1/3・2/3に続き、渕野辺総合病院の渡辺加代子看護部長のインタビューをお届けします。
vol.3では、看護部の改革に向けた具体的な取り組み、今後の展望についてお話を伺っています。
組織化と教育で看護の質を担保
大学病院から地域の病院に移ってどんな印象を持ちましたか?
渡辺:ギャップは大きかったですね。みんなよく働くし頑張っていて、規模が小さいから小回りがきく良さがありました。
一方で、看護管理者が変わっていく中で、教育も含めて看護部の組織化が十分にされていなかったんです。
師長や主任も十分に教育されないままに管理者に推挙されていたという現実がありました。
看護は看護部という組織が方針や理念を作成し、それをもとに各部署でどのように看護展開をするか考えていくわけですから、看護の質を担保するためには組織化と教育が最重要課題だと感じました。
まずは管理者をしっかり育てていくことが必要ですから、看護管理をしっかり学んでもらってチーム作りのベースを作り上げていきたいと考えています。
最終的にはしっかりと揺らがない組織化、マニュアルを整備して看護を標準化していくことが目標です。
教育ではどんなことに取り組んでいらっしゃるのですか?
渡辺:クリニカルラダーをもとにして教育体系を作成しているところです。
当院は新卒の職員よりも、圧倒的に外での経験をしてきた既卒者の入職が多い現状があります。
ナースそれぞれがいろんなバックグラウンドを持っていますから、その人たちの実戦能力に合わせて教育していく必要があります。
例えば10年経験があっても1度も看護過程の研修を受けていない人もいるわけです。
看護実践のばらつきをなくすためには、卒後年数ごとの教育よりも実戦能力に応じたもの、つまりクリニカルラダー能力を評価しながら必要な教育プログラムを使ってもらうことがいいと考えました。
現状に合った教育方法を考えたということですね。
渡辺:クリニカルラダーでいうレベルⅡの「1人前」というところから、レベルⅢ「ジェネラリスト」やレベルⅣ「エキスパート」を目指す人が圧倒的に多くいます。
年齢的にはエキスパートの域にいってほしいところですが、実戦能力、フィジカルアセスメンや患者さんの意思決定支援、リーダーシップ発揮の部分が課題となっています。
そこを強化していく教育をしていくと、ジェネラリストという意味でのエキスパートなナースが増えると期待しています。
当院では専門的な能力よりも、どんな患者さんが来てもその場で専門職としての対応ができたり、コメディカルの人たちとアダルトな対応ができる人が求められていますので、それを実践できるナースが増えるといいですね。
以前は個人が持っている力でやりきっていました。そこを是正しながらチームとして・組織として整備されたルールのもとで実践している段階にまでたどり着きました。
今後はルールをベースに、そこから個々で判断できるようなエキスパートやジェネラリストを育てていきたいと考えています。少しずつ育ち始めているので楽しみですね。
看護で地域の人たちの健康を支える
他にはどのような取り組みをされているのですか?
渡辺:これまで回復期病棟にだけ配置していた介護福祉士を、去年の4月から急性期病棟にも配置し始めました。
それによって患者さんの生活の援助の部分でよりランクの高い業務をお願い出来るようになったんです。
ナースはフィジカルに特化したり、患者さんの生活背景や社会的ニーズへの支援など、ナースが本来やるべきことに集中できるようになると考えています。
介護福祉士を配置した背景には、急性期で入院される患者さんの高齢化という問題があるのでしょうか?
