今更聞けないDNAR(DNR)

コラム

本来、DNR(do not resuscitate)とは、終末期を迎えた患者が様々な治療を行なった上で蘇生の可能性が無いまたは低い場合、本人または家族の意思で心肺蘇生を行わないという意味で使われておりました。

しかし、単に蘇生処置拒否と解釈されることがありました。

そこで、蘇生の可能性が高いにも関わらず心肺蘇生を行わないという印象を持たれやすいとしてAttempt(試み)を加えて、蘇生の可能性が低いため心肺蘇生を試みないという意味でDNAR(Do Not Attempt Resuscitation)という表現が使われるようになりました。

DNARは治療不要ではない

「急変時指示」などでDNARとされることがありますが、急変時とはどういう意味でしょうか。

急激に血圧が90以下になっても急変ですし、突然心停止になっても急変です。

どちらも急変時として捉えてしまうとDNARは、治療不要という意味になってしまいます。

もっと言うと治療不要であれば、入院不要と言うことにもなり、すべての整合性が合わなくなってしまいます。

DNAR指示は、日本集中治療医学会の「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」によると「1.DNAR指示は心停止時のみに有効である。心肺蘇生不開始以外は集中治療室入室を含めて通常の医療・看護については別に議論すべきである」と記載されています。

また、「DNAR指示のもとに心肺蘇生以外の酸素投与、気管挿管、人工呼吸器、補助循環装置、血液浄化法、昇圧薬、抗不整脈薬、抗菌薬、輸液、栄養、鎮痛・鎮静、ICU入室など、通常の医療・看護行為の不開始、差し控え、中止を自動的に行ってはいけない。」と記載されています。

つまり、DNAR指示は、心停止時以外の治療に何ら影響を与えないということなのです。

治療不要ではありません。

DNARは時限指示

そもそも「急変時」という表現自体が曖昧で分かりにくく、「心肺停止時」という表現が正しいのではないでしょうか。

つまり、DNARの指示は、「心肺停止時」の指示であり、心肺が停止しない限り発動されない指示であるのです。

中途半端な心肺停止時の指示はすべきでない

例えば、胸骨圧迫はするが人工呼吸はしないという指示があったならば、心拍が再開した後自発呼吸が無い場合、放っておけば心停止に至ります。

そして、再び胸骨圧迫をすることになりますが、心拍が再開したとしても自発呼吸がなければ心停止を待つということの繰り返しになりかねないのです。

日本集中治療医学会の「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」の中でも「5.Partial DNAR指示は行うべきではない」とあり、「Partial DNAR指示は心肺蘇生内容をリストとして提示し、胸骨圧迫は行うが気管挿管は施行しない」、のように心肺蘇生の一部のみを実施する指示である。心肺蘇生の目的は救命であり、不完全な心肺蘇生で救命は望むべくもなく、一部のみ実施する心肺蘇生はDNAR指示の考え方とは乖離している。」と記載されています。

まとめ

DNAR指示は、心肺停止時、心肺蘇生を行わないという意味で、心肺停止時のみ有効となる時限指示であり、心肺停止時以外の治療については、何ら影響を与えない(通常の医療看護は、別で検討する必要がある)指示である。また、その他の医療看護を差し控えるものでは無い。

引用・参考

日本集中治療医学会の「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」

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