No.139 若本恵子様(東京共済病院)後編「発信していく看護」

インタビュー

前編に引き続き、東京共済病院の若本看護部長へのインタビューをお届けいたします。

自分の価値観や考え方が反映される仕事

そのあとはいろいろな科にいかれたのですか。

若本:1年間その混合病棟の主任を務めたあと、翌年は複数の病棟や部署を管理するスーパーバイザー(管理看護師長)と役職が代わり、分院に戻って6年ほど混合病棟や外来で勤務しました。

そのあとまた本院に異動し、同じスーパーバイザーという役職でしたが、自分が1年目に入った循環器の病棟とCCU・ICUをまた2年ほど、そのあと呼吸器と消化器の病棟を管理しました。

直近の5年間は医療安全管理者を務めて、そこから次長という役職になり、

昨年4月に転勤をして、当院の看護部長になりました。

それぞれ特色や、注意する点も異なりますが、本質的には、医療を提供する病院という組織ですので、

根本的には仕事は変わらないと思います。

こちらにいらして、看護部の体制などで違いを感じたところはありますか。

若本:病院の規模や病床の機能、これまでの運営の方針や状況、

場所などに影響されてその病院が出来上がっていると思うので、おそらくどの施設も特徴があるでしょう。

共通する点もありながら、やはりこの土地で長く続いてきた病院の特徴があると思うので、

組織文化や風土など違いはあると思います。

最初は、自分自身が長く以前の病院に勤めていたこともあり、そちらが当たり前ってなっていて、

固定観念と言うか思い込みがありました。

先入観なく見ないといけないと感じています。

病院からいろいろなことを発信していく

看護部長として、特に力を入れた取り組みはありますか?

