No. 108 三崎洋美様(愛川北部病院)前編:患者さんの背景に思いを馳せるから看護ができる

インタビュー

今回は愛川北部病院の看護部長、認定看護管理者でもいらっしゃる三崎洋美様にインタビューをさせて頂きました。

三崎看護部長の手腕と魅力に迫ります。

看護学校時代につくられた下地

どのようなきっかけで看護師を目指されたのでしょうか。

三崎:地元の熊本で、進路に悩んでいた中学生の頃、担任の先生に「人のお世話をするのが好きだから、看護師という職業が向いている」と言われたことがありました。

身近に看護師はいなかったのですが、それから、看護師という職業もいいなと思ったのがきっかけで、進路を決める際に看護師になることを決め、国立療養所の看護学校に進みました。

中学生でもう進路を決められたのですね。

三崎:はい。

全寮制でとても厳しい看護学校でしたが、それが下地になっていると思います。

同窓会では、苦楽を共にした仲間ですから、学生時代の思い出話で話はつきません。

卒業された後は、すぐこちらの病院に入職されたのでしょうか。

三崎:相模原の国立病院に就職することになってこちらに来ました。

看護師歴はもう40年以上になります。

仕事が大好きです。

その人の人生や生活が看護に表れる

今までの看護師経験の中で、特に記憶に残っているエピソードをお聞かせいただけますでしょうか。

三崎:副看護師長として婦人科病棟で勤務していたときのことです。その頃には私も子どもがいました。看護師という仕事は20代・30代・40代とその人の人生が看護の考え方にも表れると思っていました。

副看護師長という立場で、患者さんにとっても「いろいろ話を聞いてもらえる看護師」という存在になっていたのだと思います。

「今日は三崎さん夜勤だね。話聞いてくれる?」「何時に行っていい?」と言われて、ある程度業務が一段落した夜間に患者さんの話を聞いたりすることもありました。

みなさんがんの患者さんで亡くなられましたが、その一人一人から多くのことを学びました。自分の看護を反省することもありました。

一番思い出に残っているのは、私と同い年だった卵巣がんの患者さんです。中学生と小学生の息子さんがいたのですが、どんなに症状が辛くても、息子さんの前では「母親」でいたことです。小学校の息子さんには病気のことを話していませんでした。最期の厳しい状況の時でしたが、その息子さんが会いに来たとき、着ていたTシャツを見て「今日のカッコイイね」と母親の顔になっていました。

それから数日後に亡くなったのですが、息子さんに心配をかけないように最後までふるまって、そういう生き方はすごいなと思いました。

治療方針などをめぐって医師とぶつかったこともありますし、思い出に残る患者さんはたくさんいます。

経験しているからこそ理解できる

ご自身と近い年齢の患者さんと関わることの難しさもあると思います。

三崎:その時にその人の人生というか、経験しているからこそわかること、理解できることがあると思います。

私たちはその患者さんの病気だけではなく、その人の背景にある生活だとか、家族だとか、そういう所に思いが馳せられるから看護ができると思うので、そういうのを大事にしてずっと看護をしてきたつもりです。それは看護師長になってからも変わりません。

自分のやりたい看護ができるように

役職が上がることに対して抵抗感はありましたか?

三崎:副看護師長の時は病棟の中の番頭役、看護師長になる時には、自分のやりたい看護を表現できるのではと思いました。担当している病棟で、スタッフと共に自分のやりたい看護や思いを話し合いながら提供できたらと思ったのです。

看護部長になる時は、看護の現場を指導する看護師長に自分の思いを伝え、指導することで看護部を作り上げることができるのではないかと考え、役職を受けてきました。

部長になられたのはいつ頃でしょうか。

三崎:看護部長になったのは、定年を迎える2年前のときでした。

看護部長になって、管理の全体を見ることができ、管理に関するノウハウをいろいろ学ぶことができたので、学んできた知識を活かせる場があればと当院を紹介され、今も看護管理を続けています。

最初は迷いながら、不安だらけだった

ご自身の看護観は、いつぐらいに固まったのでしょうか。

三崎:5年目で1人前といいますが、自分のやりたい看護というのは、3年目から5年目くらいでだんだん見つかってきたように思います。

自分自身で自信をもって人生を送れていると思えるようになってから、確固たるものができたような気がします。

最初はやっぱり迷いながら、不安だらけでした。

みなさんもそうだと思うのですが、やはり5年目ぐらいでだいたいのことがわかるようになってきてからだと思います。

では最低5年ぐらいは続けないとわからないですよね。

三崎:きっと面白さがわかる前に辞めてしまう子もいるので、もったいないなと思います。

管理者の目から見た時に、最初はやっぱり大変です。

昔は厳しかったですから、私も泣く思いをして覚えたこともありました。

先輩との思い出をお聞かせいただけますでしょうか。

三崎:最初に就職した時、脳外科の病棟だったのですが、病棟の教育担当者から「これを読みなさい」と本を1冊紹介されました。

「脳外科では、意識がなくて、何も訴えられない患者さんも多いから、自分で観察することが大事だから、病気からどんなことが起きているかわかるように、まずこれを読破しなさい」「看護学校時代にいくら学んでいても、そんなに専門的にきちんとは覚えていないのだから、まずは本を見て覚えなさい」と言われました。

新人が4人いたので、みんなで1冊ずつ本を買って勉強しました。

教えてくれる人がいるのはとても良いですね。

三崎:看護学校の先生に「看護学校は勉強の仕方を勉強するところです」「国家試験に受かるための勉強をするところではあるけれど、どこを見たら何が載っている、このことについて理解したい時にはどこを調べればいいか、この病気のことについて知りたい時はどこを見れば良いか、そういうことを学ぶのが看護学校です」と教わりました。

その先生のことは忘れないですね。

看護学校で講義する時などは、私もそのように学生に話ししていました。

講義されてらっしゃるのですか?

