No.155 浅川佳則様(ねや川サナトリウム)後編「残業ゼロ、有給休暇100%消化」

インタビュー

前編に引き続き、ねや川サナトリウム看護部長・浅川佳則様のインタビューをお届けします。

閉鎖的なイメージを払拭していきたい

外来患者さんのなかで、症状が悪化してそのまま入院なさる方と、薬などを調整して良くなる方がいると思うのですが、両者の特徴はありますか。

浅川:一番の違いは、周りのサポートがあるかないかです。

理解や支援といってもよいと思いますが、これが大きいのではないでしょうか。

家族の支援がきちっとできているのが一番よいかもしれませんが、

それだけでなく社会全体というか、社会資源を含めてのサポート体制がきちんとあると、

入院に至らないということはあると思います。

また、この病気に対する理解が一番大事です。

例えば、統合失調症の患者さんは周囲の人たちの接し方にとても敏感です。

特に家族をはじめとする身近な人たちの表情や口調、態度といった感情の表し方(感情表出)は、

病気の再発に大きな影響を与えるといわれています。

家族の理解があるだけでも随分と違うと思いますね。

個々の力では限界もありますので、国全体で考える政策が必要かと。

浅川:精神疾患に対する差別や偏見に対する国の政策や国民全体の理解は必要ですが、

まだまだ現実は偏見がないとはいえないし、当院も含め、精神科領域自体が閉鎖病棟であったりするため、

なかなか中のことがわからない。

さすがに昔のように鉄格子がかかった病院というのは少なくなっていると思うのですが、

閉鎖的なイメージがあるので、それを払拭し外に開かれた病院をめざす必要があります。

当院でいえば、さきほどお話したピアサポーターさんに病棟に入ってもらいますし、

毎月実習にやってくる第三者的な学生さんたちの眼で常にチェックしてもらうことも大事だと思います。

実際に病院に来てみると閉鎖的とは思えないのですが。

浅川:ありがとうございます。

実習生たちも最初は不安をもっているのですが、2週間、3週間と実習していくうちに、

ほとんどの学生さんたちが最後は「すごくよかった」と言ってくれることが多いので、

“百聞は一見に如かず”ではないですが、実際に患者さんに接し、

病院の中に入って知ってもらうことが一番大事かなと思いますね。

かかわっていくうちに、自分自身の内面に気づいたりするのでしょうね。

浅川:そうかもしれませんね。

精神科病院に入職する看護師さんは、いわゆる一般病院である程度経験を積んだ方が転職先に選ばれることが多いのですが、

最近は徐々に新卒の学生さんが増えつつあります。

それは一つには、メンタル面での関心が社会的に高まっているということがありますし、

昔は精神科では身体の看護技術の習得ができないと敬遠されたのは事実ですが、

最近は高齢社会の影響で精神科でも認知症の患者さんが増えていますし、合併症の方もいるので、そういう対比はできなくなってきています。

むしろ逆に精神科ではフィジカル面をしっかり見ることができないといけない。

患者さんと話をしていればいいという時代では当然ないので、

精神科だからフィジカルアセスメントができない、身体のケアができないということでは決してないと思います。

そうした背景があってか、最近は最初から精神科で働きたいという学生さんも増えてきました。徐々にではありますが。

精神科でもフィジカル面を見るのは他科と同じということですね。

精神科の勤務事情;残業ゼロと有給消化率

浅川:新卒希望者が増えてきたもう一つの理由は、精神科は残業がほとんどないということが大きいと思います。

ワークライフバランスということが最近は強調されていますが、長く勤めるうちには結婚や出産、子育てがありますので、

無理なく働くためには、残業がないのは大きなメリットです。

勤務体系によっては深夜12時とか1時から働く病院もあるなかで、残業ゼロは素晴らしいです。

浅川:残業ゼロに加えて、有給休暇もほぼ全て消化することができます。

当院だけでなく精神科全体にその傾向があるので、仕事と家庭の両立はしやすいと思います。

残業を減らすために工夫をされていますか。

