前編に引き続き、聖隷淡路病院の沖原 由美子総看護部長へのインタビューをお届けします。
家に帰る人たちのための病院作り
聖隷病院の「聖隷精神を継承し、地域に根差した医療福祉に貢献する」という理念を実現させるために取り組んでいらっしゃることはございますか。
沖原:「地域」がポイントです。
患者さんも、働く職員も8割がこの淡路島の中に住んでいますから、いつも自分たちは見られているという気持ちがあります。
去年皆でビジョンを作ったのですが、「ほんな、聖隷行こか」とか「面倒見の良い聖隷」と言われ、地域密着型の病院看護の役割を果たせる人材育成と労働環境の整備を掲げて動いています。
「何か具合が悪かったら聖隷に行って相談すればいいな」と思ってもらえるような病院にしたいです。
また淡路島の、同じ屋根の下に暮らす人々を支える病院として、急性期の病院ではできない、家に帰る人たちのための病院作りをして行きたいとも思っています。
聖隷の三方原病院も浜松病院も超急性期の病院ですし、そこへ患者さんがいらっしゃれば、全部治すことができます。
でもここでは医療の資源は限られています。
ですから、ここで治せる患者さんと、ここでは治せないので他院に急いで転送して助けてもらう、というトリアージが必要になります。
自分たちの病院で完結できないことを寂しく思う人は多かったですが、そこは切り替えて、回復期の患者さんを任せてもらってご自宅に帰れるように支援することに力を注いでいます。
地域の先生と関わりは持たれているのでしょうか。
沖原:この地域には6つか7つ程のクリニックがあり、その開業医の方々が一番患者さんに密着した治療をしています。
その先生たちが困らないように支援していきたいと思っています。
開業医の先生たちの患者さんを吸収するのではなく、「開業医の先生たちが地域の患者さんを診やすいように、私たちが動く」という形を目指していきたいです。
淡路島の病院ということで他に何か特徴はございますか。
沖原:コミュニティが小さいですから、例えばインフルエンザが流行してしまうと勤務者を確保するのも時には大変になります。
看護師のサービスを低下させないように、そういう時期はみんなで補ってあげることが大切です。
淡路島は橋がかかる前までは離島でしたし、当院は僻地医療の拠点病院です。
僻地で働くナースを抱えている看護部長たちはおふくろさんみたいな感じがあると思います。
300人目の赤ちゃんの誕生
こちらの病院で300人目の赤ちゃんが生まれたという記事が新聞に載っていました。
淡路市でお産ができる病院はなかったのでしょうか。
沖原:国立病院が20年程前に閉院しまして、その後はお産をできる施設はあったのですが、産婦人科はありませんでした。
ですから分娩のために舟に乗ったり、高速道路で走ったりして明石まで行っていたようです。
移動中に生まれてしまう心配もあったので、淡路市の新しい街づくり計画の中でも産科医療は外せないものでした。
産科はそれだけニーズがあったのですね。
沖原:「2人目をまたここで」とおっしゃる方も出て来ましたので、信用も得てきたと思います。
助産師たちも経験年数が長い人が多いので、とても良い関わりをしてくれます。
産後の悩み相談も淡路市とタイアップして手厚く行っています。
島の人のために尽くしたい
新人の看護師は毎年どれくらい入ってこられますか。
沖原:毎年6名くらいです。
全体の看護師はパートを入れて89名程、10対1で看護師を配置していますから各職場には看護師が20人います。
島の外に住んでらっしゃる方もいらっしゃるのでしょうか。
沖原:8割は島内ですが、後の2割は橋を渡って向こう側から通勤しています。
橋を渡ってすぐの所辺りに住んでいると10分くらいで来られるようです。
みなさんどういうことをやりたくていらっしゃる方が多いのでしょうか。
沖原:地元の大学を出た方で、老年期の看護をしたいという人が来ます。
ここの理念や取り組みに共感して「ここの島の人たちのために尽くしたい」と言ってくれる方もいます。
もともとの聖隷から来た方々はそれぞれの分野でデキル人たちが指名されて来ていますし、「急性期ではない違う分野で自分の力を見つめ直してみたい」という方もいますから、十人十色です。
