No.244 荏原病院 黒井克昌 院長 後編:医療の国際化と感染症対策

インタビュー

前編に続きインタビュー後編では、院長という立場でのマネジメントのポイントや看護師への期待、

先生のご趣味などをお聞かせいただきました。

院長就任時に、気持ちが楽になったアドバイス

中:フランス留学からご帰国後の話に戻りまして、その後、

現在の院長に就任されるまではどのようなキャリアを積まれたのでしょうか。

黒井:大学に戻り乳がんの診療にしばらく従事した後、

教授の紹介で乳腺外科医長として都立駒込病院に赴任しました。

その後、昭和大学豊洲病院の外科助教授、先輩が経営している病院の副院長などを務めた後に、

再び都立駒込病院に外科部長として戻り、5年後に副院長、そして一昨年、当院院長に就任しました。

中:医長、部長、副院長、病院長と経験され、やはり責任の重さはそれぞれだいぶ異なると思うのですが、

その都度、何か決意されるようなことはございましたか。

例えば臨床を十分できなくなることの不安など、ございませんでしたか。

黒井:人生を歩んでいきますとやはり転機はあると思います。

私も現状維持で臨床を続けていたいという思いがありました。

管理職になりますと、自分のやりたいことに没頭することが許されませんから。

しかしそうはいっても、そうはいかない事情があるものです。

先ほど言いましたことと同じで、やるべきことはやり切るしかないという気持ちでした。

中:院長として病院経営をマネジメントされる上で、判断の拠りどころとされていることはございますか。

黒井:どう表現すれば良いのかなかなか難しいのですが、

私が院長になる時に高名な先生からいただいたアドバイスは、

「あきらめろ」と「演じ切るしかない」ということでした。

それを聞いた時に、気持ちがフッと楽になったような気がしたのです。

山登りでも遭難する可能性がありますし、危険なポイントあります。

そこは無理せずに別のルートを探す、またはあきらめて引き返すという決断が必要です。

それは失敗ではありません。

時間はかかることになりますが、最終的に頂上へ近づくためのアプローチのアレンジです。

中:その日その瞬間に最終ゴールに到達しなくても、

時期をずらすなどして別の方法で挑戦すれば到達できるということですね。

その考え方はさまざまな場面に援用できそうです。

チーム医療には、まだ伸びしろがある

中:ここで看護師について少しお伺いしたのですが、高齢者人口の割合がさらに増え、

一方で労働人口が減少するという変化は、医療環境への影響も少なくないと思います。

そうした中、先生が看護師へどのようなことを期待されるかをお聞かせください。

黒井:私は若い時から一貫して、

病院という存在は看護師が頑張らなければいけない所だと感じてきました。

例えば海外では、医師は基本的に診断と治療に特化していて、

その後の実務は看護師やトレーニングを受けたスタッフが行っているところがあります。

これに対して日本の医療現場はまだそれほど機能的でなく、

チーム医療があまりうまくいっていないこともあるように思います。

また職種別に分業が必要なことは確かですが、

その分業も職種間の壁を作ってしまうような分業になっているように感じます。

ただし最近は看護師の特定行為が認められるようになるなど、少しずつ変わってきています。

今後より一層、業務を多職種でシェアし分担していくという雰囲気が醸成されていくことを

期待しています。

国際化に欠かせない感染症対策

中:ありがとうございます。

冒頭で貴院の特徴を挙げていただきましたが、ここでもう少し詳しく教えてください。

総合的に診療されているとのお話でしたが、特に重きを置いている診療科はございますか。

黒井:重点領域の一つとして救急と脳卒中医療、がん治療に力を入れています。

認知症も同様です。

中:今後ニーズが増える領域を重点的にカバーされていらっしゃるのですね。

黒井:その一方で、産科や小児科も重視しています。

また、当院は先ほど申しましたように伝染病専門病院としてスタートしたという開設以来の歴史があり、

現在も全国に54ある第一種感染症指定医療機関の一つです。

羽田に近いという立地もあり、海外渡航者を対象とする予防接種外来も開設していますし、

さらには海外からの輸入感染症など多くの感染症に対応する責務を担っています。

外国人患者さんへの対応

中:やはり外国人の患者さんが増えていらっしゃいますか。

黒井:増えていますね。

当院もオリンピック開催が決まって以降、国際化対応を進めています。

外国人診療に力を入れ始めるまで、当院にはそれほど需要はないのではないかと考えていたのですが、

蓋を開けてみますと意外に多いことがわかりました。

特に若い方が増えていて、中でも産科のニーズがかなり多いです。

七福神巡りで歴史散歩

中:この地域に居住されている外国人が確実に増えているのですね。

それでは最後の質問ですが、先生のご趣味をお聞かせください。

黒井:趣味を尋ねられると「寝ることです」と答えることにしています。

中:クライミングはされていませんか。

黒井:今はやめています。

立場的に怪我をして休んだりするわけにはいきませんので。

もっとも体重が増えたので、腕力が持たないかもしれません。

冬山登山は東京に来るまで続けていました。

今はもっぱら散歩です。

歴史や地理が好きなので、街中をよく歩き回っています。

正月には七福神巡りをしました。

七福神はいろいろな地域にあり、結構、足を伸ばすこともあります。

中:では、まとめとして看護師へのメッセージをお願いします。

黒井:当院は閑静な住宅街の中に建つ、非常に歴史のある病院です。

平成6年に新築された、大きなステンドグラスを有するとてもモダンな建物も特徴の一つです。

医師と看護師さんたちのチーム医療の体制も十分整っていますので、

楽しく仕事に取り組めるのではないかと思います。

インタビュー後記

看護師の役割における未来の可能性についてもお話いただきました。

黒井先生の生き方でもある「演じきる」というスタイルは、そこに確固とした目標と決意を感じます。

自ら望んだ役割でなかったとしても、受けた役割を受け入れ全うすることで、人生の目標や使命を全うする

ことが可能なのだということを教えていただいたように思います。

変化の激しい時代において、必要とされる医療を提供し続ける意義を改めて考えさせていただきました。

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