前編に引き続き、富山県立中央病院の稲村 睦子副院長へのインタビューをお届けいたします。
理念に基づいた看護ケアの実践
病院の基本方針について教えてください。
稲村:病院としての基本方針は「やさしさ・信頼・安心」ですので、看護部もそれをモットーにして看護ケアに取り組んでいきたいと思っています。
やはり安心して入院生活を送ってもらうためには、看護師を含む医療職のやさしさと、患者さんに信頼されることが、安心につながるのだろうと、私はその3つのキーワードを解釈しています。
理念に基づいて看護部として取り組んでらっしゃることはありますか。
稲村:はい、患者さん一人ひとりを尊重し、安全で安心できる、心ふれあう看護を提供したい、というのが当初からの私の目標です。
「やさしさ・信頼・安心」につながるためには、患者中心の責任ある看護を実践するために、人材育成、看護の質の向上、サービスの向上などに取り組まなくてはなりません。
ですから、毎年春の時期には、看護部としての「これだけして欲しいよ」という重点課題を発表しています。
課題はおしゃべりとあいさつ
例えば、看護部としてどのような課題があるのでしょうか。
稲村:「いま何が患者さんに起きているのだろう」とか、「だからこうしなきゃいけないよね」ということを、頭では考えているけど、なかなか看護記録に残せないのが、もう何十年の看護の課題だと思います。
患者さんに何が必要かを自分たちが考えてアセスメントして、プランを立てて実行する、ぜひこれを看護記録の中で行ってほしいと思っていまして、いま委員会の中でいろんな組み立てをしているところです。
看護記録を重視しておられるのですね。ほかにも実践されてきた課題がありましたら教えてください。
稲村:毎年いろんなテーマを掲げるのですが、3年前は看護師のレベルを上げるためにも、「看護を語ろう」をテーマにしたことがあります。
私は、人と会話をしてためにならないことはなく、むしろ教えられることのほうが多いと思っていますので、いろんなところで誰かが講演した内容や、現場で出会ういい言葉など、普段の会話や夜勤のときに「こんなこと言っとられたよ」とお互いに話すように言っています。
昨年は、看護学生の実習の終わりに、学生さん自身が実習で何を得たかということを聞く機会があり、その学生さんが「親身になって」という言葉を言っていたので、すごくいい言葉と感じ、それを師長たちにもよく話しました。
やはり、人と会話することで、1つ2つ必ず自分の中に得るものがあるので、語ること・しゃべることはものすごく大事だと思います。
私自身は子どもの頃すごく内気で、人前で話せなかったのですが、小学校6年生のときの学習発表会で担任の先生が劇の主役としてセリフをくれたのをきっかけに、みんなの前でも話せるようになったのです。
それから、昨年は自分から積極的に「あいさつをする」ことも言いました。
たいていの人は、「おはようございます」は言えますが、院内で知らない人と顔を合わせた時に「こんにちは」がなかなか出てこないので、「あいさつをとにかくするように」と言っています。
廊下で「こんにちは」と言うと、自分も温かい気持ちになりますし、院内ですれ違う人の中には、患者さんのご家族もいらっしゃるので、「こんにちは」と言うだけで、温かさを伝えることができます。
毎年4月になると病棟師長が替わって、1週間すると病棟の雰囲気が変わるのを見ていると、この面での師長さんの効果はすごいのだなと感じます。
現場の苦労を忘れない
病院全体の温かい雰囲気をとても大切にしておられますね。
稲村副院長は、管理職としてお忙しい中、どのように現場に関わってこられたのでしょうか。
稲村:師長をしていたときから、やはりスタッフが働きやすいように、自分は何ができるのだろう、何を助けてやれるのだろう、と考えてやってきました。
本当に忙しい時は、看護補助者の方と2人でシーツ交換をしたりもしました。
私が師長になった頃は、看護補助者さんが各病棟に1人か2人の配置であり、自分の病棟には配置されてなかったので交渉して看護補助者さんを配置してもらったこともあります。
看護補助者の方の働きを高く評価しておられるのですね。
稲村:そうですね、現在は全体で60名の看護補助者さんに、シーツ交換・入浴の介助・おむつ交換の介助・清拭の介助・洗髪の介助などの業務をしてもらっています。
経験のある看護補助者さんは、毎日現場にいて患者さんのことをよく分かっていますので、いろいろな情報を教えてくれたり、看護師が動きやすいように部屋交換もしてくれたりします。
