No.5 池亀俊美様 「医療者の常識は社会の非常識ということを常に頭に入れておくこと」2/2

インタビュー

1/2に続き、池亀俊美さんのインタビューをお届けします。インタビュー後編では池亀さんが考える看護師像や看護師の可能性の大きさについて興味深いお話が伺えました。また、ご自身の趣味についてもお話いただきました。

できないことを「できない」と言える部署に

これまでのキャリアを通じて看護師にはどんなことが求められると思いますか? 

池亀:やっぱり患者さん中心に考えられることですね。あとは適切にケアが実践できる人。私が思うのは、わからないことがきちんと聞ける人だと思います。何かことが起こる時はわからないままやっていることが多いと思うので、できないことをできないと言えることが患者さんのことを思っている人だと思います。こういうことが意外とわからないのではないかと思うんです。こんなこと聞いちゃいけないな、と思うような部署にしてはいけないと思っています。受け手の方は「何を聞いてくれてもいいんだよ」「聞いてくれてありがとう」というメッセージを発信し続けないといけないかなと思います。私が若い時は「なんで聞いてきたの」「わからない方が悪い」と言われた。何度「帰っていい」と言われたことか。帰っちゃいけないよねと思いながら。。。そういう時代がありましたね(笑)。

 何を求められているかを感じて実行する

仕事でいろんな人と関わるからコミュニケーションは大切ですよね。やっていることも立場も違う人たちと関わる上で難しいこと、コツはありますか? 

池亀:お互いの仕事を理解していることが大切ですね。メールしてこのタイミングで返ってこなかったらよくないのかな、と察する能力。事務の人と一緒に近隣の開業医さんにご挨拶まわり、いわゆる営業にも行きましたよ。新しいクリニックでPETCTを初めて入れたのですが、自分で探して見学に行ったり研修をうけたり、業者さんを読んで勉強会をしたり、放射線技師さんと看護師・ドクターとでミーティングを重ねてシミュレーションしたり。

その要となるのが池亀さんですか? 

池亀:ナースマネージャーなのでそうですね。

ナースの経験だけでできますか? 

池亀:ナースってけっこうなんでもできるし、かゆいところに手が届くじゃないですか。ポイントは「医療者の常識は社会の非常識」ということを常に頭に入れておくことですね。事務系の人たちの方が感覚がより患者さんに近いんですね。一緒に働いている事務のマネージャーは優秀で、「こうやってものをみるんだ」「分析するんだ」ということが勉強になります。同じフロアで仕事する、それがすごく大切なことですね。大部屋で机を並べてわからないことを聞いたり電話のやりとりしながら、ナースというよりは相手のやっていることに寄せていく。自分が変わらないといけない部分もあります。

ご自身の役割をしっかり理解してそれを受け入れていらっしゃるんですね。 

池亀:ナースっていろいろな可能性があるんだなと思います。注射が上手な人も必要だし、患者さんの話をちゃんと聞ける人も必要。そもそもそういう能力に長けている人がそういうことをやっているんですかね。私はいろいろな部署や場所に顔を出しているので、対人的な部分はけっこう鍛えられているんだと思います。キツイことを言ってくる人もいますから、打たれ強くなったことも確かです。

一見するとナースじゃなくてもできる仕事のように見える部分がありますが、ナースだからこそわかる価値があるんじゃないでしょうか? 

池亀:それは意識していますね。年齢も高くなってきて、若い子よりもいただいているのでその価値を考えています。何やっているんだろうあの人はと思う人はいると思います。最初配属される時に「なんで行くんですか」「人足りてますよね、あそこ」と言われて。足りているように見えるんだと思いました。

この人じゃなきゃできないという仕事のし方、やり方はよくない。誰でもできるように、いつでも引き継げるようにしておこうと常に思っています。クローズにするよりは誰でもできるようにルール作りをしておくことがいいんじゃないかと思います。自分しかできないような価値がある仕事ってそんなにないと思うんです。クリエイティブなアーティストではないので。

これまで仕事を依頼されて断った経験はありますか? 

