No.260 複十字病院 大田健 院長 後編:誤りを指摘してくれる人がいる関係性が大切

インタビュー

 前編に続き、大田先生のご経歴と、病院長としてのマネジメントの要諦、

医師と看護師の在り方などのお考えをお聞かせいただきました。

 

新しい環境に踏み出す一歩

 

中:帰国されてからのご経歴をお聞かせください。

 

大田:東大の教室に戻りしばらくしますと、聖マリアンナ大学に難病治療研究センターを開設された

恩師の水島裕先生に「来ないか」とお声がけいただきそちらに移りました。

さらに帝京大の助教授、教授を経てから、東大での研修医時代にお世話になった矢崎義雄先生のお声がかりで

国立病院機構東京病院の院長職を務めました。

その定年退職後に当院に移ったという次第です。

 

 

中:そうですか。そうしますと先生は常に人との出会いや繋がりによって、

新しい役割を担うということが続いてこられたのですね。

新しい環境に踏み出す時、気持ちの切り替えが必要になるかと思うのですが、

そういった点はどのように乗り越えてこられたのでしょうか。

 

大田:もちろん環境が変わる時に戸惑いは必ずあります。

ただ、いずれも短期間です。

すぐに、新しい環境で自分が何をできるかということや、何か問題点があるとしたら

それをどのように解決していくかを考えるように切り替えます。

 

 

中:そこで先ほどお聞かせいただいたリーダーシップを発揮されるのですね。

 

大田:それぞれの環境にはそこで長く頑張ってこられた方々がいます。

その点をわきまえておかないといけません。

自分はそこに何もわからずに入り込んで行くのですから、独走ではなく周囲との協調が大切です。

 

陰口は絶対に言わない

 

中:ただ、外から来るからこそ見える部分というものも少なくないと思いますが。

 

大田:その点はおっしゃる通りで重要なポイントです。

ですから私も「外から見ていると、ここは少しおかしいよ」といったことは必ず伝えます。

相手のことを認めた上で、気付いたことは放置せず、共有することが大切です。

 

 

中:ここまでお話を伺ってきて、先生の醸し出される雰囲気がとても優しく、

周囲の人が自分の話をしっかり聞いてもらえそうに思うのではないかと感じました。

 

大田:大学の研究室に席を置いていた頃から、

「みんなで楽しく、しっかり研究しよう。陰口は絶対に言わないようにしよう」とよく言っていました。

また、何かトラブルが発生したら、とにかく意見をぶつけ合って

互いに納得することを解決策としていました。

たとえ言いあいになったとしても、黙っているよりずっと良いと思います。

 

適切な助言をすることと、それを受け入れること

 

中:少し話題を変えて看護師についてお尋ねしたいのですが、

先生がこれからの看護師にどのようなことを期待されているか、お聞かせください。

 

大田:医療を行う上で医師と看護師は車の両輪です。

これはもう、変わりようがなく永遠に続くことだと思います。

 

 

いま、医師の働き方改革に伴う業務移譲などの話もありますが、

医師と看護師の両者の役割をドライに分ければ上手くいくかと言えばそうではなく、

やはり境界をファジーとして両者が協力しながら進めるべき部分も必要だと思います。

ボーダーがはっきりしないところを互いに補いあえるようなかたちが理想のように感じます。

 

 

そしてもう一点、看護師、あるいは医師もそうですが、それぞれに適正があります。

うまく適材適所に配置されていればよいのですが、実際にはそうではないこともあります。

そのような状況の時に、互いが互いを尊重し、

相手の立場を考え助言を与えられるようになることを期待します。

 

 

中:確かに、おっしゃる通りですね。

 

大田:批判的になろうとしたら、いくらでも批判はできますから。

私自身の体験を申しますと、卒業後の最初に研修した内科でのことですが、勤務を開始した直後は

新米のくせに少々生意気で、点滴のオーダーの間違いを相手のことへの配慮を欠いた表現で注意していたり、

一緒に仕事を担当する看護師さんへの配慮を欠いた態度をとっていたように思います。

 

 

するとある日、先輩から呼ばれ「大田君。今の君のままだと駄目だ」と言われ、

その一言で目が覚めたことがあります。

自分の欠点を早い段階で指摘してくれる人がいて、私は本当に良かったなと思います。

 

 

中:正しいアドバイスをしてくれる人の存在は、とても重要ですね。

 

大田:重要です。

アドバイスを受け入れられるかどうかは自分次第ですが。

私は本当に早い時期にアドバイスを受けられて助かっています。

 

 

中:そういった感受性を培うため、または失わないために、何か良い方法はございますか。

 

大田:優しい本を読むことが一助になるのではないでしょうか。

私はバートランド・ラッセル卿の幸福論や武者小路実篤の作品が好きです。

 

予防医学部門を強化したい

 

中:ここでまた貴院の話題に戻しますが、これから院長として、

この病院をどのよう変えていきたいとお考えですか。

 

大田:いま充実している部分はより伸ばしていきながら、

足りていない部分は満たすようにしていきたいです。

また、私自身は予防医学に興味があります。

結核の予防という意味ではなく、一般的な健康管理による疾患予防ですが、

そういった面で当院が成長できればいいなと考えています。

 

 

結核に関しては国内の蔓延がそう簡単に終息するとは思いませんけれど、

罹患率は徐々にさがっていますので、これまで積み上げてきたことが生かされてきているように感じます。

あとは当院の建物がだいぶ古くなっている部分がありますので、

ハード面のリニューアルが必要だと考えています。

 

 

中:そうしますと、まだまだ休む暇がございませんね。

 

大田:着任してまだ1年経っていませんから、これから見えてくることが多々あると思います。

 

中:お仕事以外の時間はあまりないかと思いますが、どのように使われていますか。

ご趣味をお聞かせください。

 

大田:趣味とは言えませんが、孫が5人いまして、会うと癒されますね。

全員、男の子ですが。

 

 

あとは野球です。

広島出身ですから、カープが弱かった頃からのファンです。

最近強くなって嬉しいことは嬉しいものの、長年のファンとしては少し応援のしがいがなくなりました。

その他、ゴルフやテニス、ボーリングなどのスポーツを昔はよくやっていましたが、

今はほとんどしていません。

 

 

中:やはりお忙しいのですね。

そんななか本日は、先生のご経歴やご留学の話、医療職者としての心構えなど、

幅広いお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

 

大田:ありがとうございました。

 

インタビュー後記

自分自身の行動や思考を謙虚に受け止め、他者からの意見を大切にされる大田先生。

病院長としても、人としても尊敬出来るお考えをお持ちだと感じました。

職位が高くなるにつれ、周囲に厳しい言葉をかけられた時にどう振る舞うか。

ここが大事な分岐点になるのではないでしょうか。

看護師もまず自分に厳しい言葉をかけてくれた人に対しても感謝出来る気持ちが持てれば

成長も加速するのかもしれませんね。

 

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