No. 67 都築 智美様 (大同病院) 後編:看護部長として伝えていること

インタビュー

前編に引き続き、大同病院の都築智美看護部長へのインタビューをお届けいたします。

師長としての取り組み

師長になられたのは何年目のときでしょうか。

都築:師長になったのは16年目でした。

年功序列ではなく、上司の推薦で任命されるため突然に決まったように思います。

師長になってから大変さを感じたことはありましたか。

都築:当時の外来の主任さんは定年間近の大先輩ばかりでしたが、私は比較的若い方で、外来へ異動したと同時に師長になったため、「今あるものを変えたくない」という方が多く大変さを感じました。

その頃は病院が電子カルテを導入し様々なことを変えようと取り組んでいた時期だったため、一番変える必要のある外来で大先輩方をどう動かしていくかというところは、一番苦労しました。

やはり電子カルテ一つ導入するのにも、みんな「やれない」から入っていくため、「やれない」から「やりたい」気持ちへ変えるためにはどうしたら良いのかと考えました。

基盤には信頼関係が大切であり、「この人に言われたくない」と思われてしまってはいけないので、人間関係をきちんと構築し、いかに仕事でわくわくし、やりたいと思ってもらうかを考えました。

根拠を伝えることにエネルギーを

人間関係を構築するために心掛けていたことはございますか。

都築:今もそうですが、なぜやるのかの根拠を伝えるところが一番時間をかける必要があると思っています。

「やってください」と言えば一旦はできますが、理解していないことは継続できないため、いかに腑に落とし、やってもらうか、その根拠を説明できるか、というところにエネルギーを使っています。

私は問題のある場所へ入ることが多かったのですが、「なぜ私がここに今置かれたのか」を考え、問題解決のためには、何が一番の問題でどのように変えていくか、そのためには誰に伝えれば良いのか、優先順位はどうか、と一つ一つ考えて動くようにしていました。

また、認定看護師として、嚥下障害のある患者さんへの関わりや地域へ繋げていく仕組み作りで上手くいかず悩んだときに、大学院に進み、学んだことで腑に落ちたという経験が今も生かされていると思います。

大学院での学びから変わられたことはございますか。

都築:なぜ人は、組織は動かないのか、と師長になったときに悩みましたが分かりませんでした。

しかし、大学院で組織論や経営論、保健医療福祉の問題などを学ぶことですごく納得する部分がありました。

組織は作っていくもの、人とはそのような生き物である、というようなことが情報として理解できたのだと思います。

師長から看護部長になるまでは、どのような道のりだったのでしょうか。

都築:師長になって4年経った頃、当時師長だった前任の看護部長に「科長になってみませんか」というお言葉を頂きました。

その頃は新棟を開設し、少しずつ病院の機能が変化していく時代でもあり、一病棟単位の師長が単独で動いていると一致団結できないという思いが前任の看護部長の思いにあったのだと思います。

そのため、その時に師長をまとめる科長職という役割を頂き病棟をまとめ、問題解決に向け取り組んでいたことで、その過程を評価して頂き、前任の看護部長が定年退職された2年半前に後任ということで選んで頂けたのだと思っています。

前任の看護部長はすごくリーダーシップがあり、何事も迷いなく進めていく人でしたが、そのスピード感に腑に落ちていない師長さんたちもいると感じていたため、看護部長の根拠を伝えていく2番手の役割を担っていました。

そのことを評価してくださったのだと思いますが、自分自身が看護部長の立場になると仕事の面白さという部分では科長職の方が感じられていたと思いますし、3年間の科長職の経験がその後の力になったと感じています。

そして、もちろん看護部長の立場でもできることがあるため、看護部の方針を師長たちに伝えていくことを常に心掛けています。

大きな組織の調整役

看護部長の役割とは何であるとお考えでしょうか。

都築:今は、理事長や院長に看護部の思いを伝えるという意味では役割が大きくなっただけで、調整ということに変わりはないと思います。

自分の目標や組織の目標を達成するために、自分がいかに調整できるかということに難しさも感じますが、看護部長の役割として楽しさもあります。

大きな病院の看護部長の方々とは経験が違うと思いますが、この民間病院の規模の中できちんと病院を俯瞰して見ることができる看護部長になりたいと思っています。

患者さんの傍にいること

看護部の理念を実践するために心掛けていらっしゃることはございますか。

都築:看護部理念は、看護部長になって1年間考え今の理念に刷新しました。

患者さんが病院の中にいる期間は、長い人生の中の点の部分なのですが、看護師はどうしても病院の型に嵌めようとしてしまう傾向があることがすごく気になっていました。

「病院のパジャマを着せ、点滴をして、バーコード認証をする」ということが当たり前になりがちですが、長い人生の中の点でしかないのだから、今までの生活歴やこれからどう生きたいのかを大切にする必要があるということを繰り返し看護師に伝えるようにしています。

