No. 270 板倉病院 梶原崇弘 理事長・院長 後編:『病院が地域を作り、地域が病院を作る』

インタビュー

前編に続き梶原先生に、これまでの病院改革とめざす病院像について語っていただきました。

 

看護師という人財

 

久保:梶原先生は、救急医療・健診・在宅医療を柱に病院改革を行ってこられたということですが、

病院改革を進める上で、他に注力された点などございますでしょうか。

 

梶原:人材面はかなり重視してきましたね。

法人にとって人は財産ですし、良いスタッフがいないと、患者さんに良い医療を提供することもできません。

特に、看護師については、病院の医療の質を高める上で重要な存在だと思っていますので、

積極的に採用を行ってきました。

 

 

標榜している看護配置は10対1ですが、実際は7対1ぐらい人数がいると思います。

※10月から7対1の急性期一般入院基本料①に変更しました。

 

久保:梶原先生がおっしゃる看護師の重要性についてもう少し教えてください。

 

梶原:誤解を恐れずに言うのであれば、医師は看護師がいなかったらほとんど何もできません。

薬を実際に投与したり、点滴を打ったりするのは看護師ですし、

そもそも、医師は指示を出しますが、指示を受けてくれる人がいなければ成り立ちませんよね。

 

 

また、病棟で患者さんのことを一番知っているのは看護師なので、

患者さんの状態変化に気付き、迅速に医師に伝えるなど、

看護師がパフォーマンスを発揮してくれてこそ、良い入院治療が提供できると思います。

 

 

久保:人財を確保するために、梶原先生はどんな取り組みをされてきたのでしょうか。

 

ワクワク、イキイキ、ニコニコ

 

梶原:職員満足を上げ、ここで働いていたいと思える環境を作ることです。

私はよく、『ワクワク、イキイキ、ニコニコ』という言葉を使いますが、

スタッフが仕事にワクワクでき、明るくやりがいを持って働くことができれば、

職員満足も向上し、離職率も下がると思うのです。

 

 

久保:看護師については、具体的にどういった取り組みをされてきたのでしょうか。

 

梶原:まずは、ワークライフバランスの充実ですね。

当院には、中途採用の看護師が多くいますが、

一般的に、ある程度キャリアを積んだ看護師が、子育てなどが原因で仕事辞めることは多々あります。

しかし、結婚し子育てをしている看護師には、高い社会性を備えている人も多いので、

子育てのために辞めてしまうのは、社会損失だと思うのですよ。

  

 

そのため、当院ではワークライフバランスが叫ばれる前から、

勤務日数や勤務時間等、生活スタイルに合わせた勤務ができるよう取り組んでおり、

現在も、子育てをしながらイキイキ活躍している看護師がたくさんいます。

 

 

久保:なるほど。

 

梶原:他にも福利厚生面での工夫もしました。

病院では日本初なのですが、カフェテリアプランという制度を導入しています。

これは、簡単に言うと、年間6万円までなら福利厚生としてある程度自由に使って良いという制度です。

使用できる範囲も、住宅ローンの支払いや、旅行、食事、介護、健康診断など非常に豊富で、

レシートさえ持って来れば福利厚生として認められます。

 

 

従来の福利厚生制度は、職員用施設が使える、割引が受けられるといった限定的なものが多く、

結局未消化で終わることも多かったと思いますが、

この制度を導入してから、みんな喜んで使い切っていますよ。

 

 

久保:そういった取り組みの成果はいかがですか。

 

梶原:やはり過渡期でバタバタしている時は離職も多かったですが、やっと落ち着いてきたところです。

職員満足向上の取り組みもそうですが、新しい看護部長の影響も大きいかもしれません。

彼女は肝っ玉母さんみたいな人で、とても良い雰囲気を作ってくれています。

 

 

久保:ありがとうございます。

梶原先生は、さまざまな改革を進めてこられた訳ですが、

投資に対する不安は無かったのでしょうか。

 

地域にとって何ができるかを考え続ける

 

梶原:金融機関にも、一時的には過剰投資じゃないかと言われたこともあります。

ただ、全てこの病院が良くなり、地域が良くなるために必要だと思い、その信念を貫いてきた結果ですし、

地域の状況、医療制度の流れから見て、経営的にも大丈夫だと確信していました。

 

 

久保:その先で梶原先生が描く病院像とはどういったものなのでしょうか。

 

