前編に引き続き、東京小児療育病院の長田 幸枝看護・生活支援部長へのインタビューをお届けいたします。
重症心身障害児者専門病院としての役割
東京小児療育病院の特徴を教えていただけますでしょうか。
長田:当院は、開設から52年ほど経ちます。
「東京小児」とは言うものの、開設当初からの障害児たちの年齢層は上がるばかりで多くの方は平均40歳を超えていて、60歳以上の方もいらっしゃいます。
当院では「患者・患児」ではなく「利用者さん・利用児さん」とお呼びします。
入院ではなく入所という言い方をします。
当院は、亡くなる時が退院になりますので、ほとんどが死亡退院です。
おひとり亡くなると、入所をお待ちの利用者さんが新しく入所するということになります。
外来には遠方から来る方もいますが、地域という考え方がありますので、入所する利用者さんは基本的に東京の方がほとんどです。
病院の横に学校がありますが、こちらの利用者さんが通われているのでしょうか。
長田:もちろん、そうですね。
登校することの難しい利用者さんは、訪問学級で授業を受けています。
隣にある学校ですが、朝はバスで通っていて帰りは学校の先生に車いすを押してもらい帰ってきます。
ひと昔前は、隣の学校は日本一重症な支援学校と言われていましたが、それは当院から多くの子どもが通っていたからだと思います。
人工呼吸器をつけている利用者さんが、多くいらっしゃるのですか。
長田:当院は、重心(重症心身障害)専門の病院なので、当然人工呼吸器をつけている利用者さんも受け入れています。
多摩地区は特殊な地域で重心の病院が6つもあります。
その中で当院が特別なわけではありませんが、当院の前院長は厚生省と協力して超重症児スコアを作った方でした。
また、口から食べられない子たちの嚥下機能を落とさないように、口からチューブを飲み込ませる口腔ネラトン法を作った先生もいらっしゃいます。
全国的に見ると、人工呼吸器の子たちを受け入れられる病院はすごく少ないですし、NICUからすぐに在宅に戻れない子どもの中間病院も必要とされています。
入院数に限りがあるので、対応しきれないのが現状です。
やはり、利用者さんのご家族との関わりも多いのでしょうか。
長田:当院のサービス管理責任者がこまめに連絡は取っていますし、最低月に1回は大きなイベントの時にお会いする機会があります。
夏祭りや病院のお祭り、バザーなどのイベントが定期的にありますし、保護者会の方がお花見を開いて逆にご招待いただいたりすることもありますね。
しかし最近は、保護者の方々の多くがご高齢になられ、成年後見人をたてることが必要になったりしてきていまして、当院での支援の幅がひろがりました。
チームとして利用者のためにできることを考える
こちらの病院では、どのようなスタッフが働いていらっしゃるのでしょうか。
長田:1人の利用者に対し看護師・生活支援員・訓練士・医師などがチームとして担当し、個別支援計画を立案し、話し合いながら進めていきます。
看護師は100人弱、それとほぼ同じ数の生活支援員がいます。看護・生活支援部の職員は全員有資格者です。
ケア以外のお掃除や洗い物などは外部の業者に委託しています。
大勢の看護師さんや生活支援員さんをまとめるのは、ご苦労も多いのではないですか。
長田:そうですね、看護師と生活支援員とでは、目指すところは同じであっても視点がそれぞれ違うので、折り合いをつけるのが難しい時もあります。
例えば、利用者を外出させる場合、看護師は健康管理を重視しますが、生活支援員はその子の経験値を高めて生活を広げるという点を重視します。
スタッフのモチベーションについてアンケートを取ったことがあるのですが、生活支援員のモチベーションを左右するのは、利用者のやりたいことをさせてあげられるかどうか、という点です。
しかし、病院ではやはり命が優先されますので、看護師の視点が優先されることが多いのが現状です。
看護師さんと生活支援員さん、それぞれの視点を尊重しておられるのですね。
長田:そうなのです、どちらが正しいとか間違っているとかではないのですね。