そのため、退院支援課の看護師が入院前に既往歴や生活スタイルなどを確認するための仕組みを構築しました。

一般的に退院支援の過程では、医療相談員や社会福祉士が関わることが多いと思いますが、当院では看護師8名が在籍する退院支援課が対応しています。

その中には小児救急看護と脳卒中リハビリテーション看護の認定看護師が在籍しているため専門的な目で退院後の患者さんを想像できるような情報を入院前から収集することが可能になっています。

そしてそれらを病棟の看護師に繋げていくことで、患者さんがどう生きてきたのか、今後どのように生活していきたいのかを様々な職種が交わってカンファレンスを行うことができています。

また、退院後の訪問看護や在宅診療へどのように繋げていくのか、より良い形にできるよう常にディスカッションをしています。

入院中だけ、手厚く看護することができても、退院後の生活がその患者さんにとってはもっと大切だと考えています。

そして看護師がなるべく患者さんの傍にいることが大切だと思っています。

昔の病院ではナースステーションに看護師が集まって記録しているようなイメージがあると思いますが、そうならないように師長から働きかけてもらっています。

また、そのためにベッドサイドに足を運ぶ環境が必要であるため、病院としてもパソコンやワゴンなど物品を揃えました。

患者さんの傍にいることで、ご家族との会話から見えてくる患者さんの生活や姿が見えるという利点もあります。

看護師の気配があるだけでも安心されますし、カーテンを閉めていても「ここにいるのでいつでも呼んでください」と4人部屋の真ん中に看護師がいるだけで患者さんも声を掛けやすくなると思います。

業務が多忙な中、看護部の理念を実践していくことに難しさを感じられていますか。

都築:忙しさを患者さんに見せるような看護師ではいけないと思いますし、忙しくても忙しくないとスマートに見せることができると良いと思っています。

まだまだ伝えきれていない部分もたくさんありますが、少しずつでもそのような体制を取っていけるよう、師長たちもフットワーク軽く取り組んでくれていると思っています。

今までも大切にされてきた患者さんの傍にいるという看護部の理念は、変えずに受け継ぎつつ、傍にいるだけでなく「生活に視点をおいた看護」を加えました。

急性期の病院だから短期間の関わりだけでも良いという看護師は作りたくないので、急性期や高度急性期だからこそ、生活に目を向けましょうということを中途採用の看護師さんや新人の看護師さんにも時間をかけて説明しています。

一度仕事から離れる

日々お忙しく過ごされる中、何か気分転換にしていることはございますか。

都築:娘と猫が大好きなので、娘と猫と過ごすことが一番の気分転換です。

私は思い詰めると仕事のことしか考えらず、休日も出勤してしまうため、大学生の娘が「一日休んで仕事から離れた方がいいよ」とよく言ってくれます。

そんな時は「少し思い詰めていたのかな」と思ってお休みを取ったり、娘から「水族館でも行こう」と誘われると出掛けたくなくても足を運んだり、と娘に気分転換をしてもらっています。

また、一人で車に乗っていることも好きなので、少し遠回りしたり、高速に乗ったり、通勤の時が気分転換にもなっています。

看護部長からのメッセージ

最後に看護師を目指している方や新人看護師に向けたメッセージをお願い致します。

都築:病院の中では一番人数が多い職種ですから、看護師は比較的結束力が強いと思っています。

そのことが強みになったり、弱みになったりすることもありますが、看護をしている人たちが集まるととても強いパワーになります。

看護師の仲間を広めどんどん大きなパワーを作り上げてより良い看護を提供したいと思います。

当院に限らず、どこででも看護師として長く働くことができたら嬉しく思います。

楽しい職場ですのでぜひ大同病院にも来て下さい。

シンカナース編集部インタビュー後記

都築部長の「疑問を持たないと看護師は成長しない」というお言葉を伺い、清々しい気持ちになりました。

医師との協働や指示があるからと言って、看護師が全て受け身でいいわけではない。

考え、提案し、実行できる看護師であることを看護管理者自らが体現されていらっしゃるというのは、未来の看護界にとって希望であると感じました。

都築部長は開拓者でもありながら、先人たちの歴史も尊重され、とてもバランスの取れた指導者だと思います。

過去、現在、未来それぞれのバランスを大切に看護師、チーム、組織を構築されていらっしゃる。

自らの役割を調整役とし、全体を俯瞰して病院全体をまとめておられるのだということがわかりました。

都築部長、この度はとても穏やかに熱のこもったお話をしていただきまして、誠に有難うございました。

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