1/2に続き、シンガポール日本人クリニックの医師、日暮浩実様のインタビューをお届けします。
2/2では、シンガポールの医療制度について、いろいろな視点からお話を伺っています。
肌で感じる医療制度の違い
シンガポールで勤務していて、日本の医療とのギャップを感じることはありますか?
日暮:外来診察の料金が、シンガポール国民、永住権保持者、外国人で大きく異なることですね。
一例を挙げますと、ポリクリニックという国立病院の出先の外来専門クリニックが(国内に20箇所ほど)ありますが、そこでの外来の診察料は、年少の国民と外国人とを比べると10倍ぐらいの開きがあります。
また、入院となると、一泊35ドル(2800円ぐらい)くらいのエアコンのない部屋から一泊1万ドル(80万円)を優に越える超高級な部屋まであります。
また、専門医には開業医が多いですが、自由診療であるため、診察料、技術料は医者ごとに異なります。
一般的に、技術力がある医師ほど料金が高くなるようになっています。
日本では保険証があればどこでも誰でも平等に同じ医療を受けられますから、この違いは大きいですし、違和感を感じてしまいますね。戸惑ったこともあるのではないですか?
日暮:そうですね。特に最初は戸惑いました。
当地の常識である”医療はあくまでもサービス業であり、医療機関はサービスを提供し(売り)、あくまでも支払ったお金の対価としてサービスを得る(買う)というものである”ということに馴染めませんでした。
日本でも医療はサービス業に分類されますが、保険制度のもとで行われていますから、「サービスを、売る、買う」という意識はなかったし、どちらかというと福祉に近い概念だったからです。
シンガポールでの医療を経験されて日本でも導入したいと思うことはありますか?
日暮:レントゲンなどのフィルムを患者さんに渡すことですね。
最近はDVDなどになっていることも多いです。日本では病院で保管していると思いますが、シンガポールでは患者さんが保管します。必要なときは患者さんが持参します。
このため、病院は保管場所に困ることはないし、患者さんは自由に別の医師に相談に行くことができます。
昨今、日本でもセカンドオピニオンが一般化していますので、あまり抵抗感が無いのではないでしょうか。
医療を税金ではなく、貯金でまかなうことで健康へ導く
シンガポールにも国民皆保険制度はありますか?
日暮:シンガポールでは日本のような国民皆保険制度はありません。なので、日本のように健康保険税として天引きれたり、納付したりすることはありません。
シンガポールでも、給料の一部が天引きされますが、いわば“強制貯金”という形です。
税金ではありません。
自身の名前がついた口座(国が用意したもの)に給料の一部が振り込まれるという形です。
自由には引き出せませんが、必要時には引き出して医療費として使えるようになっています。
ですので、必要なければ、つまり、病気にならなければ、自分のお金として残せることになります。
なので、より医療費を使わなくてすむ方向、健康であろうとする方向に国民の意識を向かわせることができるように思います。
同じ天引きならば、税金という形でなく、貯金という形にすることで、国民一人ひとりの健康感、受診行動を変え、財政的にも良い方向に行くかもしれませんね。。(ただ、これにはこれで問題もあるようですが、ここでは触れません)
国民の意識が変わることで、医療費が軽減されることはもちろん、1人1人の健康が保たれることが期待できますね。
お忙しい中ありがとうございました。
<シンカナース編集長インタビュー後記>
日暮医師は、とても気さくにシンガポールの医療について、シンガポールで求められる看護師についてなどお話ししてくださいました。
海外で勤務する「日本人」としての在り方については、深く考えさせられる内容であったと感じます。言葉の壁によって、どんなに知識や技術が勝っていても、それを表現出来ないというのは非常に勿体ない。これは痛感いたしました。
私自身、海外留学時に経験したのは、理解していないのではなく「表現が出来ない」ということでした。そのことでディスカッションに参加したくても思ったように言葉が出てこず悲しい思いをしたことを思い出しました。
言葉なんて大したことない!知識や経験を活かすためにも早々に言葉の壁を克服する!という意識が海外勤務者には必須であると感じます。
出来ないと逃げるより、出来れば広がる未来を信じて進化する大切さを日暮医師から学ばせていただきました。
突然の依頼にも関わらず、快くご対応いただき誠にありがとうございました!
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