前編に続き、院内マネジメントや看護師の働き方について、三石先生にお尋ねしました。
人から大切にされる人は人を大切にする
中:先生ご自身は院長としてのマネジメント上、どのようなことを大事にされていらっしゃいますか。
三石:院長に就任して何を思ったかと申しますと、やはり職員が働きやすい環境を作り出すということです。
人に大切にされて育つ人は周囲の人も大切にするのですね。
病院もサービス業という一面がありますから、もちろんプロフェッショナルとしての技術を提供することを
ベースにしつつも、自分を大切にし、かつ周りの人からも大事にされていることをよく理解していただく。
そのことで、自ずと患者さんとそのご家族に対して優しく接することができるのだろうと思います。
特に看護職者は患者さんとそのご家族のそばに一番長い時間いる存在ですから、
看護職者を特に大事にしなければいけないのかもしれません。
中:先生のそのお考えを看護師に伝えるため、何か工夫はされていますか。
三石:院長になって始めたことの一つとして、新入職員、それは看護職に限らずその他のコメディカルや
事務職員も含めてですが、私が写真を撮り、できた写真に私からの手紙を添えて、
本人が最も見せたいと思う人の宛先を封筒に書いてもらい郵送することをしています。
看護師であれば看護部長と師長、そして同期の仲間とともに撮影します。
写真の送り先として自分の親を選ぶ人が多いですが、おばあちゃんを選ぶ人もいたり、いろいろです。
さすがに彼氏を書いた人は今までいませんが。
中:親が、社会人として働く自分の子どもの制服姿を見る機会は、意外に少ないかもしれませんね。
三石:私には、ご両親に喜んでいただきたいということのほかに、もう一つ伝えたいことがあります。
それは職場としての病院は大変やりがいがあるとともに、非常に厳しい面もあるという事実です。
皆さんのお子さんが働き始めた後、大変つらいことに遭遇するかもしれないが、
その時はどうか支えになっていただきたいということを書いて送っています。
ご両親からは「娘の写真を見られて嬉しかった」「リビングに飾ってあります」といった返信をいただきます。
中:そのエピソードだけでもスタッフの方をとても大切にされていらっしゃることがうかがえます。
三石:実は、警察でそのようなことをしているという話を聞いて
「ああ素敵だな」と思い、真似して始めました。
中:素敵だと思われたことをすぐ実践されることも、
やはり組織のトップに大切なことなのかなと感じました。
三石:この件についてはたぶん、私が女性だということも関係していると思います。
男性であれば、きっと男性なりの視線や態度で効果的な伝え方をするのでしょう。
中:女性らしさを生かしながら組織運営のバランスをとっていらっしゃるのですね。
三石:バランスがとれているかどうかはわからないですけれども。
院長という立場は、気をつけていなければ独裁者になってしまいかねません。
そのため私は会議の席で「私と意見が違えば、はっきり自分の意見を言ってほしい」と
出席者に申し上げることがあります。
意見をしてもらえなくなることが一番困りますので。
中:看護師に関するお考えをもう少しお伺いしたいのですが、
先生がこれからの看護師に対して期待されていらっしゃることをお聞かせいただけますか。
三石:当院について話しますと看護師の大半が助産師資格も取得しています。
そしてNICU医療に対応し得る専門性の高い看護集団を形成しています。
実際、大卒者がほとんどです。
このような職場ですから入職後に日々研鑽を積んでプロとして技術を高めていき、
特定行為を行えるようなナースを目指していただきたいと思います。
そしてまた先ほどの女性医師の話と同じように、
看護職者もキャリアを継続していただくことを是非お願いしたいと思います。
例えば、育休から復帰後の勤務を日勤だけに絞っていると、やはり技量に差が生じてきます。
準夜帯や夜勤帯といった人数が少ない状況で差し迫った問題をどう判断するかといったスキルは、
やはりその局面に立たないと成長しません。
段階を踏んでフル勤務に復帰し、キャリアを継続していただくことを強く望みます。
移転新築計画
中:先生の優しさやお考えにもっと迫っていきたいところですが、インタビューの時間もありますので、
この辺りで貴院のアピールを含め、看護師へのメッセージをいただけますか。
三石:病院のアピールということでは、当院は2021年に移転新築します。
その新病院で一緒に仕事のできる仲間になっていただきたいと思います。
是非、若くてやる気のある看護スタッフと一緒に、お母さんや子どもたちのために仕事をしていきたいです。
お待ちしております。
中:ありがとうございます。
新築計画がおありだったのですね。
三石:建て替えは前院長から私に与えられていた命題です。
それをようやく果たせそうです。
移転先は葛飾区の図書センターで、現在解体中です。
この計画は、当院の目の前にある葛飾区役所に我々が訪問したことからスタートしました。
区長が二期目の当選をされた時に挨拶に伺い、ついでに移転先の相談をしたのです。
政治家や行政との掛け合いなど全く素人のため何の下準備もせずに訪問したものですから、
区長も初めは我々の訪問の意図がわからなかったようで
「葛飾赤十字産院は区にとって宝です。うちの息子もおたくでお世話になりました」とおっしゃりつつも
「しかし土地となると、どうにもなりません」とおっしゃり、がっかりして帰ってきました。
ところがその後、区長はすぐに適当な候補地を探すように担当部署に指示くださっていました。
新病院は図書センターを解体し跡地に建設し、
当院と区とで協議して新設病院の中に図書センターを併設するという計画となりました。
ふつうの病院であれば患者さんと一般の方が一緒になる設計は避けるべきですが、
当院を訪れるのは妊娠できるほど健康な方が中心ですから、その問題もありません。
病院としては珍しい、なかなか良い計画だと思っています。
中:最後の質問ですが、先生のご趣味をお聞かせください。
三石:俳句をやっています。
もう十年以上前に始めました。
季節に関する言葉にすごく敏感になれました。
しかも医師以外のいろいろな職業の人たちと出会って世界が広がり、新鮮さも味わえます。
中:作品をご紹介いだけますか。
三石:俳句の先生に褒めていただいた句は、「赤子とて 男(お)の子(こ)の匂ひ 梅雨に入る」という句です。
赤ちゃんの頭って、結構臭いますよね。
特に梅雨時は強くなります。
そして男の子だと、生まれて何日も経っていないのに「なんか男臭いな」と感じることがあり、
それを詠みました。
すると先生は、この句の作者は男の子と女の子、両方の赤ちゃんの匂いを知っている人だと、
私自身が考えもしなかったことまで深く洞察してくださり、言葉の面白さに気付かされました。
中:奥が深くて面白そうですね。
本日は数々の示唆に富んだお話をお聞かせいただきました。
ありがとうございました。
三石:こちらこそ、どうもありがとうございました。
インタビュー後記
赤十字系病院の中において唯一の女性病院長である三石先生。
自身の決断と、信じた方々との繋がりによって、未来を作り上げていらっしゃいました。
使命を持って院長職を務められているからこそ、熱意を持ち行動され、周囲の心を動かしているのだと感じます。
病院建て替えにまつわるエピソードはまさに、その一例ではありますが、どのお話の中にも魅力溢れるお人柄を
うかがうことが出来ました。