三崎:前職場では、副看護師長の時から講義していました。

実践の場で、どんな風に考えて看護をするか

学生さんを教えられた経験で、看護に活きてくることはありますか?

三崎:学生が興味を持つのは、教科書に載っていることではなくて、私がどのように看護について考えているかとか、実践の場でどんなことをやるかといったことです。

学生には、事例をもとに、活きた看護の体験を伝えて、看護に対してもっと興味をもってもらいたいと考えながら講義を組み立てていくのが楽しかったです。

看護師として看護を好きになって欲しい

そういう授業、受けてみたいです。

三崎:最後の試験の後に講義の感想を書いてもらっていたのですが、それを見るのが楽しかったです。

みんなけっこう興味を持って聞いてくれていました。

だから患者さんからいただいたお手紙や、ご家族の思いなど、事例をもとにいろいろ話をするようにしていました。

看護師として、看護を好きになって欲しいなっていうのが一番です。

そこから自分がやりたい看護や、目指すものを見つけて欲しいと思います。

あたたかくて思いやりのある看護

看護部の理念について教えてください。

三崎:「あたたかくて思いやりのある看護」ですが、当初は「温かい」と漢字だったので、これを「あたたかい」と平仮名に変えました。

「あたたかい」看護を提供することと、「あたたかい」雰囲気も大事にしたいという思いからです。

病院・病棟の雰囲気は看護師が変えられるものでしょうか。

三崎:そう思います。

私はずっと「病棟は看護師長によって雰囲気が変わる」と言われていました。

だから「病院も管理者によって変わる」と思っています。

理念の中にもありますが、中で働く人によって病院のイメージや雰囲気はとても変わってくると思っています。

患者さんとご家族の思いを大切に

理念を実践するために、看護部として取り組まれていることはありますか。

三崎:1事例ずつ「こういったことで悩んでいる」「この患者さんどうしよう」など、医療チームで、患者カンファレンスを行っています。

その時に、その患者さんの家族の思いや、患者さんの思いを大切にしながら、その患者さんにとっての最善の治療方針や、「今後どのようにしたら良いか」というのを考えていくというところでしょうか。

それを考えられる看護師になって欲しいと思っています。

部長がその病棟のカンファレンスに出られることもあるのでしょうか。

三崎:あります。

職員がいろいろ話し合っている場面で一緒に入ったり、相談を受けたり、医師とのカンファレンスなどには入るようにしています。

小さい病院だからこそできることだと思います。

看護師長や看護スタッフから「こういう患者さんで困っている」「こういう看護で困っている」「こういう事例で困っている」と言われた時に、私にできるのは「こんな風にやってきた」「こんな風に考える」と自分の経験を伝えていくことで、そこから職員がまた考えられればいいと思っています。

現場と関われるお仕事ですから楽しいですよね。

三崎:そうですね。

現場に密着していますので、当院に来て楽しいのはそこかもしれません。

「病気」ではなく「その患者さん」という考え方

1番好きな病棟はどちらでしょうか。

三崎:私は、それぞれに良さがあると思います。

いろいろな科を経験して、私の性格的には外科系のところが好きだったのですが、内科の看護師長になった時に「じっくり関わるのもいいな」と思いましたし、好き嫌いはないです。

考え方自体は、病気をみるのではなくてやっぱりその人、患者さんという人をみます。

特に当院は急性期・地域包括・療養病棟で、診療科で分けるというより全科が入っていて、それぞれの機能が異なるというところです。

総合病院ではないので内科系・外科系が一緒で、外科はほとんど整形ですが、看護師は全科を看ることができます。

患者さんに寄り添った看護

看護師は中途採用の方が多いと伺いましたが、新卒の方もいらっしゃるのでしょうか。

三崎:昨年1人入りましたが、お子さんがいる方です。

今は、看護学校や看護大学に進学する人たちの中には、家庭を持ってから、やっぱり看護師をなりたかったなど背景が様々ですね。

でも、家庭を持って時間の制約がありながら働くとなると、超過勤務などは大変ですよね。

だから自由がきくこともあって、当院を選んでくれたというのもあると思います。

新人の方はやはり総合病院に行きたい方が多いようで、当院はほとんどが中途採用です。

こちらの病院では、どのような看護が学べるでしょうか。

三崎:基本的な看護を学ぶことができます。

当院で最新の医療や多くの経験をしたいと思ったら難しいかもしれません。

たとえば、救命救急などで急性期の看護に携わってきた看護師が「目の前を患者さんが通り過ぎるだけで、じっくり関われなかったので、じっくり関われる看護をしたい」「寄り添った看護をしたい」と言って入職することもあります。

なかなか難しいことですけど、それができるところかなと思います。

後編へ続く

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