分野によっては、生活支援員の方々が中心となって頑張って欲しいこともたくさんありますし。
なぜなら、ここは病院ではありますが、利用者にとっての生活の場でもあるからです。
みんなが、ここは生活して死んでいく終の棲家、つまり家だと思っています。
看護師が一方的に看護計画を立てるのではなく、広い視野でその利用者の人生をコーディネートするような看護計画が必要とされています。
利用者が10年後、30年後にどうしたら幸せでいられるのか、というところまで考えて全ての計画を立てていくのです。
奥が深いですね。利用者さんに看護やケアを提供する上で、長田部長が最も重視するのはどんなことですか。
長田:それは、利用者のために何をしてあげたいか、何ができるかをそれぞれのスタッフが自分で考えることですね。
病院としての理念、院長の方針、看護部の方針というのがすでにありますので、それぞれのスタッフが、そこに向かって行くように指導をしています。
病院のいろんな場所に理念が貼ってはありますが、それぞれが何度も振り返りをして自分で考えて理念を実践する方法を見つけることが大切だと思っています。
私が言うのもおかしいのかもしれませんが、この点で、当院のスタッフはとてもよくやっています。
あるアンケートで、8割ぐらいのスタッフが「利用者さんが楽しめることをしたい」と書いていましたので。
看護部長とスタッフの絆
看護部長さんに褒められるとスタッフの方々も嬉しいですね。
やはり長田部長は、スタッフの方々とのコミュニケーションも大切にしておられるのでしょうか。
長田:そうですね、現場のスタッフとの関わり合いは大切にしたいと思っています。
この間は、支援の主任と看護の主任が「すべて部長が読みます」と最初に書いたアンケートを配り、スタッフみんなの思いを受け取りました。
今日などは、発熱している病棟を見に行ったところ、すぐに終息したようなので「広がることもなくって頑張ったわね」と声を掛けたら、「私たちが頑張っているんです。オロナミンCをください」と言われてしまいました。
明るいスタッフがたくさんいるのですよ。
長田部長とスタッフの方々、すごく良い関係性ですね。何か秘訣はありますか。
長田:秘訣というよりも、たぶん私が最近まで現場にいたからかもしれません。
歴代の看護部長の中には、経験者が外部から入って来て就任するケースもありました。
しかし私の場合、現場も良く分かっていますので、意見を言いやすいのだと思います。
やはり、意見を言い合える立場でいたいですよね。
ナースコールがいらない看護
スタッフと同じ目線に立つようにされているのですね。こちらの病院の看護の特徴を教えてください。
長田:当院にはナースコールがないことが、ひとつの特徴です。
具合が悪いからといってナースコールを押せる利用者さんは1人もいませんから、看護師たちはナースコールがなくても利用者の変化に気づくことが大切なのです。
当院では、「この利用者さん、昨日と違う」「何か起きているんじゃないか」と早期に異常に気付き、適切なケアを提供することがすごく必要とされています。
これは、看護の基礎中の基礎でもありますので、看護師も生活支援員もここで鍛錬して成長するよう期待しています。
人工呼吸器をつけた利用者さんの看護は難しくないのでしょうか。
長田:寝たきりでいると痰が背中側に溜まってしまいます。人工呼吸器をつけた利用者さんも、本人の体幹に沿った腹臥位マットを作成し、腹臥位やたくさんの体位をとります。
窒息事故を防ぐため利用者さんには、サチレーションモニターを装着してもらい、情報をセントラルモニターで管理し、何かあればすぐに気付いて飛んでいけるようにしています。
こちらの病院の訪問看護について教えていただけますか。
長田:現在、当院の訪問看護は、非常勤を含め看護師約10人で動いています。
重心と小児のみが対象ですので、障害児を抱える親たちの苦悩を目の当たりにします。
実は、病院にいる障害児よりも在宅で人工呼吸器を付けて過ごしている障害児の方など、重度の方が多いと思います。
