No.252 済生会神奈川県病院 長島敦 院長 前編:患者さんとの信頼を築くストラテジー

インタビュー

全国済生会の第1号病院として開設された済生会神奈川県病院

一時期、慢性期治療を中心としていましたが、長島敦先生が院長に就任されてから、

徐々に急性期医療も手がけるように変化してきました。

長島先生のご経歴とともに、その背景を伺いました。

 

ハードな卒後研修が自信の元に

 

中:今回は済生会神奈川県病院病院長の長島敦先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願いいたします。

 

長島:よろしくお願いいたします。

 

 

中:まず、先生のご経歴から伺います。

医師になろうとされた動機お聞かせいただけますか。

 

長島:父親は自衛官のため、小中学校は2年ごとに転校する生活でした。

つまり、医療とは無縁の環境でしたが、高校に入り将来のことを考えた時、

商社マンになって世界中を飛び回るような仕事か、あるいは医者になろうかという

二つの夢を思い描くようになりました。

そこで経済学部と医学部を受験したものの1年目は浪人。

2年目に両方受かり、「6年間ゆっくり遊べる方がいいな」と気楽に考え医学部を選びました。

 

 

中:先生のご専門は外科と伺いました。

どのように専門領域を選ばれましたか。

 

長島:内科は難解そうなイメージがあったために外科を選択し、

浜松医大を卒業後に慶應義塾大学の外科学教室に入局しました。

1年目の研修医が30人以上いるという大きな医局です。

 

 

一般外科に加え脳神経外科、心臓外科、呼吸器外科、小児外科、形成外科、泌尿器科などを

目指す人も一緒になって研修を受けていました。

慶應の外科学教室で1年間研修を受けた後、浜松赤十字病院に出張したのですが、

その時の指導医が非常に厳格で24時間365日つねに監視されているような感じでした。

 

 

術中の手技にも厳しく、一度などは「そんなことではダメだ」と言って手術室から出て行かれてしまい、

何とか先輩を探し出して対処してもらい事なきを得たことがあります。

そのような環境で指導を受けたおかげで、臨床能力に関してはたいへん自信がつきました。

 

ERAS(イーラス)を国内に導入

 

中:厳しい研修を受けられた後、こちらの病院にご勤務されたのですね。

 

長島:急性期だった当院に十数年間勤め、済生会横浜市東部病院の開院と同時に東部病院に移り、

外科部長や副院長を務めていました。

 

 

ERAS(Enhanced recovery after surgery.イーラス)を日本でいち早く導入したのもその頃のことでした。

ERASとは、術後の早期回復のために、例えば胃がん手術であれば、

それまでは1週間ほど経ってから経口摂取を開始していたものを、手術翌日から経口摂取します。

これによって患者さんの回復が早まり、在院日数は格段に短縮できました。

 

 

当時、平均在院日数3週ほどであったものが7〜8日ほどになり、DPC病院で日本一短くなりまた。

また、それまでは形成外科医が行っていた真皮縫合を採り入れ、

術後の整容性を高めるとともに創感染を減らしました。

 

中:患者さんに喜ばれたのではないでしょうか。

 

長島:だいぶ評判になり、今にも続いているようです

慢性期中心から急性期病院へ

 

中:引き続き、院長に就任された経緯をお聞かせください。

 

長島:2016年に前任の院長が急に倒れ、当時、

済生会横浜市東部病院の副院長を務めていた私が当院院長を兼務することになりました。

引き継ぎも予備知識も何もない状況でした。

 

 

中:突然の就任だったのですね。

院長になられ、どのようなことに取り組まれましたか。

 

長島: それまで当院は慢性期・回復期が中心だったものを、私が院長に着任してから

徐々に急性期中心に変えてきました。

十年間閉鎖していた救急室も再開しました。

ただし急性期といいましても外科よりむしろ内科救急が中心です。

より具体的には、地域で急増している高齢者の救急への対応です。

 

 

高齢者に多い肺炎や脱水などは、当院よりさらに高度な急性期医療を担う病院では

あまり積極的に受け入れません。

しかし地域ではそのような患者さんの対応に多くの人が困っています。

医療者側がやりたがらないけれども地域の人たちは困っている、

それを誰かがやらなくてはいけないということです。

 

 

私は横浜市東部病院の副院長時代に医療連携センター長を兼任していましたので、当院に移ってからも

実地医家の先生方とのネットワークを生かしながら、少しずつそのような救急を受け入れていきました。

慢性期病院が急性期を始めるのは、その逆のケースとは異なりハードルがかなり高いものです。

いろいろ問題も起こりますが、幸い多くのスタッフの協力を得られ、変化しつつあります。

 

何より最初に十分な説明を

中:院内のマネジメント上、先生が気をつけていらっしゃることはございますか。

 

長島:横浜市東部病院での副院長時代の頃からのことですが、

「患者さんに接する時は、まずスタートは納得してもらうように」と伝えてきました。

最初に十分な説明をして納得し、安心していただく。

その上で治療介入し結果を出して信頼していただくというプロセスが大切だと思います。

 

 

もちろん結果が良くない時もあります。

しかし治療開始前に納得し安心していただいていれば、

信頼関係が大きく損なわれることはありません。

 

 

中:少し具体的にお話しいただけますか。


長島:医療とは何かと考えた時、患者さんは基本的に治る力を持っていて、

医師はその力を削がないようにしあげれば良いのだと思っています。

ですから私は原則的に患者さんの希望を叶えてあげことを優先します。

例えば今も胃がんの患者さんがいらっしゃり、手術を強く勧めても

ビタミンC療法や音楽療法をしたいとおっしゃいます。

 

 

そこで私は、それらの方法には顕著な効果は期待できないことや、手術をしない場合の予後予測を

十二分に説明した上で、患者さんの希望どおりとすることにしました。

これが私の若いころでしたら、本人が治療を拒否するなら

「あとは好きなようにして。もう来ないで」と感じたことでしょう。

しかし今は気の毒さを強く感じます。

 

 

その患者さんの気持ちが今後どのように変わり、

いつ、積極的な治療を受けたいとおっしゃるか、まだわかりません。

しかし私はどの段階であっても決して見放さずにサポートし続けるつもりです。

今は、納得していただくために必要な時期だと考えています。

 

後編に続く

Interview with Toan & Carlos