若本:当院は穏やかな人が多いです。

当院周辺は医療激戦区でもあり、同じような診療体制の病院や、大規模病院、小回りの利く病院などが多く存在します。

病院自体がもっと様々なことを発信するとよいのではないかと思い、

自分のテーマとして「発信する看護部」と最初にみんなに伝えて、取り組んできました。

看護部の中のことだけしか関心を払わないでいると幅が広がりません。

病院全体に貢献すべく経営参画と、少しでも働きやすい環境を目指して労務管理に今年は特に力を入れ、

次年度も継続していきたいと思っています。

看護師としてどうあるべきか

貴院の看護部理念『専門職としての責任を自覚し、

患者中心の質の高い看護を提供いたします』を実践するために心がけていることはありますか。

若本:「看護師としてどうあるべきか」と考えたとき、

自分自身も「倫理観を備えた自立性のある看護師」でありたいし、育成したい看護師像とも重なります。

倫理観については、医療者としても、人としても

「何が正しいことなのか」「何がより良いことなのか」と常に考える必要があると思います。

臨床場面においては、価値観が多様化する中難しい判断も求められるので、

倫理的な感覚を大事にすることが、看護職としての専門性になってくると思います。

また、「患者中心」を実践するためには、頭の中で考えただけでは考えてない人と一緒、行動が伴わなければ判断も解釈も生きてきません。

行動できる人は、誰かに頼るのではなく、

自分自身が考えたことについて自分の責任で動いてみようと思える人、そうでないと実践もできません。

そういう意味で、倫理観とあわせて自立性も大事にしたいと考えています。

それらを言葉の上だけではなく、日々の行動に反映させているか、具体性を持たせることが、

結果的には本当に理念に沿った実績になっていくのではと思います。

大事にしたいことを取り入れていくために、日々何をしてほしいか

スタッフの方たちの関りについてお聞かせください。

若本:当院に来たばかりですので、まず各部署のミーティングに出席して「こういう考え方でやっていきたい」とお話ししました。

それから、当院の看護師と看護補助者を合わせて350人ほどですけれども、半年ぐらいかけて全員と1対1の面談をしました。

直接コミュニケーションをとることで、言葉だけでなく対面した印象や、

そのときのやり取りのニュアンスからお互いを分かり合えるところがあると思ったからです。

机上の空論ではなく、現場の中に理念や大事にしたいことを取り入れていくために、日々何をしてほしいかなど、具体的に伝えたいと考えています。

面談を通して、断片的だった情報がリアリティを持ち、

現場のスタッフが実際に困っていることや、ダメだと思うことなどを知ることができ、とても興味深かったです。

具体的に還元できる意見は、実際に変更するなど、取り組むことができたと思います。

現場から発信する看護部

様々な課題が見えると、かたちにして変わることが今後もあるということですね。

若本:できるだけそうしていくために、「現場の人たちから発信する看護部」というスタンスにしています。

新人からベテランの人まで、経験年数に関係なく、いいと思うこと、変えたほうがいいと思うことは、随時発信してほしいと思います。

より良くしていくために、私からだけではなくスタッフ全体から、

様々な意見が出てくるといいと思っています。

自分の実践内容を鍛えなおす

看護師にどういった研修をされてらっしゃいますか。

若本:中堅看護師育成のために、これまでリーダーシップ研修というプログラムがありましたが、内容を的確に表そうと、

2018年度からは看護実践力トレーニングコースとし、3年目以上の人たちを対象にしたコースを設定しております。

その研修で自分の実践内容を振り返るのですが、

「自分自身はどういう傾向をもって看護にあたっているのか」「自分の課題はどんなところなのか」について内省することから始まります。

臨床現場と密接に連携し、看護師の実践能力を高めるための約半年間のプログラムになっています。

看護補助者のについてお聞かせください。

若本:現在約40名が活躍しており、病棟によって分担する内容が違っています。

重篤な方が少ない病棟では、夜勤でも一緒にケアに入り、ナースコールも一部対応します。間接的な業務が主となる病棟もあります。

また、外来や手術室では、検査や手術前後の準備や片付けなど作業の一部を担当してもらうことで現場の仕事が円滑になります。

あまり型にはまらずに部署に合わせています。

倫理観を備え自立した看護師であってほしい

看護部長からのメッセージ

若本:これから看護師として仕事をしようと思っていらっしゃる皆さんへ、お伝えしたいことがあります。

私は長いこと看護師として働いています。何年経っても、仕事の中の悩みや大変さは様々ありますが、

やはり毎年自分の経験の中で、本当にやりがいがあって、人のためになる仕事、人の役に立つ仕事であると実感しています。

ただ、それは年数を重ねただけで、そのような実感が持てるわけではなく、経験が浅くても、それから知識や技術が未熟でも

「看護師としてどう判断するか」を、自分自身で考えていく中で積み重なっていくものだと思います。

本当にやりがいのある仕事ではありますが、厳しさもありますので、

しっかりと人の命や人生に向き合う仕事をやっていくという自覚を持つこと。

そして自分自身で判断していく、自分自身で行動をおこしていくことを心がけて仕事をしていくと、

自分の人生そのものが豊かになると思いますし、この仕事に就いて良かったと感じられると思います。

私は、倫理観を備えた自立した看護師でありたいと考えて、そういう方針で育成もしていきたいと考えています。

ぜひ皆さんも、自分に合った職場を、自分の価値観のもとで判断して、素晴らしい看護を実践していっていただきたいと思います。

頑張ってください。

シンカナース編集部 インタビュー後記

東京共済病院は、すぐ隣に桜並木で有名な目黒川が流れており、

京都心目黒の地にありながら、自然に恵まれた環境にございます。

若本看護部長は、とても行動力のある方だと思いました。

思ったことや考えたことを実際に行動にうつすことは、大変エネルギーのいることですが、

それを看護部長ご自身が日々実行されていらっしゃいました。

また「発信する看護部」というお言葉がとても印象的でした。

看護部の枠にとらわれず、色んなことに目を向け、発信していく。

スタッフ一人ひとりと全員面接をし、色んな意見をすでに発信してもらったといいます。

部長自身が発信された意見を聞き入れ、また発信していくことで、

これからますます活発な「発信」が行われていくと感じました。

若本看護部長、お忙しい中、素敵なお話をいただき、ありがとうございました。

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