「病院として在宅に対して何ができるのか」「新しい事業として切り込んでいくべきかどうか」という点を考えなくてはならないと思っています。
現状では何が一番の問題点となっているのでしょうか。
長田:やはり、制度に関することがネックとなり、思うように看護を提供できないということはあります。
例えば、Aさんのところに訪問看護を行っているとします。
訪問看護は2か所使えますが、2つの訪問看護ステーションが自分たちの計画を共有しているかというと、そうではないのです。
2件の訪問看護ステーションのうち、1件が訪問看護報酬を多く受け取れる対策を取ると、もう一つの1件は報酬が少なくなってしまうのです。
自分のところの利潤を捨てるところから始めて、訪問看護ステーション同士のネットワーク作りをしなければこの問題は解決できないでしょう。
保険請求に関することやネットワーク作りなど、ウェーブを起こすだけでもいいので、今後も意見は出し続けていきたいと思っています。
看護師のキャリア開発にむけて
前向きなお話をありがとうございます。
話は変わりますが、長田部長は普段どのように息抜きをされているのでしょうか。
長田:私の場合、インドア派なので何かに没頭して作品を作ることが、息抜きになります。
例えば、ビーズでアクセサリーを作って誰かにあげるとか、丸1日お料理するとか、お休みの日に冷蔵庫の中のものを全部出して全部料理するなどですね。
あと、辛くなったらロフトなどに行って、新しい文房具を大人買いするという時もあります。
活字は好きで本はよく読みますが、最近はエッセイ集のようなあまり気をつかわない本をよく読みますね。
ぜひ、こちらの病院で看護師として働くメリットをアピールしていただけますか。
長田:当院には療育がやりたいという看護師が全国から集まっています。
看護師のキャリア開発にも力を入れていて、現在、係長クラスで通信大学に行っている人が2人います。
3年制の専門学校を出た看護師が、4年次に編入でき(通信制)1年行けば学位が取れるという大学があり、その支援制度があります。
また、認定看護師を取りたいという方には、もちろんバックアップすることもできます。
最後に、これから看護師になろうと思われる方、職場を探されている看護師さんに向けて、東京小児療育病院からのメッセージをお願いいたします。
長田:東京小児療育病院は障害児を対象とするなかなか特殊な病院ではありますけれども、ぜひ勇気をもってドアをノックして頂きたいと思います。
見学していただければ、どれだけみんなが笑顔で働いているかわかります。
まず、当院を訪ねて頂きたいと思います。
最初の病院にはなれなかったとしても、例えばどこかの病院で働いていて、その後、利用者の笑顔を思い出して頂いて当院に勤めたいと思って頂けましたら、ご一報下さい。
喜んでスタッフがご案内致します。
ぜひ勇気をもってうちのドアをノックしてください。
よろしくお願いします。
シンカナース編集部インタビュー後記
利用されている方々の生活だけでなく、人生のかなり深くにまで看護師が関わる必要があるというお話を伺った時、看護師の仕事の重要性、幅広さを改めて実感いたしました。
学生の頃に命を扱う怖さや責任感を強く感じられた長田部長。
その経験があるからこそ、今は部長として、現場で働かれている看護師と生活支援員の両方を導くことが出来ているのではないかと思います。
「利用者さんに楽しんで貰いたい」という声がスタッフから出てくるというお話から、病院で働いているスタッフも楽しんで仕事ができているということも伝わってまいりました。
利用されている方々へ良い関わりをするためには、スタッフが常に明るく元気でいることが重要だと強く感じました。
長田看護・生活支援部長、この度はとても熱心に貴重なお話をして頂き誠にありがとうございました。
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No.73 長田 幸枝様(東京小児療育病院)前編「障害児のために何かしたいという熱い思い」