No. 81 松下直美様 (共和病院) 後編:患者さんの強みを生かした看護

インタビュー
前編に引き続き、共和病院の松下 直美副院長へのインタビューをお届けいたします。
 

優しさの提供、楽しさの構築、質の保証

若くして看護部長に就任されたとお聞きしましたが、何年目になられるのでしょうか。

 

松下:はい、39歳で看護部長になりましたので、今年で14年目です。

私は、やると決めたらやるという瞬発力が若い頃からあります。

そういうところを買っていただいたのではないかと思います。

 

共和病院の看護理念は、看護部長がお考えになったとお聞きしました。

 

松下:そうです、『優しさの提供、楽しさの構築、質の保証』という理念です。

私は、『優しい医療、楽しい職場』という当院の大元の理念が大好きです。

楽しい職場がなければの優しい医療は提供できないと思いますので、優しい医療、楽しい職場とは何かをみんなで考えるよう呼び掛けてきました。

でも、楽しいだけではなく看護の質の保証も大切です。

私が看護部長になって、看護部の理念をどうするか看護部の責任者に相談したときに、みなさんの賛同と意見を頂いて出来上がったものがこの三つです。

 

それらのキーワードを実践するための取り組みについて教えてください。

 

松下:まず「楽しさの構築」というところでは、基本的に常に私自身が元気でないといけないといつも思っています。

私自身がしょんぼりしていたら、他のスタッフが楽しくなることなんて絶対にありません。

なので小さなことですが、元気に挨拶をして、顔を見たらなるべく1人ひとりに声をかけるということを心がけています。

「優しさの提供」に関しては、スタッフから教わることが多くあります。

患者さんのいいところと言いますか「強み」をみんなが発見してくれています。

 

患者さんの「強み」を見つけるというのは、患者さんの人格を尊重するということでしょうか。

 

松下:そうですね、精神科の患者さんは問題と捉えられてしまう行動を取りやすいです。

ですが、問題行動だけではなくその陰に潜むその人の強みに注目して、それを看護に生かすということです。

例えば、何か困ったことが起きた時に、「困ったな、この患者さん」ではなく、「この行動の裏に潜んでいる理由は何だろう」「この患者さんのいいところは何だろう」と捉えて、患者さん一人ひとりの強みを生かした看護を提供するのです。

当院のスタッフは、本当にこの点が素晴らしくて、私が見ていてもすごいなと思います。

その結果、看護の質の高さも保証されていると思います。

 

スタッフに恵まれて

 

素晴らしいですね。ところで、毎年新人の看護師はどのくらい入職されるのでしょうか。

 

松下:当院は、ほとんどが中途採用ですので、本当の新卒の方は年間3~4人くらいです。

看護学校の先生たちの中には、「いきなり新卒で精神科に勤めるのはあまりお勧めしない」とおっしゃる方もいらっしゃるようですが、当院は精神科にプラスして内科もありますので、内科的な処置も十分経験できます。

ただ、人と人との関わりは、やはりある程度経験を積まないとなかなか難しいところがあり、現場で教えてもらいながらやっていくしかない面もあります。

でも、2~3年経つと人としての幅がずいぶん広がり、患者さんに対してうまく対応している姿をよく見かけます。

 

看護補助者の方は、何人ぐらい働いておられるのでしょうか。

 

松下:一部、看護補助者がいない病棟もありますが、精神科病棟、内科病棟ともにほぼ入っていまして、約50人います。

当院の看護補助者の大半は、介護福祉士の資格を持っていまして、介護の知識を持った上で患者さんの生活上の介助や環境整備などの業務に当たっています。

「看護補助者」と言うと「看護の下で働く人」という意味になってしまいますので、前の看護部長の時代から、当院では介護職の方を「ケアワーカー」という呼び方をしています。

 

介護職の方の働きを高く評価されているのですね。

 

