No.203 埼玉医科大学国際医療センター 小山勇 院長 後編:看護師としてのアイデンティティー

インタビュー

前編に続き小山先生に、看護師への期待やアドバイスを中心に語っていただきました。

医療者としてのhappiness

中:現在も院長として病院の先進的な運営にチャレンジされていらっしゃいますが、

その姿勢は学生時代から続いているのですね。

小山:自分では頑張ってチャレンジしているつもりはありません。

ただ興味があるから取り組んでいるだけです。

院長職は、大変は大変ですが毎日楽しいです。

中:日々を楽しく過ごされる秘訣は何でしょうか。

看護師に向けてアドバイスをお願いします。

小山:何のために自分は仕事をしているのかを意識することが要点だと感じます。

例えば我々医者はよく「なぜ医師を目指したのですか?」と問われますが、

看護師の皆さんも「自分は何のためにナースになったのか」を常に忘れないようにすべきでしょう。

その問いの答えの中に、毎日少しでも喜びを感じることができるのではないかと思います。

中:「喜び」を感じることが大切ということですね。

小山:私は8年前に病院長に就任して以来、

大学のミッションでもある「Your happiness is our happiness」をポリシーにマネジメントしています。

我々医療者は、ナースもドクターも

決してお金という物質的なインセンティブだけを目的に働いているわけではありません。

お金で人は一時的には動いてもそのうち満足できなくなります。

要は内面的なhappinessをどのように感じるかです。

自分がhappinessを感じる時に相手もhappinessを感じられるようになるのではないかと思います。

何か1つでも「ナースとして患者さんの助けになること」があって、

自分が何かできて良かったと幸せに感じることがポイントだと思います。

中:仕事が辛いとか待遇に不満があるとかで嫌々仕事をしていたら、患者さんにも伝わってしまいますね。

小山:その通りです。

しかし、たとえ個人的に嫌なこと、辛いことがあっても、

プロとしての仕事の中で患者さんの笑顔に接すれば幸せを感じられることはできるはずです。

幸いなことに我々医療者は、患者さんと一対一に対峙できる職業です。

看護師も患者さんとの関係の中で、必ず幸せを感じられる瞬間があるのではないでしょうか。

手術室の看護師は患者さんの代理人

中:すばらしいアドバイスをいただきました。

ありがとうございます。

次に先生が看護師に期待されることをお聞かせください。

小山:いまの医療は実に多くの職種が関わりチーム医療として進めます。

それぞれの職種が互いにオーバーラップするようになり、

ややもすると自分のアイデンティティーを失いかねないほどです。

今まで看護師が行ってきたことを他の職種が行うようになりつつあります。

患者さんを中心としていろいろな職種が手を取り合って輪になって関わるのがチーム医療ですが、

その中で患者さんに一番近い存在は誰かと考えると、それはやはり看護師です。

私は看護師にその位置を保ち続けることを期待しています。

常に医療者でありながらも患者さんに思いを寄せている、最も患者さんに近い存在でい続けること、

それが優秀な看護師だと思います。

中:少し具体的にお話しいただけますか。

小山:例えばオペ室で執刀医が必要とする器械を素早く出すことが優れた看護師と思っている人がいます。

しかし器械出しは日本ではもっぱら看護師が行いますが、

本来は、主としてスクラブテクニシャンの仕事です。

では、オペ室でのナースのアイデンティティーは何かと言えば、

麻酔で意識のない患者さんの代理となるプロフェッショナルとしての存在です。

だからこそ、手術前には患者さんと十分にコミュニケーションをとり

「手術中は私があなたの代わりです」と言えるくらいの関係を築いておくことを期待します。

極端に言えば手術中のリーダーは患者さんに最も近い存在で患者さんの代理ともいえる看護師であり、

危険だと判断されれば手術を中断する権限さえあるとも言えます。

それだけの責任を感じて取り組めば、とてもやりがいのある仕事となるはずです。

中:器械出しが看護師の仕事ではないと。

