東京都品川区にあり、特定機能病院として高度な診療・研究・教育を担う昭和大学病院。
今回は、元病院長である板橋先生にお話を伺い、
同院がめざす医療、医療職のあり方を語っていただきました。
高度医療から一次救急までに対応
中:今回は、昭和大学病院元病院長の板橋家頭夫先生にお話を伺います。
先生、どうぞよろしくお願いいたします。
板橋:よろしくお願いします。
中:まずは、貴院の特徴について教えていただけますか。
板橋:当院は、特定機能病院の指定を受けた、815床の大学病院です。
そのため、第一には高度な医療の提供を使命としており、
現在は、ゲノム医療への対応強化や、アレルギー疾患の拠点病院化をめざしています。
また、山手線内側の大学病院などとは違い、高度な医療だけではなく、
一次救急や二次救急の患者さんなどにも、幅広く対応することが求められていると感じています。
中:ありがとうございます。
次に、板橋先生ご自身についてお伺いしたいのですが、先生が医師を志した動機を教えていただけますか。
昭和大学医学部での学び
板橋:医師をめざしたのは高校時代ですが、当時はそれほど強い志を持っていた訳ではありません。
親族に医師はいませんでしたし、私自身もどちらかというと文科系寄りで、
医学部と並行して他大学の文学部なども受験していました。
たまたま合格した大学のなかで、当時は昭和大学医学部の授業料が安かったので入学を決意しました。
中:実際医学部に入られて学ぶなかで、医師になることへの思いは強くなったのでしょうか。
板橋:そうですね。
昭和大学では全寮制教育を行っており、全学部の入学生は1年間寮に入り共同生活をします。
当時は医学部と薬学部だけでしたが、今は歯学部と保健医療学部が加わり、4学部が入寮することになります。
寮生活のなかでは、「医師とは」「医療とは」「人の命とは」などについて、
学部も背景も異なる同級生と結構まじめに議論をしていました。
そうした議論を続ける内に、考え方の多様性を知り、医師になるという志も高まったと思います。
中:学生時代の勉強は大変でしたか。
板橋:医学部での6年間、クラブ活動として軟式テニスもやりながらでしたが、特に苦はありませんでした。
試験勉強なども、直前になって焦ってやるのは嫌いでしたので、
事前に各科目のまとめを作るなど準備をしておきました。
友達にもそれを配っていたため、かなりの人が私のまとめを使って勉強していたようです。
中:勉強をする上で心がけていたことなどございますか。
基礎の重要性
板橋:とにかく基礎を理解することです。
問題集をやり、答えを覚えるだけの勉強方法だと、浅い知識は身につくかもしれませんが、応用が利きません。
テキストを読み込み、常に病態生理を考えること、そのさいに基礎医学に立ち返りながら勉強を続けることが大切だと思います。
中:なるほど。基礎医学が正しく積み上がることで、臨床現場で生じる新しい問題にも対処できるということなのですね。
専門医になり、診療を続けるなかでも、やはり基礎医学や幅広い医学の重要性は感じられますでしょうか。
板橋:私の専門は小児科のなかでも新生児集中治療ですが、
NICU(新生児集中治療室)を退院した後も患児さんを長期的に外来でフォローしているんですね。
そうすると、思春期、成人期と成長するなかで、各ステージステージで新しい問題が出てきます。
最近では、小さく生まれた子どもたちは、
生活習慣病や精神神経疾患、炎症性腸疾患、発達障害などのリスクが高いことも分かってきています。NICUでの診療だけを考えるのであれば、
「大きな合併症がなく育って良かったね」というところで完結してしまいますが、
こうした成長過程での問題をある程度予知して総合的に診ていくためには、
やはり基礎医学や幅広い臨床を正しく理解していることが重要になります。
中:ありがとうございます。
少し目線を変えて、医学の勉強の他に、学生時代の経験が今に活きていることなどありますでしょうか。
チーム医療の素地
板橋:やはり、寮生活での経験が大きいですね。
医療が高度化した現在においては、医師だけではなく看護師やコメディカルなどの専門職が、
患者さんを中心に据え、チームで診療・ケアを行います。
私をはじめ昭和大学の学生は、寮生活を通じて多職種を知り、
互いに尊重してコミュニケーションをする素地を養うことになります。
そのおかげか、今では〈昭和大学といえばチーム医療〉とよく言っていただけます。
中:先生ご自身もこれまで、チーム医療、他職種との連携というのは常に意識されてきたのでしょうか。
板橋:そうですね。特に看護師と良い関係を作ることは強く意識してきたつもりです。
患者さんと24時間接しているのは看護師ですので、
医師と看護師が充分なコミュニケーションを取れないことは、最終的に患者さんの不利益に繋がります。
例えば、看護師にきつく当たるような医師には、
「また怒られるかもしれない」と思い、患者さんの細かい情報が伝えにくいですよね。
そうすると、医師の対応も後手後手に回り、結局患者さんに充分な医療を提供できなくなってしまうのです。
自慢ではないですが、私はこれまで看護師さんを怒鳴ったことは一度もありませんし、
病院長となった当時でも、「ハラスメントは絶対に許さない」と職員の前で言うようにしていました。
できるだけお互いの立場を尊重し協働できるよう心がけた結果、
看護師とは比較的良い関係が築けてきたと思います。
あとは、頂き物などがあれば、こまめに看護部に差し入れることもしていますね。
中:そうですか。すごく看護師にはありがたいことですが、看護師側もそれに甘えず身を正さないといけないですね。
後編に続く