技術が高い看護補助者
看護補助者は配置されていますか。
沖原:今は各病棟に6、7名います。
夜勤にも看護師と一緒に入り、患者さんの生活のお世話や患者さんたちに生活面からの元気を取り戻す支援をしてくれています。
地元の人が多いので患者さん方の地域の情報を知っているのですごく助かります。
具体的に看護補助者の方々はどのようなお仕事をされているのでしょうか。
沖原:患者さんのお風呂、清拭、排泄、食事などほとんどのお世話をしています。
ちょっと難しい患者さんは看護師や、看護師と看護補助者と一緒にするなど、ランク分けをしています。
環境整備や看護師が使うものを用意もしています。
こまごまとしたお仕事がたくさんあるのですね。
沖原:うちの看護補助者はすごく技術があり、オムツの当て方などは看護師よりも上手です。
そうした技術は、患者さんが「漏れちゃったわ、汚れちゃったわ」と気にしなくて良くなりますのでとても大切です。
大好きな愛犬、園芸
何かご趣味などあれば教えていただけますでしょうか。
沖原:趣味は、浜松で飼っているバーニーズマウンテンドックという56㎏ある愛犬のナポレオンと散歩することです。
あとは、聖隷淡路病院にある「ジャックと豆の木」という園芸部です。
そこでも部長を務めているのですが、この病院周辺や院内の植物の世話をして、花を見たりすることで癒されています。
この前は実習の学生さん59人と「癒しの庭造り」といってチューリップの球根300個を植えました。
また「お食べクラブ」という淡路島内の美味しいところを食べ歩くクラブもありまして、淡路島は淡路ビーフが有名ですから、よくみんなで焼肉屋を巡っています。
過去のことではない震災
阪神淡路大震災の時、近くに断層があったとお聞きしたのですが大丈夫だったのでしょうか。
沖原:岩盤の硬いところの上に病院が建っており大丈夫でした。
現在も「トライアルウイーク」という、子どもたちがまた活気を取り戻すための1週間の仕事体験を続けています。
普通の職業体験とは違う意味があると思います。
震災復興住宅にも、看護師や社会福祉協議会の人たちが行き、まちの保健室という名称で2時間ほど健康測定やフォローをしています。
沖原総看護部長からのメッセージ
沖原:聖隷淡路病院は淡路島のリゾート地にある、152床を保有する地域密着型の病院です。
そして、日本の高齢化率のトップランナーを行くような高齢者の多いところです。
「これから高齢化に向かって、どんな看護をしていったらいいだろうか」
「お家で暮らしていくにはどんなことを意思決定しなきゃいけないか」など、
寄り添いながら聞く技術が求められ、また学ぶことができます。
地域の中で開業医の方々にも地域住民にも、そして行政とも一緒にこの島での医療を支え役に立つことを実感できる病院だと思います。
聖隷淡路病院に入職される方には、自分の看護をしっかり身に着けて貰いたい思い、マンツーマンで指導を行っています。
訪問看護やリハビリの分野に進みたい方々には最適な病院だと思います。
患者さんを中心とした、チームで支え合い、寄り添うことを実体験できる場です。あせらず、気長に成長したい方には適した病院だと思います。
シンカナース編集部インタビュー後記
「聖隷淡路病院があるから仕事にも精を出せる」と地域の方に思って貰え、具合が悪い方が「ほんな、聖隷行こか」と頼って貰える。
そういう病院を作りたいとインタビュー中ずっと笑顔を絶やさずに、情熱を込めて看護に関して語ってくださった沖原総看護部長。
その地域の歴史や文化も、どのように看護を提供していけば良いかに関係してくるというお話には、はっとさせられました。
病院、またそこで働く看護師を含む職員達がその地域の人々に対して持つ責任を、僻地医療を実際に担っていらっしゃる立場から、わかりやすく説明もして頂き、全くその通りだと感じました。
沖原総看護部長、この度は看護の未来に希望を持てるお話をして頂き、どうも有難うございました。
聖隷淡路病院に関する記事はコチラから
No.86 沖原由美子様(聖隷淡路病院)前編:「ホスピスで働きたい」