看護補助者さんは、一緒に仕事をするチームの一員として、欠かせない存在だと思っています。
満足度の高い看護を求めて
ここで、病院全体として取り組んでこられた事業についてお聞きしたいと思います。
稲村:ここ数年で先端医療棟が竣工し、がんに特化した集中治療室が出来てがんセンターが充実しましたし、緩和ケアセンター、通院治療室、入退院支援センターも立ち上がりました。
その中でも、私がセンター長をしている入退院支援センターは、3~4年前から作ってほしいと思っていたもので、今年から稼働し始めました。
入退院支援センターの活動内容について教えていただけますか。
稲村:入退院支援センターは患者さんが安心して入院することができるよう、入院前から必要な手続きや入院生活・手術に関する説明を行うところです。
以前は、手術に対する不安から入院予定の患者さんが帰ってしまったり、入院前に休止しなければいけない薬があることが伝わっていなかったために入院が延期になったりということがありました。
また、当院は超急性期と言われ在院日数が10日と短く、患者さんが退院して家に帰る時に不安が大きいために、2年前のアンケートでは退院に関する項目の満足度が低くなっていました。
そうした退院時・退院後の不安を解消する点でも、入退院センターの持つ役割は大きいと思います。
また、退院されて初めての外来に来られるときに入退院センターに寄っていただければ、看護師が「退院後、何か心配なことありましたか」と聞いて話をつなぐことができます。
救急救命センターは、ドクターヘリの基地病院に指定されているとお聞きしました。
稲村:はい、現在当院には6名のフライトナースがいて、最初の立ち上げをしたナースは冗談でパーマン1号、2号と呼んでいます。
富山県は、救急車の到着時間が日本で3本の指に入る程早いので、初め「なんでヘリが必要なのだろう」と思いましたが、ドクターヘリは、医師を現場に運ぶものなので、そこで、必要性はよくわかりました。
最初は、フライトナースばかりが脚光を浴びている様に見えましたが、そのナースは苦労して分かりやすいマニュアルも作ってくれましたし、今後は研修を受けて救命センターの看護師全部がヘリに乗れるといいと思っています。
看護部長であり副院長でもあり
ところで、稲村看護部長は、副院長としての立場もお持ちですが、やはり大変でしょうか。
稲村:看護部長と副院長の2つの肩書を持っています。
前の院長が「700人もいる中で、副院長に看護部長がならなくてどうするの」「みんなの気持ちが違うぞ」ってしきりに言ってくださり、交渉をずっとして下さった結果です。
この副院長という立場は、大変というよりも交渉しやすくなり、みんなの動きが違うのだなと感じることがありますので、今はスタッフが少しでも楽になるようにしたいと思っています。
本当に忙しくされていますね。息抜きはどのようになさっておられますか。
稲村:楽しみは、たまに友達と温泉に行ったり食事したり映画を見たりすることでして、これでなんとか自分を保っております。
稲村副院長からのメッセージ
稲村:私たちの富山県立中央病院は、患者さん一人ひとりを大切にして、心を触れ合う看護を目指しております。
その中で、看護師として病院で働くときには、やはり笑顔が大事だと思います。
患者さんは、看護師の笑顔で癒されますので、笑顔を大切にして働いてくれる方たちを私は一番望んでいます。
技術や色々なことは後からついてきますので、患者さんに笑顔をもって、患者さんと触れ合い、看護をしてほしいなと思っています。
シンカナース編集部インタビュー後記
稲村副院長は、人と話をする、意見を交換するということをとても大切に考え、
また、誰にでもわかりやすい言葉を使うことにも大変気を遣っていらっしゃいました。
そのためかお聞かせ頂けたお話も大変わかりやすく感じました。
入院日数が短縮されていく中、不安や戸惑いを抱かれている方々が多いことにいち早く気付かれ、
その方々のサポートのために入退院支援センターの立ち上げにも精力的に取り組まれたという
使命感、責任感には感服させられました。
稲村副院長、この度は貴重なお話をお聞かせ頂き、誠にありがとうございました。
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No. 72 稲村 睦子様(富山県立中央病院)前編「勤続38年を支えたもの」