」「そもそも抑制をかけると事故は減るのか」
「仮に点滴や経管を引き抜いたとして、それが本当に大変な事態を招くのか」といったことを互いに問いかけあいました。
後編に続く