看護師は病院の宝。
職員全員で取り組まれた公立昭和病院の経営改善など上西先生にお話しいただきました。
消化器外科医になる
医師になろうと思った動機を教えてください。
上西:執筆が好きで、ジャーナリスト志望でしたが「人間の血液は、海水と同じだ」という内容の本を読み、医師という職業に興味が湧きました。
また、医師になりたかった母親の強い薦めもありました。
当初は、多くの小説も執筆されていた東京医科歯科大学の精神科の島崎俊樹教授に憧れて精神科に、と思っていましたが、知り合いの精神科医に相談したところ、外科を勧められました。
野球をしていたこともあり、体を動かし、起承転結が明確で結果がみえる外科の方が性に合っているとも感じました。
結局、臨床中心の外科に入局し、そこが胃カメラを開発した医局でしたので、上部消化管の消化器外科に進むことに決めました。
消化器外科の手術について教えてください。
上西:外科医になると、ヘルニアや虫垂炎の手術、次に胆嚢摘出術の順番で、基本的には摘出する手術から経験します。
次に、日本は胃癌の件数が多いので、消化器外科手術の基本は胃の手術になります。
その場合、胃を切除するだけではなく、胃と腸を繋げることが基本となります。
そして、早期胃癌の開腹手術から本格的な経験を積んでいくのですが、早期胃癌は内視鏡で摘出するようになったので、胃の手術症例は減少傾向にあります。
また、近頃は開腹術を経験する前に、腹腔鏡下手術を経験するようになりました。
胃癌の手術は、癌の進行度を考えて手術をするため、リンパ腺や胃癌の好発領域を広範囲に摘出する必要があると考えられていました。
しかし最近では、術後のQOLを顧慮に入れて胃の残存量や機能を重視する傾向にあります。
従って、そのような場合は、手術後も胃の検査をきちんと実施することが大事となっています。
手術はリズム
手術室の看護師に期待することは何ですか。
上西:基本的に病気のことと手術の目的を理解することです。
そして、手術の前に患者さんの様子を確認し、コミュニケーションを行うことで患者さんが安心して手術を受けることが出来ます。
また、手術後のフォローアップを行うことも必要です。
機械出しの看護師は、指示されてから器械を出すのではなく、手順が頭にあると指示する直前に出すことにより手術をスムーズに進行することができます。
手術は流れです。
その流れやリズムがなくなると安全で適切な手術は不可能となります。
病棟の看護師に期待することは何ですか。
上西:病棟看護師は同様に病気のことや手術内容や合併症について理解し、術後の状態を観察し、ドレーン管理やバイタルチェックなどを行います。
しかし、それだけではなく、患者さんとのコミュニケーションを大切にして欲しいと思います。
術後は、様々な問題が出現する可能性がありますので、それらを事前に把握しながら観察やコミュニケーションを取ることが必要となります。
もう一つは、患者さんの入退院前後の経過を知ることです。
当院では外科系は主に、病棟と外来の一体化を行ない、病棟と外来の看護師がローテーションをする取り組みを行なっています。
お互いに、患者さんの状態を把握することで、適切なケアが実行できます。
綿密なコミュニケーション
経営者として意識されていることを教えてください。
上西:病院の建替え工事があり、当時は工事の影響で入院患者が減少しました。
「このままいくと10億円の赤字です」と言われたときに変革の時だと思いました。
「ベッドは病院全体のものです。空床は減らしましょう」と病棟に伝達しました。
診療報酬の変化に対応し、職員全員の協力によって黒字に転換することが出来ました。
もう一つは、病院の経営組織を8つの部会に設置し、地域連携の推進や診療内容の充実に取り組む体制を整え、各自が自分の部門を考えながら提案してもらうようにしました。
私からも直接、病院の状況、患者の動向、政府の方針などを看護師や中間管理職に話しをするようにしています。
口頭で理解を得るのは難しい部分もありますので、病院のミッションを絵に描いて見せました。
その結果、7:1看護体制の取得やDPCII群の指定などを受けることが出来ました。
病棟の各師長、主任に
「やりたい看護ができていますか?」
というテーマで個別に話しを聞き、想いを受け止めると師長たちも病院の方針を理解し、協力しようと努力してくれました。
その結果、最近は師長の昇任試験などの受験者が増加傾向にあります。
看護師の業務負担を減少させるために、病棟にクラークや薬剤師を配置し、外来に入院持参薬センターを設置しました。
薬剤チェックをそこで行い、整理してから病棟に上げ、病棟の薬剤師が薬の管理をすることで看護師の労力を削減できるようになりました。
医療安全におけるインシデント事例は、ほとんどが転落・転倒か、誤与薬です。
誤与薬をなくすために、全病棟が使用できるシステムを独自に開発しました。
その結果、誤与薬が減少しています。
後編に続く