東京都立多摩総合医療センターの近籐先生に、整形外科の進化や運動器内科の魅力についてお話を伺いました。
多摩地区の高度医療を支える
病院の特色を教えてください。
近藤:都内多摩地区にあり、診療圏の人口は400万に上ります。
しかしこのエリアには特定機能病院の大学病院が1校ある他、高度医療を手がける施設は当院を含めて5施設のみです。
人口に対して不足しているため、当院にも患者さんが集中します。
それに加え、地域医療支援的な機能も兼ね備えていることが特徴です。
整形外科を専門とされた理由をお聞かせください。
近藤:医学部で6年間学ぶ中で、研究よりも実学に近い外科系が向いていると感じたからです。
治療に際し、知識だけでなく手も使い、身につけたすべての能力を発揮できることが魅力でした。
外科系に求められる体力については、スポーツをしていたために全く支障ないという自信もありました。
外科系の中でも特に整形外科の実習に参加した際、「あっ、これは面白い」と感じたのです。
それもやはり自分がスポーツ好きであったからでしょう。
スポーツで培った自信
どのようなスポーツをされていたのですか。
近藤:中学、高校とバスケットをしていました。
大学では、自分でバスケット部を立ち上げてまで続けたのです。
バスケットにも医学の知識が生きてきます。
例えば人を指導する時「動きが悪いのは軸がぶれているからだ」と、選手の心理的な面ばかりでなく身体的な面からもアドバイスできます。
スキーも同じです。
手術とスポーツに共通すること
今はスキーもされているのですか。
近藤:指導員の資格を持っています。
スキーも整形外科の知識が役立ち、体幹のコアマッスルの使い方に注意して指導します。
時には私より上手な人達も私のアドバイスに耳を傾けてくださいます。
バスケットもまだ続けています。
週に一度、当院に隣接する東京都立小児総合医療センターの体育館を借りて練習し、全日本医師バスケットボール大会や日本整形外科学会の大会に出場を重ねてします。
そのほか、テニスやハーフマラソンも続けていますし、数年前からはトライアスロンも始めました。
手術は体力勝負という面もあるかと思います。
ご趣味のスポーツが役立っているのでしょうか。
近藤:そうかもしれません。
ただし外科医として現役と言える40歳後半までは連日手術ばかりでした。
つまり今ほどスポーツをしていませんでした。
さらに当時は筋トレも全くしていませんでした。
長時間の手術で培われた体力が、スポーツのための基礎体力の維持につながっていたのだと思います。
同様に手術で涵養された集中力も、スポーツに生かされていたでしょう。
運動器内科の魅力
整形外科の楽しさをお聞かせください。
近藤:若い頃はとにかく手術で重度病変を治すことに意義があると感じていました。
歳を重ねた現在は、運動器内科に魅力を感じるようになりました。
腰痛や膝関節症の患者さんに対して、注射剤や内服薬、生活指導、リハビリを駆使し、保存的に対応する治療です。
現在、国民の健康寿命延伸が喫緊の課題と言えます。
それには寝たきりの原因の3〜4割を占める運動器疾患の予防が求められます。
サルコペニアやフレイルはもとより、軽微な膝関節の内反でも痛みが強ければ出不精になります。
出不精になれば筋力が落ち、ますます膝の痛みが難治になり、さらには転倒も増えます。
いわゆる悪循環です。
患者さんにこのような悪循環をいかに理解させ早期に介入するのかは、これからの整形外科の醍醐味と言えるでしょう。
もちろん、外傷を可及的速やかに治療し元どおり動くようにすることは、整形外科として重要なスキルです。
この点に関しては近年、卒後教育が充実し全国的にレベルの均てん化が進みました。
整形外科医療の進化についてお聞かせください。
近藤:診断学が顕著に進歩しました。
MRI、CT、超音波はもはや標準的ツールです。
治療においては、関節鏡を用いた低侵襲手術が普及し、骨量を増やす薬剤が登場するなどの進歩がみられます。
唯一、軟部組織を補強する治療の確立が遅れています。
現在、自家移植やiPS細胞を用いた再生治療が期待されています。
そのほか、病院運営という視点では、整形外科に限らずリスク管理が徹底され、医療の安全性が向上したことが挙げられます。
病院のどのような部分を伸ばしていきたいとお考えですか。
近藤:先ほど申しましたように、当院の近隣で高度医療を提供可能な施設はわずかです。
そのため当院に求められる高度医療は、がん、心疾患、脳卒中、周産期等々いずれも伸ばしていきたいと考えています。
後編に続く