急性期医療から回復期、地域包括ケア、在宅支援まで展開しているイムス富士見総合病院の病院長、
鈴木義隆先生に、自ら「異色」とおっしゃる研修医時代のエピソードや、看護師が新しい領域に
踏み込んでいくときに生じる不安の受け止め方などのアドバイスをお話しいただきました。
地域多機能型病院
中:今回はイムス富士見総合病院、病院長の鈴木義隆先生にお話しを伺います。
先生、どうぞよろしくお願いします。
鈴木:よろしくお願いします。
中:まず貴院の特徴を教えてください。
鈴木:当院は埼玉県の南部にあり、急性期をメインとした341床の病院です。
特に循環器と小児の救急に力を入れています。
ただし急性期医療ばかりでなく、回復期リハビリテーション病棟や地域包括ケア病棟も開設しており、
地域に多様な医療サービスを提供したいという思いで運営しています。
このような当院を、私は「地域多機能型病院」と呼んでいます。
人を嬉しくさせる仕事
中:では続きまして、学生時代の思い出などをお聞かせいただけますか。
鈴木:大学受験のため予備校に通っていたとき、先生から「医学部に行ってみては」と勧められました。
それまでは自分の学力で受かるような医学部はないと思っていたのですが
「そんなことはないよ」と言われ、チャレンジしてみたのが医師に向けてのスタートでした。
中:声をかけられた先生は、先生の学力だけでなく、
お人柄も評価されて医学部進学を勧められたのではないでしょうか。
鈴木:確かにその時「鈴木くんは優しいから」と言われました。
人から「優しい性格」と言われると嬉しいものですね。
「人を嬉しい気持ちにさせることのできる仕事っていいな」と思った記憶があります。
まだ自分自身のことがよくわかってない半人前の頃に、そういう気づきを与えていただきました。
総合外科で研鑽
中:医学部に進み、医師になられる過程で、ご専門領域をどのように決めていかれましたか。
鈴木:現在は血管外科医として循環器領域で診療をしていますが、
学生の頃は皮膚科や眼科に興味を持っていた時期があります。
ただ、興味のある領域に直接いくよりも、その前に全身を診られるようになるため、
いわゆるメジャーな診療科の経験を積んでおこうとの思いもあり、結局、
当初の考えとはだいぶ毛色の違う総合外科を選んで入りました。
首から下の手術、つまり脳外科手術以外はすべて手がけていた外科です。
心臓も消化器も甲状腺も手術しますし、腎臓移植も行っていました。
しかも外科でありながら、
小児科のスタッフが足りないという要請があると「小児科へ行け」と言われましたし、
「循環器内科のドクターがいないから」と外科でカテーテル検査も行っていました。
ですから私はかなり異色な教室で研修を受けたことになります。
ある意味、専門がない、逆に言えば何でもやるという感じです。
行動を始めてから考える
中:診療科が異なれば当然、対象疾患が異なりますし、
医師やスタッフの習慣や雰囲気も違うのではないでしょうか。
そういった相違を壁と考えずに、それぞれの職場に溶け込んでいかれたというご経験は、
今の院長職にもつながっていらっしゃいますか。
鈴木:そうかもしれません。
自分が合うか合わないかではなく「行け」と言われたらとりあえず行ってみて、その場で調整していく、
つまり「行ってから考える」という生活をずっと送ってきました。
このようなことを言いますと「準備もせず、そんな方法でいいの?」と訝しがられることもありますが、
これまで大きな失敗はありませんでした。
その場で頑張ればなんとか結果が出るというのが私の経験則です。
誰でも最初は初めての経験
中:ただ、一般的には自分に自信がなければ、
なかなか新しい場所に飛び込めない人が多いのではないかと思いますが。
鈴木:私も初めは不安です。
けれども新しい経験を積まなければ先に進めません。
どんな大家にも必ず「初めての挑戦」はあったはずですから「不安だからやらない」という選択を、
私はなるべく避けるようにしています。
中:たいへん素敵なお考えだと思います。
例えば看護師に目を向けても、自分が希望した職場に行けないと「ああ、もうだめだ」と
あきらめてしまう人が多いようですので、貴重なメッセージになるのではないかと。
鈴木:看護師の職域は幅広いものの、業務の進め方の原則はあまり変わらないのではないかと思います。
もちろん特殊な病態や必要な技術の違いはあるかもしれませんが、基本は同じですから
「向いてない」とか「不得意だ」と言わずに、まずやってみればよいのではないでしょうか。
その人を迎え入れるスタッフの方も、新しく入ってきた人が初めから何でもできるとは期待してなく、
逆に「どのように教えていけば良いのだろう」と考えているはずです。
ドラッカーのマネジメント論
中:ありがとうございます。
非常にいいお話を伺いました。
次に、先生が病院長に就任された頃のお話をお聞かせください。
院長就任にあたりご苦労されことや、勉強されたことはございますか。
鈴木:院内のスタッフに自分の思いを一般的なかたちにして伝えることに気を使っています。
例えば病院の収益を改善しなければいけないことは誰もが理解していますが、
もっと具体的にそれがどういうことなのかがイメージできるようにします。
私自身、臨床医の頃は病院の収支などあまり考えていませんでしたから、
いまの現場のスタッフの理解が不十分だと感じても「仕方ないな」と思いながらも、
少しでも意識してもらうようにしています。
中:マネジメントに関し、何か参考にされた本はございますか。
鈴木:やはり欧米が参考になります。
欧米では、一人のカリスマのような存在がいてその人の力で物事を推進するというより、
しっかり理論を構築し、その理論に則って進めれば
誰もが理想に近いところまでは行けることを示した本が数多くあります。
例えば『エクセレントホスピタル』や、あるいはドラッカーのマネジメント論などです。
これらは何も院長や経営者だけではなく、誰が読んでも良いのではないでしょうか。
組織では上層部だけがマネジメントをするのではなく、現場のマネジメントもありますから。
後編に続く