浅川: 人出不足の問題はありますが、多くの病院で残業があり、

それを不思議に思わないのは、残業やサービス残業をすることが日常であり、それが当たり前になっているからだと思うのです。

だから、まず「残業するのは当たり前ではない」 と考える。そこがポイントだと思います。

そうですね。時代は変わってきていますよね。

浅川:これからの時代は男性も女性も定年後も働くでしょうし、長く勤めることを考えると、無理なく続けるには残業の問題は大切です。

看護観の根底に必要なのは「優しさ」

浅川看護部長がご自身の看護観を形成された時期や経緯について教えていただけますか。

浅川:最初に経歴の中でお話ししましたが、もともと看護師に憧れてとか、

こういった看護がしたいと思って看護師になったわけではないので、仕事を通じて学んでいくなかで知識が増え、

しだいに大事なことに気づいたという感じです。

精神科というところは、患者さんの人生までかかわる部分があるので、目の前の患者さんに対して関心をもつことが大事です。

関心をもてばその患者さんを深く知ろうとするだろうし、深く知ろうと思うその根本は優しさだと思うのです。

精神科に勤めて20年くらいになりますが、根本に優しさがないと駄目かなと思うようになりました。

親切にする、愛を与える、相手を受け入れるということでしょうか。

浅川:「患者さんの立場に立つ」と言葉では言えるのですが、これはなかなか難しいことではあるんですね。

例えば、頭が痛いとかお腹が痛いとかだったら何となく想像できたりするのですが、

幻聴があってずっと何かを言われている苦しさ、辛さは理解するのが難しい。

でもその患者さんの苦しみに、こうではないか、ああではないかと考えて関心をもってかかわることが優しさだと思うのです。

相手に興味をもつということがまず一番大事ということでしょうか。

浅川:そう思います。もちろん看護の世界ではいろんな場面で“優しさ”という言葉が出てくるとは思いますが、突き詰めると、その言葉になってしまいますね。

患者さんの小さな変化を見逃さないためには、優しい心で相手に関心を寄せ続けることが大事だと思います。

以前、ある重症の患者さんが、僕の夜勤日に、壁をコンコン、コンコン叩いたのですね。

意思疎通がとれない人で、自傷の危険性もあり、保護室に居ました。

何も考えなければ、壁を叩いている、ですませてしまうのですが、気になって話しかけてみたら

「電話がしたい」と、はっきりと言われたのです。

普段は全く人と対話ができる人ではなかったので驚きました。

精神の病というのは原因がはっきりわかっていないこともあるし、患者さんの可能性や力というのは計り知れないもので、

もしかしたら自分たち看護者が見えていないだけでは疑うことが大事だと思いました。

患者さんは何かしら発信していると思います。

言葉ではなくて表情や仕草かもしれない、それをこちらが受け取ることができるかということだと思います。

難しいですね。

浅川:難しいのですが、関心がないと受け取れないし、感度が落ちてしまうと思うんですよね。

いつも関心を寄せて患者さんの小さな変化に気づくことが、自分たちの専門性であり、精神科看護の醍醐味だと思います。

管理職となって思うこと

主任、師長になられたのはいつ頃ですか。

浅川:急性期病棟のスタッフ時代が長くて、主任になったのは3年目くらいです。

その当時から精神科の認定看護師を目指していました。

どうしても知識や技術を磨きたいという思いがあって、率先して研修会にも参加しておりました。

師長就任前に認定看護師の試験に合格して、認定看護師になった時にたまたま人事異動があり、

経験年数は少なかったのですが、ポストに該当する人がいなくて、私に師長の役が回ってきました。

看護部長になられたのはいつ頃ですか。

浅川:看護師免許を取得してから約15年で看護部長に就任しました。

看護部長になられて苦労なさったことや悩みはございますか。

浅川:看護部長という仕事は、端から見ているとわからない感じがあるのですが、自分がなってみると、幅広く見ないといけないなって思っています。

