前編に続き、現在の地域包括ケア構想を開院前から想定していたかのように医療を提供してこられた背景や、
これからの医療において求められる看護師像などのお話をお聞かせいただきました。
アドバンス・ケア・プランニングの必要性
嶋田:先ほど「誤嚥性肺炎は国民全体で考えるべき問題」とおっしゃいましたが、
少し具体的にお聞かせいただけますか。
鈴木:「肺炎は老人の友」などと昔から言われてきたのですが、医療が進歩した結果として、
例えば胃瘻を造設することで生き長らえることはできるようになりました。
しかしそれがご本人にとって良い選択なのかどうかはなかなか難しいことです。
「口から食べられないなら点滴などはして欲しくない」とか
「胃瘻なんて嫌だ」という人が増えてきています。
そういう場合、当院では在宅部門がありますから、
最期の時間をご自宅でご家族とともに過ごしていただくことも可能です。
一方で、経管栄養で1日でも長く生きたいという方もいらっしゃり、結論は本当に人それぞれです。
ご家族の考え方が一致しないこともあります。
そして、こういった問題は何年かの後、私たち自身の問題になる可能性が大です。
最近、アドバンス・ケア・プランニングなどと言われますが、
確かに早い段階から将来のことを真剣に考えておくべきではないか、というのが私の考えです。
嶋田:医療が進歩し選択肢が増えたことによって、新たに発生した問題かもしれませんね。
先生ご自身のご経歴の質問を続けますが、こちらの病院にいらしたのはいつ頃でしょうか。
鈴木:15年前、ちょうど開院した年です。
それまでは長い間、藤沢市民病院で呼吸器科と救急診療科を担当していました。
ゼロからの病院立ち上げ
嶋田:では開院するタイミングで院長として着任されたのですね。
どのような経緯があったのでしょう。
鈴木:当院の理事長は早くから有床診療所を開業され、訪問診療に力を注いでいた先生です。
訪問診療に力を入れれば入れるほど、
一時的に具合が悪化したサブアキュートの患者さんに入院していただく病院が必要になります。
ところが急性期病院はそのような患者さんの受け入れに積極的ではありません。
そこで理事長は「それなら自分で作ってしまおう」と考えたそうです。
一方、当時わたしは藤沢市民病院で高度急性期医療を担っていました。
医療制度の変更で在院日数を短くすることを求められ、
患者さんを最後まで診てさしあげられず苦しい思いをしていました。
医師会の講演会などで、しっかり最後まで診られる病院はないだろうかといった話をしていたところ、
理事長が目をつけてくださって、1本釣りのようなかたちで当院に着任したという経緯です。
嶋田:ゼロからスタートし病院を作られたのですね。
鈴木:まだ何もなかった状態から立ち上げました。
嶋田:当然ご苦労がおありだったと思いますが。
鈴木:急性期病院にいた頃は自分の領域だけ勉強していればよく、
医療制度や経営のことは何も知らない状態で飛び込んできましたので、知識の習得が大変でした。
しかも医療制度は頻繁に変更され、病院経営に直結する診療報酬も2年ごとに変わります。
ただ、確かに日本の社会も変わっていますから、医療制度も変わっていかなければいけないのでしょう。
そういう中で当院は、制度変更を先取りするように進んできたと思います。
今、地域単位で医療機関が役割分担の上、連携していくという地域医療構想が叫ばれていますが、
当院は開院の経緯からして、初めからその役割の一角を占めていた病院と言えます。
中小病院が地域を支えていく時代
嶋田:時代の最先端を走っていますね。
鈴木:気がついたら最先端になっていました。
これからは、今まで高度急性期医療を担っていた大規模病院の役割はより限定されていき、
それだけに我々のような中規模病院の役割が重要になっていきます。
私達がしっかり横で連携して地域医療を支えていかなければいけないと心しています。
嶋田:今後はどのように病院を成長させていきたいとお考えですか。
鈴木:15年間ほんとうに様々な困難を乗り越えてきて、今では関連施設も増え、
スタッフも550人ほどの大所帯になりました。
もちろんこの間、スタッフにもものすごく頑張っていただきました。
これからは少し落ち着いて経営を安定させていきたいと思っています。
そしてスタッフの皆さんが、
この法人の中でやりたいことに挑戦できるような環境を整えていければと考えています。
共通認識は「患者さんの在宅復帰」
嶋田:スタッフを集めるのも大変な労力かと思います。
スタッフに長く勤務していただくために何か取り組みをされていらっしゃいますか。
鈴木:大切なことはやはり、
この地域における我々の役割というものを全員で共通認識として共有することだと思います。