梶原:私は、『病院が地域を作り、地域が病院を作る』という言葉をキーワードにしています。

そのために当院は、『屋根のない総合病院』にならなければいけないと考えています。

つまり、自分の病院だけがうまくいけば良いという発想ではなく、

当院が地域に対して何ができるのかを常に考えること。

 

 

そして、地域の医療機関や行政などと施設の壁を越えて手を携え、

安心して暮らすことのできる地域を作ることが重要なのです。

その結果、病院自体もより良いものになるのではないでしょうか。

 

久保:救急医療体制の充実や、画像連携システムの導入、在宅医療への取り組みなどは、

まさに体現する取り組みですね。

 

梶原:その他にも、地域に不足する診療科への対応も行っています。

船橋市に不足する診療科として、腎臓内科がありますが、

法人として平成30年にクリニックを開設し、クリニックと当院が連携しながら、

透析になる前の慢性腎臓病患者さんに対し、専門医を中心に診療を行っています。

 

 

また、専門資格の取得を積極的に支援していることもあり、

当院の看護師には慢性腎臓病や糖尿病関連の資格保持者が多くいますので、

ケアの面でも充実した体制が築けています。

 

 

久保:ありがとうございます。

その他、何か新しい取り組みなどございますでしょうか。

 

病院をより身近な存在に

 

梶原:今取り組んでいることは、子ども食堂です。

一般的に子ども食堂といえば、貧困家庭等を対象にしている場合が多いですが、

それだけではつまらないと思っているので、『ごはんラボ』という名前で、

広く子ども達に、安価で栄養のある食事を提供できる施設をめざしています。

 

 

 

ただし、子ども食堂の開設自体がゴールではありません。

将来的には、認知症のオレンジカフェや、障害者用のカフェも一緒にしたフラットに過ごせる場を提供したり、

普段病気になっていない時から病院に来る環境を整備することが真の目的です。

異色なもので言えば、個人的には『利き酒大会』の開催も考えていますね。

 

 

久保:とても面白い取り組みですね。

 

梶原:こうしたイベントを通じ、あまり病院にかからない人を含め、

地域の人が、日常的に病院と接することができれば、

病院を身近な存在として認識し、より深く理解できますし、

いざ病気になって受診するときも、ストレスが少なくなると思うのです。

 

久保:なるほど。

では、そういった病院を作っていくうえで、梶原先生が看護師に求めるものは何ですか。

 

看護師に求めるもの

 

梶原:まずは、自分から発信する力ですね。

 

 

損得ではなく、患者さんにとって良いと思うことはどんどん提案・発信してやってもらいたい。

自分が患者さんのことを一番分かっている存在であることにプライドを持って、

向き合い、寄り添いながら、少しでも患者さんのためになる工夫などは無いかと考え続けてもらいたいですし、

それを広めて欲しいと思います。

そうすれば、自分もワクワクできるのではないでしょうか。

 

 

久保:おっしゃる通りですね。

 

梶原:もう一つは、地域に貢献するという意識を持って欲しいということです。

これからの地域医療は、地域の診療所や介護事業者等と病院が、

密に連携して医療・介護・福祉を提供していかなければなりません。

 

 

その結節点として、看護師の役割は非常に重要です。

看護師が、『退院したら、患者さんは地域に戻るんだ』という意識を持ち、

かかりつけ医にはどういう状態で帰すべきか、自宅での療養生活やそれを支える人たちには、

どういう風に繋いでいけば良いだろうかということを常に考えられれば、

より良い地域づくりに繋がると思います。

 

 

久保:素晴らしいお話、ありがとうございました。

最後に、看護師に改めてメッセージをいただけますでしょうか。

 

メッセージ

 

梶原:私が看護師、看護学生に伝えたいのは、是非一度見に来て欲しいということです。

 

 

当院は、救急・急性期から在宅医療まで幅広い医療を行っているので、

看護師としての基本スキルを身につけるには充分な環境があります。

また、大病院等での教育経験を持つ中途看護師も多くいますので、

一人ひとりに対し、丁寧に指導できるという特長もあります。

 

 

加えて、人柄の良い看護師が多く、今年採用した新人看護師も、

とても楽しそうに活躍してくれています。

新人看護師や、看護学生の受け入れも積極的に行っていますので、

まずは一度見学に来ていただき、雰囲気を体感していただければと思います。

そして共に、この地域を素晴らしい地域にしていきましょう。

 

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