今回はJCHO大阪病院の看護部長、田中小百合様にインタビューをさせて頂きました。
田中看護部長の手腕と魅力に迫ります。
突然の感謝の言葉
看護師を目指されたきっかけを教えてください。
田中:私自身は健康優良児で、あまり病院にお世話になることもなく成長したのですが、姉が病気がちで入退院を繰り返していました。
お見舞いのため頻繁に病院を訪れるうちに医療に関心を持つようになりました。
そして将来の職業を考え始めたとき、医療への関心の高まりと、自立し働き続けられる職業であるという二つの理由で、看護師を目指すことにしました。
看護学生時代の思い出を教えてください。
田中:看護過程が非常に難しく苦戦した記憶があります。
その一方、実習で患者さんのそばに行くと
「あなたが担当の学生で本当に良かったわ」と言ってくださる患者さんに何人も出会ったことは、懐かしい思い出です。
看護師になられてから印象に残っているエピソードをお聞かせください。
田中:看護師になり6、7年目だったと思います。
終末期の消化器がんの患者さんが入院されていました。
準夜勤勤務の私が出勤し病棟に着くと、日勤の看護師から、その患者さんが私のことを待ちわびていると伝えられました。
病室を訪れると
「今日はあなたが来るのを待っていたのよ。あなたに担当してもらって本当に良かったわ」
とおっしゃるのです。
そしてその後2時間ほどでお亡くなりになりました。
その患者さんに私が何をお話しし、どのようなケアをしたのか今となっては覚えていないことも多いのですが
「私の看護が患者さんの心の深くに届いたのだな」ということを、初め実感させていただきました。
私と同じような患者さんの心にふれる体験を新人看護師にも経験してもらいたいと強く感じた記憶があります。
看護師は天職
新人時代に苦労されたこととはございますか。
田中:6人同時に入職したためかもしれませんが、実はあまり苦労した思い出はないのです。
もちろん大変なこともあったはずですが、思い出すのは良かったことばかりです。
やはり看護師という仕事が好きなのだと思います。
つい先日もスタッフから「田中部長は看護師が天職ですよ」と言われました。
嫌なこととは忘れ、良かったことは良く覚えています。
役職に就かれるまでの楽しかった思い出をお願いします。
田中:最初に配属された脳神経外科病棟でのことです。
その頃は脳卒中の急性期からリハビリ期までの看護をしていました。
脳卒中後で片麻痺と構音障害、意欲低下のみられる患者さんがいらっしゃいました。
その患者さんの趣味が釣りだというエピソードを耳にした私は紙を使って魚と釣竿を作り
「少し幼稚かもしれないけど魚釣りをしましょう」と声をかけたのです。
するとその患者さんは徐々に興味をもたれ「今日は何匹釣れた」と喜ばれるようになったのです。
患者さんの状態や背景にあったリハビリの方法を工夫し、それが効果となって現れ機能が少しずつ回復していく過程は、
自分にとってもたいへん達成感があるものでした。
仕事をとても楽しまれている様子が伝わってきます。
田中:もちろん、苦しいときもあります。
身体機能障害が回復されない方もいますし、糖尿病のように長く付き合っていかなければいけない疾患の方もいます。
がんも近年は慢性疾患的に捉えることも可能になりつつありますが、かつては今よりずっと深刻でした。
さきほどお話したがん患者さんのエピソードも、当時は告知をあまりしない時代でしたから、
患者さんご本人には事実を伝えていない中、苦悩しながら看護をしました。
そういった医療者としての苦悩を抱えながら、患者さんと関わっていく。
そこには満足感もなく、経過が思わしくない時には申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
患者さんの笑顔を見るために
苦悩を繰り返しながら目標を目指すプロセスが大切なのですね。
田中:やはり苦悩がないと大きな満足感は得られないと思います。
病院を訪れる患者さんは、がんであっても、脳卒中後の機能障害であっても、あるいは糖尿病であっても、全ての方が何かに苦しんでいます。
そういった方々の苦しみや生活、あるいは命を長らえることに関わり、その人が少しでも楽しく朗らかに生きていくことに寄りそう仕事が看護です。
患者さんの笑顔を見るために、自分が何かをしたいという気持ちが原動力です。
感謝されるのは「結果」。「目的」ではない
そのご経験は看護部長になられてからも活かされていますか。
田中:振り返ってみれば、そう思います。
看護職というのは、自分の満足のためだけにやろうとしている人は、おそらく長く続かないのではないでしょうか。
「ありがとう」と言われるのは結果であって、「ありがとう」と言われたいからやる仕事ではありません。
看護補助者の方にも同じことが言えます。
私はいま管理職の立場で、質の高い看護師を育てることが職務の一つですが、
そのためには看護師が看護に専念できる環境が必要とされ、看護補助者のポジションが非常に重要です。
看護補助者の方たちのお手伝いがなければ、看護師はベッドメイキングや片付けものなどに時間を取られ、
患者さんの苦悩を聞く時間は削られてしまいますから。
院内では職種によりそれぞれ役割は異なります。
しかし、医療者としての目的は一緒なのだと思います。
その目的とは、患者さんの回復です。
医師も看護師も看護補助者も、皆さん、患者さんが回復するために何か手助けをしたいという思いを胸に働いているのだと思います。
後編へ続く