先ほど申しましたように、スタッフみんながチームになり、
在宅へ帰せる患者さんを確実に帰していくということです。
そのためチーム医療をもう一歩進めた「スキルミクス」に取り組んでいます。
医師、看護師はもちろん、薬剤師、栄養士、介護士、リハビリセラピスト、医療ソーシャルワーカーなどが
一つにまとまり、それぞれの専門性を発揮していただいています。
嶋田:多職種のスタッフで話し合いを重ね、患者さん個々の最善な対応を探るということですね。
スキルミクスにおいても、やはり医師がまとめ役になるのでしょうか。
鈴木:そうですね。
ただし、ケースカンファレンスでは、医師はなるべく最後に発言するようにしてもらいます。
医師が最初に考え方を述べるとその方向で話が進み、
各専門職者の意見がすべて出ないうちに結論に至ってしまう可能性がありますので。
急性期病院では医師の意見が重視されますが、当院ではチームのまとめ役として医師がいるような感じです。
スタッフの力を上手に引き出すマネジメント力が求められます。
嶋田:看護師についてはいかがでしょうか。
「こんな看護師に来て欲しい」といったお考えはございますか。
鈴木:大規模な病院ですと付属の看護学校があったり、
入職後も組織的に管理されたりする所が多いようです。
そのため、そこで働いていらっしゃる看護師は、みなさん均一な存在のように感じます。
しかし当院には実にさまざまな経験や考え方を持つ人が集まっています。
それぞれの看護師が持つ資質を上手に集約して力を発揮していただければ、
すばらしい看護になるのではないかと期待しています。
また現在、皮膚・排泄ケアや疼痛緩和、訪問看護など、
看護のさまざまな領域・分野で認定看護師や専門看護師が育っています。
さらに特定行為としてデブリードマンなどを任せられるようになり、
創傷・褥瘡治療の一部を医師に代わり担っていただけるようになりました。
今後、高齢化の進展に対応するため、こうした流れはさらに拡大することでしょう。
当院では、そのようなスキルを身につけた看護師が活躍できるよう、
適材適所で働ける環境を目指しています。
新卒看護師の採用スタート
嶋田:貴院の看護師は他院で経験された方が多いのでしょうか。
鈴木:そうですね。
いろいろな経験を積んでこられた方が多く、バラエティに富んでいます。
一般企業での勤務など全く医療とは別の社会経験を経た後、
看護学校で勉強して入職される方や男性看護師も増えています。
男性看護師がいると病棟の雰囲気が少し変わって、なかなかいいなと思っています。
嶋田:新卒者は採用していませんか。
鈴木:来年の4月から新卒者の受け入れを開始し、新人教育も行います。
看護師のキャリア形成と言いますと一般的にはまだ、最初は急性期病院に入って勉強して、
という順序だと思いますが、これからは地域包括ケア病棟や回復期病棟が地域医療の中核になるので、
最初から当院のような所で人材を育てる必要性が高まると考えています。
看護学生へのメッセージ
嶋田:そろそろお時間なのですが、最後に先生のご趣味についてお聞かせいただけますか。
鈴木:趣味は最初に言いましたように、今はトレランです。
トレランとマラソンの違いは何かと言うと、マラソンはランナー同士が競争するのに対し、
トレランの場合いったん山に入ったらみんな仲間、
何かあったら助け合って困難を乗り切り一緒にゴールしよう、というスポーツです。
そこがすごく楽しいです。
他には、海に近いのでマリンスポーツをします。
ダイビングをする「潜りの医者」と言っています。
冬はスキーです。
あとは最近、子どもと一緒にボルダリングを始めました。
嶋田:本当に幅広くスポーツを楽しんでいらっしゃいますね。
それではまとめとして、看護学生、看護師へのメッセージをお願いします。
鈴木:看護学生のみなさんは看護学校を卒業したら「まずは急性期病院で基本をみっちり勉強したい」と
考えていらっしゃると思います。
しかし、これからの日本の医療において、
高度急性期医療の在院日数は恐らく10日以内か1週間程度になってしまうことでしょう。
ですから、病気をみることができても、患者さんとしっかり向き合うことは難しくなると予測されます。
今後はやはり、地域医療構想の中で地域包括ケア病棟や回復期病棟が重要になることでしょう。
当院では患者さんを在宅復帰させることに一丸となっています。
是非その医療の一端を担っていただけるようになっていただけたらうれしいです。
お待ちしています。
インタビュー後記
湘南・藤沢の地に開院されたクローバーホスピタルは、
病院の立ち上げから院長として日々走り続けてこられた鈴木院長。
ご趣味とされているトレランでの山に入ったら参加者はゴールとい
優しい笑顔の鈴木院長は、
スタッフの方々とも気さくに話され、