佼成病院の甲能先生に、技術の進化や院内教育などについてお話を伺いました。
親子三代にわたって耳鼻科を専門に
病院の特徴を教えてください。
甲能:当院は340床で、急性期250床、地域包括ケア50床、療養20床、緩和ケア20床です。
病床の種類が比較的多岐にわたることから、いろいろな患者さんに対応でき、
広く地域に貢献できることが当院の特徴の一つです。
3年半前に当地に移転し、ようやく地域に定着しつつあります。
医師になろうと思われた動機を教えてください。
甲能:父が耳鼻科医で、小さい頃はなんとなく「医者になるのだろうな」というような感覚を持っていました。
反抗期には別の職業を考えたこともあります。
ある時、父が「自分の仕事を継いでもらえたら嬉しいものだよな」と小さな声で言いました。
その言葉が気になって結局、医師を目指すことになりました。
専門領域を決める時も同じで
「何科でも反対はしないけれど、耳鼻科になってもらうと嬉しいな」
と小さな声で言われ、耳鼻科医になったというのが正直なところです。
これと同じことを今度は私が自分の息子にしまして、現在、息子も耳鼻科の医者をしています。
医師になられてからの思い出に残るエピソードはございますか。
甲能:最初に驚いたのは手術室でのことです。
年配の看護師さんが手術室にいて「私あなたのこと知っているわ」と言うのです。
私は国立第二病院、今の東京医療センターで生まれたのですが
「あなたを取り上げたのは私よ」と言われました。
私の苗字が変わっているので、覚えていたというのです。
それからというもの、その看護師さんには頭が上がらなくなりましたが、とても良い思い出です。
面白い逸話ですね。
技術の進歩を生かすには確固たる倫理が必要
耳鼻科領域の進化を教えてください。
甲能:私が医者になった45年ほど前から20年間程は内視鏡や光学機器が発達し、それに伴い手術法も変化してきました。
ここ20年はさらに進化のスピードが加速しています。
手術にしてもロボットで操作するダヴィンチのような機器が開発されたり、
iPS細胞で生命の歴史そのものを覆すようなことも行われるようになりましたよね。
ゲノム医療で患者さんごとに個別的治療ができるようになるとか、
45年前には想像もつかなかったことが今起こっています。
そういう現代において、医療に携わる者は、医師、看護師を問わず、
医療行為に対する倫理観をしっかり養っていかないと、とんでもないことが起こると思います。
これからの医療に携わる人たちは、確固たる考えに基づいて行動することが大切であり、
それを教育していくのが今の私たちの使命だと感じています。
倫理感のブラッシュアップには、個人ではなく組織で教育を進めていく必要があります。
当院ぐらいの規模でそこまでするのはなかなか大変ではありますが、
職員教育室という部門を作り専従の医師を当て、重点的に行っています。
このプログラムは全職員が対象です。
院内全職種を対象とする医療安全教育
医療安全教育の対象を全職員とされている理由を教えてください。
甲能:全職員で取り組むことで、組織として何が足りていないのか、
どの部分にもっと力を入れるべきなのかといったことが把握しやすいという効果があります。
医者は医者だけ、看護師は看護師だけという部署単位では問題を把握しきれない可能性があります。
医療安全に力を入れられるようになられた経緯をお聞かせください。
甲能:私は当院に就任する前、杏林大病院で5年間病院長を務めておりました。
さらにその前の副院長の時には安全管理室を担当していました。
この経験によって医療安全に対する〝嗅覚〟といったものが養われたのかもしれません。
後編に続く