池亀:「仕事は断るな」と上司から言われてきたこともあって、お断りしたことはありません。仕事が来るうちが華なんですよね。だからこんなに忙しくなってしまったのかと自滅的になることもあります。恵まれていると思うんです。外来も病棟もやらせてもらった。

求められていることを実感されて実施して結果も出しているからいろいろなところから声がかかるんでしょうね。 

池亀:そうですね、大変なことも多いですけどね。時間のかかるミーティングは一番辛いですね。今日のアウトカムはなんだったんだろうって思う。人を集めるってそれにお金が発生するわけで、これだけ偉い人たちが集まって、今日の会議に一体いくらかかったんだろうとよく思うこともあります。

それナースにはあまりない感覚ですね。経営する側からしたら意識・感覚・感性といったことを兼ね備えた人なのでしょうね。 

仕事も趣味も努力は裏切らない

看護師として忙し勤務を支えるナース以外の部分、趣味について教えてください。 

池亀:水泳が好きで。できるスポーツが水泳しかないとも言えるんですけどね(笑)。子供の頃、親が強引にスイミングスクールに入れて、初め泣きながらでしたけど人並みに泳げるようになりました。働くようになってからもジムで泳いだりしていたのですが、主任になってからはすごく忙しくなっていけなくなってしまって。でも人生それだけじゃないだろうと思って、高校の先輩たちと泳ぐようになったら楽しくて。時間を作るようにしているのと、仕事だけしているのはよくないだろうという思いから続けています。自分ができるんだと思うことがあるとうれしいですね。同じ趣味を持ったみんなでいると楽しいですし。

私は月1回ボランティアで心臓リハビリテーションに携わっていて。患者さんとお話することがあります。メタボは絶対に許されませんし、もちろん禁煙、塩分の強い食事もダメ、と患者さんに健康的な生活を説く以上は、自分もある程度実践していないといけないし、実践できている自分がいいなと思うんですよね。

ナースの不養生ではないですね。 

池亀:それが自分にとって心地いいんですね。結構ごはんとか詳しいんですよ。負けず嫌いなので食事や運動もそうですが、仕事についても正直言って努力はしています。

努力しているってそれをはっきり言えるところがカッコイイですね。 

今後目標にしていること、将来やってみたいことはありますか? 

池亀:もともとは心不全の患者さんのケアをしたいと思っているので、今までの自分の経験してきた何かにたずさわりたいなと漠然とは思っています。もうベッドサイドで働くことは難しいですがずっと病院で働きたいとは思っています。

水泳は具体的な目標があるんですよ。毎年8月に「湘南10km」というオープンウォーター(海や川等自然の水の中を泳ぐ長距離の水泳競技)の大会があるんですが、途中の関門に引っかからずに完泳することが目標です。大会ではまだ3キロまでしか泳いだことがないのでこれから練習しなければなりません。目標は2年後ですが、JCIの更新と重なるのでできるかどうか難しいところですね。頑張って練習して今年チャレンジしようかとも思いますし。更新は夏と決まっているので、大会に向けた練習と仕事の両立・調整をしつつ、できるだけのことはしたいですね。

インタビュー後記

「医療者の常識は社会の非常識」という言葉が印象的でした。私たち医療の中で普段仕事している人は、それが日常で常識なのですが、一般社会では非常識だったり医療そのものが普通ではない場所であることを気付かせて頂きました。

池亀さんの経歴をお伺いしていて、看護管理室やQIセンター、クリニックの立ち上げ、PETCT導入など様々で非常に特殊な経験をお持ちになられているという印象を持ちました。

それと同時に誰もができないような現在のポジションやクリニックの立ち上げメンバーにどのように着かれたのかという疑問が湧き上がって来ました。その答えは、「仕事は断ったことがない」という言葉に集約されているように感じました。すべての依頼はチャンスである。そのチャンスを摑み取るか手放すかは、依頼を引き受けるか断るかに鍵があることを学ばせて頂きました。

仕事に加えてプライベートでもとても活動的でエネルギーと魅力に溢れる方でした。

池亀さん、前編から後編に渡りどれも大変貴重で興奮するお話をありがとうございました。

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