前編に続き、緩和ケア・地域医療に特化する横浜甦生病院のこれからの姿、
その新しい姿の中で期待される看護師像を語っていただきました。
看護師による看取り
中:看護師について、少しお伺いいたします。
これから2025年問題を間近に控え、また医療のIT化といった技術革新もあり、
環境の急変が予測される中で、看護師は今後どのように進化していく必要があるとお考えでしょうか。
澤田:看護師はこれまで医師の指示に従って動くという存在でしたが、
今後はより自主的に医療にかかわっていただく必要があると思います。
私見ですが、看護師がより多くの権限を持つべきです。
特に、地域医療では、看護師が最もリーダーシップをとるべき職種ではないでしょうか。
と言うのも、看護師はやはり女性が多いですから、患者さんや家族と接し、
多職種の方のマネジメントを行い、話し合いをまとめていくのに適していると思うのです。
より具体的には当院も今この問題に直面しているのですが、在宅の患者さんの看取りです。
原則的にはまだ医師が看取りをしなければいけません。
将来は一定の条件下での遠隔死亡診断が認められるようになれば良いなと考えています。
これも在宅看護でご家族とより深い関係が構築されている看護師がICTを使って看取り、
医師が診断するということが行われて良いと思います。
さらに進んで経験を積んだ看護師が死亡診断まですることも今後の多死社会を考えると必要かと思います。
そういった、医師でなければいけないとされている業務の一部を看護師が担っていくようになれば、
在宅医療はより円滑に進んでいくと考えています。
中:技術の進歩をとり入れ、現場のニーズに合った医療の推進に、
看護師がより積極的にかかわっていくこともできるということですね。
澤田:医師ではなく看護師に任せられる業務は他にも多々あるのではないでしょうか。
男女差のないチームによる医療
中:先生はフィンランドとドイツの医療を直接見てこられた経験がおありです。
医師-看護師の関係において日本とヨーロッパの違いはございますか。
澤田:私が見てきたフィンランドやドイツ、あるいはそのほか米国には、
ナースプラクティショナーという専門職があります。
医師により近い存在の看護師で、手術において助手を務めたり縫合を行ったりします。
ヘルシンキ大の血管外科でも、ドレーン抜去などを行う権限を持ち一任されていました。
またそれ以外に、ヨーロッパの国は本当に男女の差がないということを体感しました。
当然、医師が看護師より上ということもなく、平等にチームで医療を進めている姿が印象に残っています。
中:日本でも、看護師の再教育制度等がしっかり機能すれば、
本格的な医師のサポート業務を担うようになるチャンスがあるということでしょうか。
澤田:おっしゃる通りだと思います。
現状では看護師も十分できる仕事を医師が行っているという部分が非常に多いと思います。
ドレーン抜去や人工呼吸器の管理、中心静脈カテーテルの挿入などは、
いずれ看護師の資格で行えるようになっていくと良いのではないかと考えています。
あらゆる疾患の終末期医療を担う
中:ところで、先ほど在宅での看取りの問題についてお話しいただきましたが、
それは貴院が地域に根付いた病院であるからこそ表面化していることだと思います。
やはり地域医療は今後の大きな潮流の一つなのでしょうか。
先生のお考えと貴院の対策をお聞かせください。
澤田:今は診療報酬改定の方向性も社会的ニーズも、やはり在宅へというトレンドです。
先ほどおっしゃった2025年問題という言葉に象徴されるように、この地域でも非常に高齢化が進んでいます。
このような環境下で当院は以前から緩和ケア病床と療養病棟を設け、
高齢の方を受け入れ亡くなるまで医療を提供することに力を入れてきました。
一般に「緩和ケア」と言いますと、がんの終末期のケアというイメージがありますが、
他の疾患でも末期という状態が訪れます。
例えば心不全や腎不全、肝硬変、それから老衰や肺炎もそうです。
疾患によらず末期状態になられた方をトータルに診て、苦しくないように最期をお看取りさせていただく、
そういう病院でありたいと考えています。
もちろん当院の力がまだ足りていない部分もあります。
例えば地域の方が体調不良になったときに一時的に入院していただくような病床、
つまり地域包括ケア病床がまだ少し不足しています。
ご覧いただいたように当院の建物はだいぶ年季が入ってきましたので、建て替えを計画しており、
その際には恐らく地域包括ケア病棟を持ち、さらに地域の方の役に立てる病院に成長できると思います。
もう一つは、先ほどから話題に上っている在宅医療です。
現在は看護師が一人、往診に同伴する体制ですが、専門部門を作り在宅医療を拡充していく方針です。
患者さんの状態が安定している限り在宅で経過を確認し、もし調子が悪くなるようなことがあれば
入院していただき、回復次第ご自宅へお帰りいただくという流れを築きたいです。
在宅看護師への期待
中:病院勤務の看護師が新たに訪問看護を職域とするにあたって、
どのようにスキルを磨いていけば良いのでしょうか。
澤田:今は在宅でも内科的なことだけでなくて、外科的な処置も必要になることがあります。
例えば胃ろうが造設された状態の方も多いですし、
高カロリー輸液のための中心静脈カテーテルが挿入されている方もいます。
そういう方の管理に関するスキルを身につけるには、
やはりいろいろな部署を経験されることがよろしいかと思います。
地域の医師会による在宅ケア看護師対象の研修会も開催されていますので、
そういう機会を利用するのも良いでしょう。
当院に来ていただければ、日常の勤務で技を磨くだけでなく、
そういった研修会にも参加することが可能です。
中:戸惑っていないで、まずは一歩踏み込んで学んでいく姿勢が必要ということですね。
最後に先生のご趣味を教えてください。
澤田:趣味とは言えないかもしれませんが、週に1回は必ずスポーツジムに行くようにしています。
2時間くらいかけ、走ったりエルゴメーターを漕いだり、インストラクターについて筋トレをします。
以前は休日中、多摩川の土手を10キロほど歩いたりもしていました。
中:ご自身の健康管理のためでしょうか。
澤田:院長という立場上やはり病気はできません。
また年齢とともに調子が悪いところがいろいろ出てきますので。
看護師へのメッセージ
中: それでは看護師に向けてメッセージをお願いいたします。
澤田:横浜甦生病院院長の澤田と申します。
当院は、緩和ケア病棟を12床持ち、緩和ケア・地域医療に特化した病院です。
看護部は非常にアットホームな雰囲気で、看護教育もしっかり行き渡っており、
慶應義塾大学看護医療学部の学生さんも当院に研修に来られています。
そういう意味で、大変刺激があり、やりがいもある病院だと思います。
ぜひ私どもと一緒に良い仕事を、楽しくやっていただきたいと思います。
お待ちしておりますので、我々の病院の方へご連絡をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
シンカナース編集長インタビュー後記
人気の横浜エリア。
「地域住民の方に安心安全な医療を提供すること」をポリシーに経営に邁進されていらっしゃる澤田先生。
フィンランドへの留学経験というキャリアも、現在の院長職も全ては出会いと様々な人の協力にあるとのこと。
もちろん、ご自身の努力あってこそだと思いますが、常に謙虚で医師としての確固たるポリシーをお持ちだからこそ
周囲のサポートや、良い出会いが生まれるのだと感じました。