前編に続き村上先生に、看護師のスキルアップの取り組みや、地域住民の健康に貢献するため、
さまざまな試みを始められているご様子をお話しいただきました。
看護師は病院の要
嶋田:組織改革に取り組む中で、看護師をどのように位置付けられていますか。
病院のスタッフで一番人数が多いのがおそらく看護師ではないかと思いますが。
村上:看護師は病院の要です。
人員が多いということともに、一人一人の「質」が重要です。
看護師のスキルアップは病院として重要な課題だと考えています。
その一環として、今年4月に着任した新しい看護部長と諮り、
年2回の人事で病棟間の異動を行うようにしました。
目的は病棟ごとに差異があった業務を病院全体で標準化することと、風通しの良い病棟にすることです。
私の赴任以前は、看護スタッフの慢性的な人手不足対策として、
業務への支障を考慮してスタッフの異動はあえて行わない方針でした。
看護部長が交代したこともあり、病棟間業務の標準化をめざすことも考慮して、
定期の看護師の部署間の異動をより積極的行うことが始まりました。
初心に帰って新しい仕事を新人とともに学んでいただくことで、組織が活性化することも期待しております。
医師会や行政とともに市民の健康を守る
嶋田:人材育成と組織改革という院内での取り組みをお聞かせいただきましたが、
院長として対外的な活動はどのようなことをされていますか。
村上:この地域には慢性期の患者さんを受け入れる病院が少ないという課題があります。
赴任後に近隣の後方病院を直接訪問するなど、連携強化に努めています。
また、私の発案で、佐野市医師会と市内の急性期病院とで、
佐野市医師会・佐野市急性期病院連携協議会を立ち上げ、すでに3回開催し、
フランクな情報交換ができるようになりました。
また、自分自身も学会発表を行い、講演会やWeb講演会に登壇するなど自己研鑽を続けております。
この講演活動を通じた新た人脈づくりもあり、医師不足については、50以上の大学医局に出向きまして、
腎臓病、糖尿病、放射線診断、泌尿器科、肺外科医、精神科などの
新たな常勤スタッフの獲得も進んでおります。
一般市民向けには、市民公開講座を始めました。
佐野市は生活習慣病が多いのですね。
名物のラーメンと、いもフライ、車社会のせいかもしれません。
肥満者の割合や糖尿病有病率が高く、脳卒中や心筋梗塞の発生率も全国上位であり、
健診の受診率が非常に低いという背景があります。
市民公開講座の主要な目的は、健診受診率のアップです。
私は前任地の日野で、市に働きかけて、
糖尿病透析を減らすため微量アルブミン特定検診を日本で先駆けてスタートさせました。
その経験もあり、佐野においても市民啓発が必要と強く認識しています。
また当院が地域がん診療連携拠点病院であることから、がん検診の重要性も市民に向け発信しています。
さらに、佐野市と相談して、佐野市北部の“へき地医療”への新たな貢献も検討中です。
看護師の地元愛に期待
嶋田:院長になられてから短い期間にさまざまな取り組みをされているのですね。
ここでもう一度、看護師の話題に戻りまして、看護師には今後このようになって欲しいなど、
期待されていることをお聞かせいただけますか。
村上:若い看護師の地元愛に期待します。
と言いますのは、当院は急性期病院ですから、現在不足している体力のある若い方を必要としている一方で、
当地は東京近郊にあたり若い方は東京に魅力を感じてしまうのか、医師も看護師も不足しがちだからです。
このような状況で、若い方に来ていただくには、きちんとキャリアアップでき
本人の希望を満たしてあげられるような職場環境が大切だと考えています。
現在、新しい看護部長と協力して、糖尿病チームなどの新しい医療チーム立ち上げや、
新たな教育システムを考案中です。
一つの例として、日野で行っていた「15分間勉強会」を透析センターで始めました。
15分間勉強会
嶋田:15分の勉強会なら負担に感じずに続けられそうですね。
村上:座学の時間が長くなるテーマでも、必ず15分ぐらいで終わるように小分けして行います。
そして残業せずとも参加できるように業務時間内に開催し、出席は強要せず自由参加とします。
前任の病院では、1型糖尿病や腹膜透析など比較的まれな疾患や治療法の患者さんが入院したら、
その直後にそれをテーマにしたり、オンライン血液濾過透析などの新しい治療法が導入されると
それを取り上げたりしていました。
いずれも職場にとってホットな話題で、しかも短時間で学べると、看護師の間でたいへん好評でした。
嶋田:看護師にとって、まさに「今」必要な情報を15分で学べるのですね。
村上:15分あればスライドで30〜40枚は話せます。
レジメを配布すれば、15分で伝えきれないことを詳しく後で勉強していただけます。
欠点は熱中しすぎること
嶋田:最後に、先生のご趣味をお聞かせいただけますか。
村上:今は、料理を作ることと、ランニングです。
料理は友人や家族が喜んで食べてくれるので続けています。
先日は子どもが友達を招いた時に腕をふるいました。
ランニングは月に100キロ近く走ります。
もちろんスローペースですよ。
おかけで若い時と体重の変化がなく、昔のスーツもそのまま着られます。
嶋田:マラソン大会などに出場されるのですか。
村上:出たいのですが、家族に「今後は大会には出ない」と約束させられています。
競技に参加すると私が頑張りすぎることを知っているので、怪我でもされたらと心配しているのです。
嶋田:高校時代に柔道の練習で怪我をされたとおっしゃっていましたね。
村上:スイッチが入ると夢中になる性格なもので。
それに当時は漫画やテレビもスポ根ものが全盛期でした。
看護師へのメッセージ
嶋田:では、まとめとして看護師へのメッセージをお願いします。
村上:当院は531床の地域の基幹病院で、佐野市の救急輪番病院は当院のみです。
もちろん救急のみならず、療養病床や精神科もあり、慢性期のケアも一部提供しています。
看護師の皆さんはいろいろなタイプの看護を目指していると思うのですが、
それぞれの看護師さんが求める職場がある病院です。
私がいま考えていることは、やはり病院としていかに良い人材を育てるかということです。
それが良い診療を市民に提供する一番大切な点だと思っております。
そういう中で、今後キャリアアップしたい、いろいろなことに挑戦したいという夢と希望に
あふれている看護師さんたちに、ぜひ当院でその希望や夢をかなえていただければと考えています。
チーム医療の一員として一緒にお仕事できればと思い、
多くの看護師さんに来ていただくことを希望しております。
よろしくお願いします!
インタビュー後記
佐野厚生総合病院は、栃木県佐野地域の基幹病院です。
最近ではローカルDMATを立ち上げられ、より幅広く地域に貢献しています。
村上先生が院長に就任されてから、研修の充実、組織の見直しと改革に精神的に取り組まれてきました。
医療で一番大切な要素は人材というお言葉から人を育てることを何よりも大切にされていらっしゃいました。
なかでも看護師は病院の要というお言葉がとても印象的でした。