小山:外科医の指示通りに器械を渡したり、器械の数を数えたりするのは技術的な仕事ですので

専門的なテクニシャンでも可能です。

しかし、出血量や尿量のチェックは患者さんの状態を把握するためであり重要な看護師の仕事になります。

今の時代、看護師は単なる外科医の補助ではないということです。

中:先生が看護師に対して強い期待を寄せていらっしゃることはわかりましたが、

実際には看護師の離職率は低くないようです。

貴院では何か対策はされていますか。

小山:看護師の離職率は全国平均では10.9%のようですが、当院でも大きな差異はありません。

他職と比べて看護師の離職率が高いのは、働く楽しさをまだ十分に我々が伝えられていないのだと思います。

皆さん、ただ忙しいだけになってしまっているようです。

当院では新たに就職した看護師の親御さんをお招きして、

お子さんが働いている現場を実際に見ていただいています。

そのとき親御さんには

「早く地元に戻ってきてとは言わないでください。最低5年いただければ、我々はどこに行っても恥ずかしくない看護師に育てますから」

と伝えています。

看護師の離職については、

他の職種と同様に人間関係やコミュニケーションの問題が最近では無視できません。

看護師同士や上下間の人間関係がうまくいかないと言って辞めていく人もいます。

その対策として一般の看護師のみならず、師長や主任も積極的にローテーションすることも

一案ではないかと考えており、看護部長の元で実践しています。

中:同じ役職に長くとどまると考え方も固定してしまうかもしれませんね。

小山:どこでの病院でも職員の約半数以上が看護師です。

そのように大人数の組織ですと、気をつけていないと誰もがOne of themとなり、

日常の繰り返しになってしまいかねません。

そうならないように、自分なりに目標を見つけて少しずつキャリアを重ねていけるような環境、

雰囲気を大切にしていきたいです。

看護師のプロフェッショナリズム

 

中:最後に先生のご趣味についてお聞かせいただけますか。

小山:趣味といいますか好きなことはいくつかあります。

例えばスポーツなら、スキーが大好きです。

学生時代から最近まで、スキーに行かなかった年はないですし、よく仲間とスイスに行きました。

マッターホルンの麓で滑ったこともあります。

旅行も好きです。

大学の頃はリュックを背負い一人で九州や北海道を旅行していました。

今でも知らない場所に行くのはすごく好きです。

最近は妻とともに国内外を旅行しています。

中:では最後に看護師に向けてメッセージをお願いします。

小山:看護師の皆さんは高い教育を受け、そしてプロフェッショナルとして仕事をされているわけですが、

プロフェッショナリズムをもっと大事にしていただきたいと思います。

つまり「自分は患者さんのケアに当たるプロなんだ」という意識を高く持っていただきたいです。

そして常に患者さんの側に立った、温かい心、優しい心を持ち続けてください。

優しさというのは、単に丁寧な優しい言葉をかけるというのではなく、患者さんの存在、生き方を

リスペクトし、その患者さんに自分は何ができるのだろうかと、常日頃、業務の中で考えるということです。

今、医療はチームで行うものですから、積極的に声をあげて関わっていくことが非常に大事です。

是非そのような高いプロフェッショナリズムの意識を持って、がんばってください。

インタビュー後記

小山先生からいただいた「自分は何のためにナースになったのかを常に忘れないようにする」

と言うアドバイスは明るく活力を持って仕事をするために大切なことだと感じます。

とかく、日常に追われ、原点を忘れてしまうと、時として同僚や患者さんへの思いやりを忘れてしまいがち。

看護を行うことは、痛みや時として悲しみにも寄り添う高度な精神力が必要となります。

そうした時に「自分が意思決定して今に至っている」ということを再確認することで、やらされているのではなく

自らの意思で実施しているという自覚と、やりたかったことが出来ている喜びが生まれるのでしょう。

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