松下:そうです、患者さんを疾患や治療的な面から見る上で看護師はプロですが、生活面から患者さんを見る上では介護職の方がプロだと思いますので、決して看護の下ではないのです。

例えば、「この服名前が書いてないけど、誰ですか」と聞けば、ケアワーカーがすぐに「それはこの人のです」と言えるくらい、患者さんのことを良く分かってくれています。

こうした面一つを見ても、ケアワーカーさんは、本当に患者さんの助けになって働いてくださっていますので、すごく頼りにしています。

 

ピエロとしての活動

ところで、看護部長は、ピエロとして活動なさっていると伺いました。詳しくお話をいただいてもよろしいでしょうか。

 

松下:4,5年前になりますが、プロのクラウンの集団に同行してチェルノブイリ原発の近くの小児科病院を訪問させてもらう機会がありました。

ピエロに扮した人が長細い風船でいろいろなものを作っていくのを、子どもたちがキラキラ目で見ているのを目の当たりにして、「言葉が通じなくても、風船ってこんな力があるのだ」ということを実感しました。

 

それがきっかけでピエロを始められたのですね。

 

松下:はじめは自分の趣味としてピエロの恰好をしながら、風船づくりを始めました。

病院も私のピエロの姿を応援してくれていまして、ただの趣味ではなく、土日はいろんな施設に行って活動をするようになりました。

そのうちに、NPOを立ち上げたらどうかというお話も出てきました。

NPOを立ち上げた結果、いまでは色々な仲間が集まってくださりどんどん活動の幅が広がっています。

 

NPOとしては、どのような活動をされているのでしょうか。

 

松下:風船だけに終わらせたくないと思っていますので、私は障害がある方たちと一緒に風船を作っていますが、別の方は認知症カフェや歌声喫茶、ピアサロンを開いています。

地域の精神科の病院に対する偏見を取り除くためには、精神疾患を患う方も地域に出て人と人が顔と顔、活動と活動でつながることが大切だと思いますし、一市民として私自身がピエロになって活動することも意義があると思っています。

ある時、バルーン教室で健常者の方と患者さんが一緒になる機会がありました。

患者さんが「私は精神科の病院に入院して、いま外来で治療しているの」小学生の子に話したそうなのですが、その子はお母さんに「心の病の人は元気な人と何が違うのかな」「すごく普通だね」という話をしていたそうです。

こうした活動を通して、幼少期の頃から心の病の人と接することで、精神疾患に対する偏見が緩和されるといいなと思います。

 

松下副院長からのメッセージ

これから就職する看護学生、潜在看護師の方々に向けて、共和病院看護部のアピールをお願いします。

 

松下:当院ではe-learningシステムを導入しまして、中途採用の方、そして初めてこの病院に来られる方も不安なく、看護を実践していただけるような支援を用意しております。

それから内科病棟もありますので、技術的に不安をお持ちの方でも、支援できるかなという風に思っております。

人と人とが関わるということの根本が、精神科にはあると思っております。

優しい医療、楽しい職場という理念のもとに、みんなが明るく仕事をしていますので、ぜひいらしてください。

お待ちしております。

 

シンカナース編集部インタビュー後記

優しい医療・楽しい職場。

病院の理念と違わずに優しく楽しく、そしてとても明るい松下副院長。

共和病院の理事、副院長・看護部長として病院の立ち位置から患者さんお一人お一人にまで目を配られ、またNPOの理事長としてもご活躍されていらっしゃいます。

精神科というと、周囲にお住いの一般の方々には敷居が高く感じられてしまいがちです。

だからこそ患者さんのために、病院の関係者として、また同じ地域の市民として、周囲の方々と顔の見える関係を作られているそうです。

その活動の結果、偏見が解消される兆しが出てきているというお話を伺うことができ、病院の内外に関わらず、看護師はできることが沢山あるのだということを強く感じることができました。

松下副院長、看護師の可能性を感じられるお話を伺わせて頂き、誠にありがとうございました。

 

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