管理者ではあるのですが、自分が現場の看護師でありながら、管理もするというポジションで、

いわばプレイングマネージャーとして、現場目線で常に立てるかなと気をつけています。

看護補助者さんの役割についてお聞かせください。

浅川:精神科において、看護補助者さんの役割は非常に大きいものがあります。

患者さんに一番近いところにいるのが看護補助者さんなので、看護師さん以上にかかわりが多いと思います。

精神科は病気の特性として、長期入院になればなるほどセルフケアができなくなる問題があるのですが、

そうしたときにできるだけ患者さんが持っている残存機能をしっかりと生かせるような形でお手伝いしてもらうことが非常に大事だと思っています。

高齢者に対しても残存機能を生かすお手伝いをすることが大事でしょうか。

浅川:生活能力という“能力”を生かすお手伝いをしていただきたいですね。

意外でした。最後に、仕事以外での楽しいひと時などをお聞かせいただけますか。

浅川:マラソンをしています。

実は当院の院長が昔から走るのが趣味で、よくマラソン大会に出場しているのですが、

私も10年くらい前からそういった流れのなかで、ノリで走りますみたいな感じになって、それからずっと続けています。

マラソンが仕事の上でも役に立つのです。

どこの看護部長さんも同じだと思うのですが、わりと孤独で、一人で考えることが多いのですが、

仕事を終えてから、周りが公園なので、5キロとか10キロとか走るんですが、その間は何も考えずに「無」になれるのです。

体を動かして汗をかくことでリフレッシュできるし、仕事のオンオフの切り替えができます。

いろんな課題があって重たい気持ちになっても、少し走って体を動かすと、気持ちが軽くなるような気がします。

一人で走られるのですか。

浅川:当院にはマラソンのクラブもありますので、みんなと走るときもあります。

それはそれで楽しいんです、もちろんね。

でも一人で走るときって、最初はいろんなことを考えて、

ああすればよかった、こうすればよかったと頭の中で仕事のことをいろいろと思いながら走っているんですけれど、

走り終わると解決したわけではないのに、ちょっと明日からまた頑張ろうかなというふうに、前向きな感じに変わるというか。

体を動かすっていいですね。

浅川:普段、どちらかというと頭の疲ればかりになってしまうので、体を疲れさせることでバランスがとれるという感じはしますね。

いいですね。院長さんと一緒に走ったりなさるのですか。

浅川:大会には出たことあります。大阪マラソンとか。

大きな目標で素敵ですね。最後に、読者の方に向けてメッセージをいただけますでしょうか。

浅川:精神科は、若い学生さんや新人さんからみると遠慮されたり、身体的な看護技術を習得できないと敬遠されがちですが、

精神科の専門性には非常に高いものがあります。

どこの科にも通じるようなコミュニケーション技術が身につきますし、患者さんを見守ることに関しては、一番の専門分野に属すると思っています。

そういった意味で、もしも精神科に関心や興味のある方がいらっしゃれば、まずは病院を見てもらって、

現場の姿、実際に精神科でどういったことがなされているかをみていただきたいと強く思います。

非常にやりがいのある科ですし、患者さんとかかわることに関しては、一番の技術を習得できるところです。

若い方にもどんどん精神科に触れていただきたいと願っています。

シンカナース編集部 インタビュー後記

近年では段々と増えてきた男性の看護師ですが、

まだ「看護婦」と呼ばれていた頃から精神科の看護師として患者さんと関わって来られた浅川看護部長。

「いっしょにがんばろうよ」

この想いが言葉の端々から伝わってきました。

相手の可能性を信じ、今の姿そのものではなく、その背景まで理解をして、

関わっている姿に学ぶことがとても多くありました。

一度、一般企業にお勤めになった経験からか、多様な価値観を受け入れる器の大きさを感じました。

浅川看護部長、この度は価値観の広がる貴重なお話をして頂き、誠に有難うございました。

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