vol.1、vol.2、vol.3に続き、東京医科歯科大学医学部附属病院の川﨑つま子看護部長のインタビューをお届けします。
最終回となるvol.4では、今後の看護部の取り組み、ご自身の将来のチャレンジについて伺っています。
初めての大学病院勤務
ここの看護部長になるきっかけはどのようなものでしたか?
川﨑:ここで看護部長を募集していると知り、エントリーしたのがきっかけです。
看護師のキャリアで初めて大学病院という環境で働いて、もうすぐ3年になります。
それまで自分の病棟など与えられた範囲のところでエネルギーを注いでいましたけど、看護部長になると対象が全職員に広がりますから、新人でもベテランでもみんな愛おしいんですね。
その感覚はすごく味わいましたし、今も変わりません。
一人一人がいい仕事をしてくれる結果が病院の評判にもなっているんだなと思います。
そこに戻っていくわけですね。ていねいに人を育てるというところに。
川﨑:そうですね。特に最近は「プロフェッショナル教育」ということを考えるようになりましたね。
世の中における看護への期待が高いと感じているので、その期待に応えるには、単に「1人の看護師」という枠を越えて、自分から離れたところ、例えば日本人が幸せに暮らすために看護が持つ役割について考えられる、ということに価値を見出だせるようなプロフェッショナルな人になってもらいたいと思うんです。
そうすることで仲間を大切にするし、学び続けるし、良質なコミュニケーションがとれるし、人格的にも自己成長のために努力するということを大切にする人が増えるんじゃないかなと。
そういう視点を持つようになったきっかけは?
川﨑:アメリカでずっと仕事をされていた先生が教授としてICUに勤務しているのですが、チーム医療に重きをおいて、毎朝多職種カンファレンスを開いて、全職種に発言させて「看護の今日のゴールは何?」と質問するんだそうです。
それに対して1年目であってもそういう視点で発言できる人と、経験を積んでいても視点がもてずに発言できない人がいる現状があって、何の違いかというとプロフェッショナルな意識の差だなと思ったんです。
当院は新卒の90%近くは大学卒の看護師ですし、看護部全体を見ても大学卒の人の比率が非常に高くなっています。
ですから今ならそういう教育をしてもついてきてくれる人たちの層が多いと感じました。
時間はかかっても大事にしていきたいなと思っています。
実はこの3月で定年退職の予定だったのですが、あと1年残ることになったので、そこに力を注いでいきたいですね。
急性期病院にも認知症ケアを
今後はどのような目標をお持ちですか?
川﨑:並行して最近は認知症ケアの学びを始めていて、今後急性期病院を去ったとしても、自分が関わっていきたいテーマだと思っています。
「認知症の村」への見学許可が出て、昨年11月に1週間、近隣の部長たちとデンマークとスエーデンに視察に行ってきたんです。
行ってみたら認知症が進んでも穏やかな日常を過ごしていて、お年寄りの暮らしはこうじゃなきゃと感じました。
これを日本でも考えていきたいなと思ったんです。
今後はそんな仕事ができればなと思っています。
そこに関心をもったきっかけは?
川﨑:自分の母親の最期のナーシングホームでの体験ですね。
また、急性期病院でBPSD(認知症の周辺症状)やせん妄で患者さんの意にそぐわない状態で医療が行われることがあります。
「医療だから」「仕方ない」というけれど、患者さんの尊厳はどうなんだろう、倫理的な課題はどうなんだろうと思うんです。
病棟をラウンドすると、ナースステーションで患者さんから私の白衣を引っ張りながら「ベッドに戻して下さい」と言われるわけです。
その人の気持ちはわかる。でも反対を見ると看護師たちはバタバタしていて・・・。
それを見てもっとナースたちが認知症ケアについて知識があったらいいんじゃないかなと思ったんです。
そんな時にユマニチュードに出会いました。接し方で本当に認知症の方たちが穏やかになっていくんですね。
今2人の師長さんに10週間のインストラクターコースに行ってもらっています。
資格をとって帰ってきてちょっとずつ病院内に広めていってくれたらと思います。
いろんな種をまいていらっしゃるんですね。
川﨑:私のナラティブですよね、今思うと。それを元にみんなを巻き込んでいるようなところもあるんですけどね。
部長をメンターとあおぐ人が出てくるでしょうね。
これだけ精力的に活動されていらっしゃいますが、休日はどんなことをされて過ごしているのでしょうか?
川﨑:土曜日は病院の行事で出勤することが多いので、日曜日はなるべく予定を入れないようにして夫との時間を過ごしています。
車で目的地まで移動してその周辺を5キロくらいウォーキングするんです。
歩いていると四季折々を感じられますし、行った先にはお蕎麦屋さんがあったり日帰り温泉があったりするので楽しいですよ。
最後に看護学生・看護師にメッセージをお願いします。
川﨑:考えることと悩むことは全然違うので、「悩まずに考えなさい」といつも言っています。
自分のまわりで起こっていることは必ず自分も関係していること。
つまり自分も環境の一部という意識を持つといいですね。
最近は周囲のせい、人のせい、にしてしまうことが多い。
でもそう考えることで自分のやるべきことが見えてきてもっと成長できるんではないかなと思います。
<シンカナース副編集長インタビュー後記>
柔らかい物腰と芯の通ったキャリア。
岩手から上京し、女優を目指して看護学校に入学したとは・・・そんなエピソードをお持ちの看護部長になかなか出会えるものではありません。
とても印象に残っているのは、vol.1でおっしゃっていた「看護師として働くにあたって『動機が十分じゃない』などと言う人がいますが、私は人間どこでスイッチが入るかわからないと思っているので、最初からしっかりした動機がなくてもいいんじゃないかと思います」という言葉です。
とかく、看護師という職業は「なぜ看護師になろうと思ったのか」などその動機について、熱いものを求められる傾向にあるように思います。
しかし川﨑看護部長の柔軟なお考えを伺って、こういうリーダーがいると多くの可能性を持った看護師たちが育っていく豊かな土壌ができるのではないかと感じました。
人育ても終盤を迎え、次のステージの準備も着々と進行中とのこと。
看護の思いはまた別の形として進化していくはずです。
川﨑看護部長、貴重なお話をありがとうございました。
東京医科歯科大学医学部附属病院に関する記事はコチラから
・インタビュー#10川﨑つま子様(東京医科歯科大学医学部附属病院様)vol.1
・インタビュー#10川﨑つま子様(東京医科歯科大学医学部附属病院様)vol.2
・インタビュー#10川﨑つま子様(東京医科歯科大学医学部附属病院様)vol.3
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