渡辺:そうなんです。地域包括のベッドもあるので、「その人らしさ」を継続しながらせん妄を予防したりという部分で、ナースだけの力だけでは難しくて。
介護や在宅の知識と技術を持った介護福祉士が関わってくれることで、そこの部分に介入してもらったり、スムーズに退院指導もできるわけです。まだ発展途上ではありますが、手探りで進めているところです。
これからが楽しみですね。
渡辺:まだまだ病棟の看護の仕組みは変わっていくと思います。
今までと同じように「急性期の治療をして退院できればいい」というのではなく、いろいろな形で入院前のコンディションを維持するか、下がってしまった場合はどう対応するか、という部分に介入していく必要がありますね。
やはりそこは地域の病院という役割を考えてのものなんですね。
渡辺:そうですね。外来には入院一歩手前の患者さんたちがたくさんいらっしゃいます。
その人たちにどう介入するのかを、ナースたちが考えるようにしていかなければなりません。
継続看護への動きは少しずつ始まっているので、家でどう生活しているのか、どう薬を自己管理しているのか等、入院前から関わることで地域で生活できる力を高めていきたいですね。
ケアマネが入って社会サービスを利用しているのかといった部分も考えていく必要がありますから、ケースワーカーや地域包括と連携しながら患者さんの生活を支えていく。それができるナースが外来にたくさんいると頼もしいですよね。
外来の時から介入して地域とも連携することで、患者さんの健康を支えていくことができますね。
渡辺:それを実現するためにも今後は外来看護も強化していく必要があると考えています。
産休明け、育休明けで短時間しか働けない人も多いので、そういう人たちに外来に来てもらえると広い視点で患者さんたちを支えてもらえるのかなと考えています。当院には退院調整ナースが1人いるので彼女と一緒にやっていってもらえたらと。
さらに看護実践が進化していくのですね。
お仕事のない休日はどのように過ごされていらっしゃいますか?
渡辺:1歳になった孫がいるので、遊びに来てくれるのが楽しみですね。
他には猫と遊んだり時代小説を読んだりして過ごしています。
以前はテニスをやっていたのですが、膝を痛めてしまったので次の趣味を探しているところです。
最後に看護学生・看護師へのメッセージをお願いします。
渡辺:看護師の仕事は大変ですけど、私はとても誇りを持っていますし、自分でこの仕事を天職だと思っています。
とてもいい仕事ですが、そう思えるようになるための体験をどれくらい積んでいくのかが大切だと思います。
こんな経験をした、あの時の患者さんの表情、患者さんから言われた言葉、といったことをどれだけ自分の中の小箱に入れて積み上げていくか。
理論や知識の学習も必要ですが、基本は患者さんとの体験が一番の原点になってくるので、表情や言葉を記憶にとどめながら、辛くなったら小箱を開けてそこから活力をもらう。自分の宝箱を増やしていく努力をしてほしいなと思います。
それにはやっぱり努力は必要です。どうしたら笑顔や表情が見れるのかをスキルを高めたり、自分の存在がそのまま患者さんに反映していくので、人としてというところ、いわゆる「人間力」を高めながら進めていくと、宝箱が増えていくと思うので頑張ってほしいですね。
シンカナース副編集長インタビュー後記
地域の病院に求められる役割を把握され、それを実現するための準備を戦略的に進めていらっしゃるのが印象的でした。
看護部の組織化と教育によってそれは確実に実現されることでしょう。
大学病院で得たスタッフ育成のポイント「道を示してあげれば進んでいける」をもとに、少しずつではありますが、看護スタッフ1人1人を変化させているようです。
子育てと仕事を両立させるために管理職を選択されたと伺いましたが、その手腕を振り返ってみると進むべくして進んだ道だったのだと感じます。
患者さんにとって身近な存在は地域の中核病院です。
病院と地域が連携し、早い段階から患者さん・家族に介入することで、疾病の悪化予防や療養環境の改善等をはかることができるようになります。
そこに患者さんをよく知る外来看護も積極的に関わり、介入のタイミングや方法について最善の方法を選択することで、住み慣れた自宅でより長くより健康的に生活することができるはずです。
2025年を見据えて、地域の病院にはこういった取り組みが今後は必須となるでしょう。
渡辺看護部長、貴重なお話をありがとうございました。
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