前編に続き小松本先生に、全国で9番目という早い時期に認定を受けた
JCI(Joint Commission International)取得にまつわるお話などをお伺いしました。
これからの看護師には資格が必要
嶋田:院長が経営のロジックに基づいてマネジメントすべきとのことですが、
もう少し具体的にお聞かせいただけますか。
小松本:例えば、診療報酬点数が高くない患者さん、つまり高度医療を必要としない患者さんは
実地医家の先生へ積極的に逆紹介し、空いた時間を重症度の高い患者さんのより濃厚な診療に当てた方が、
経営にプラスになり患者満足度も向上します。
また逆紹介を積極的にすることで「足利日赤は患者を囲い込まない」という評判が定着し、
実地医家の先生方から積極的に患者さんを送っていただけるようになります。
こういったことを事務スタッフが医師に対し、説得力を持った説明をすることはなかなか困難です。
医師である院長が、診療報酬上の数値を用いながら説明すると、たちどころに納得していただけます。
嶋田:確かにそのように順序立てて説明していただけると、納得しやすいですね。
ここで看護師についてお聞かせください。
先ほど「医師の働き方改革」のお話がありましたが、医師が医師でなければできない仕事に
集中するためには、看護師の力も当然必要になってくるのではないかと思います。
その点について何かお考えはございますか。
小松本:当院では看護師に対して「上を目指しなさい」と伝えています。
ラダーをどんどん上げ、そのため院外の研修にも積極的に参加させています。
認定看護師などの資格を持つ看護師が増えれば、
病院として施設基準を満たして診療報酬の加算を算定しやすくなり、経営上のメリットもあります。
医師の働き方改革という点でお答えすると、
当院では医師事務作業補助体制加算を20対1で算定していいます。
さらに診療情報管理士は 40人おり、傷病名のコーディング、カルテ管理、特定疾患や保険申請の書類作成、
さらには医師の校閲のもとで入退院サマリーの作成も行っています。
嶋田:看護師に対してこれからは、さらにスキルアップを期待されていかれますか。
小松本:看護師には、スキルアップとともに資格を持つことを目指していただきたいと思います。
仮に同じ年齢で同程度の看護技術を持っている看護師がいて、一人が認定看護師で
もう一人がそうでないという場合、後者の看護師が患者さんを看るスキルに優れていても、
やはり経営者の立場からすると認定看護師の資格を持っている方を雇用したほうが
診療報酬上のメリットに繋がりますから。
世の中がそういう仕組みになっている以上は、
看護師も社会の流れに沿って方向性を見定めないといけないと思います。
嶋田:それもまた先生のおっしゃるロジックに則ったお考えですね。
小松本:ただ、そうは言っても基本的にはマインドです。
自分が担当する患者さんを本気になって良くしてあげようという気持ちが医師と看護師にあれば、
必ず医療は良くなります。
しかしそのマインドは、昨日今日ではなかなか培われません。
JCI認定を目指して真の多職種連携
嶋田:冒頭のお話で、移転と同時に病棟を全室個室にされたとお聞きしましたが、
かなり思い切った決断だったと思います。
そのあたりにもロジックがおありだったのでしょうか。
小松本:以前の病院は、4人部屋、6人部屋が主体で個室がいくつかありましたが、
時代とともに個室が先に埋まるようになっていました。
大部屋の場合は、患者さんの性別に部屋を分けなくてはいけない、
感染症の患者さんは入れないなどの制約があり、
しかも外科と内科で分かれていましたので、いくら努力をしても病床稼働率は90パーセントでした。
これを経営学上の「時間と物の共有化」という考え方に基づいて変更しました。
つまり、男性も女性もどの診療科でもベッドを共有化して、
原則混合病棟で35床1看護単位とし、かつ病院の特徴として全室個室としました 。
これは私の1つの賭けでした。
ただしロジック上、絶対に成功する賭けでもありました。
嶋田:現在の病床稼働率はいかがでしょうか。
小松本:連日100パーセントです。
全室個室という思い切った決定をした理由の一つは、
移転新築とともにそのような大きな特徴を作り出すことで、スタッフの意識改革も図ったからです。
また先ほどは申しませんでしたが、スタッフの結束力を高めるために、
世界基準の医療機関認証機構であるJCI(Joint Commission International)を日本で9番目、
日赤病院としてはもちろん初という段階で認定取得しました。
当時JCIの認証を受けていたのは誰もがその名を知っているブランド病院だけで、
栃木の足利日赤が目指すということだけで結構注目されたようです。
嶋田:JCIの認定を受けた施設はまだわずかですね。
ハードルが高かったのではないでしょうか。
小松本:審査を受ける前は、2週間に1回、夕方5時半から6時、
600人の職員を集めて進捗状況の確認と情報共有を繰り返しました。
会議は5時半ちょうどに始め、必ず6時ちょうどに終わらせます。
すると帰宅後に用事があるスタッフも安心して会議に出席できますし、30分間集中して議論できます。
これもマネジメントにおける一つのテクニックです。
結果的にスタッフが一致一丸となり努力できました。
取得を目指す過程で全職員が真の多職種連携を実践でき、Patient Safetyの理念が徹底されたと思います。
嶋田:ではこれからの病院経営も、先進的なことをとり入れていかれることをお考えですか。
小松本:常に先取りですね。
これから診療報酬は下げられるでしょう。
また消費税10%になれば控除対象外消費税の負担が増えます。
病院経営はますます厳しくなります。
ではどうすれば良いのか。
そんな問いの答えが書いてある成書はありません。
そこで私が書きました。
『院長、事務部長のための、明日からあなたの病院の経営が良くなる本』です。
嶋田:素晴しい。
楽しみですね。
小松本:間もなく発売されるようです。
趣味は資格取得
嶋田:最後の話題ですが、先生のご趣味をお聞かください。
小松本:資格を取るのが好きです。
花火鑑賞士、日本酒ソムリエ、世界遺産検定、城郭検定、ビール検定などをもっています。
認知症予防のためです。
あとは、フェルメールの絵が好きです。
フェルメールは35点ほどしか描いていないのですが、そのうち28点を現地の美術館で実物観賞しました。
嶋田:いろいろ多趣味ですね。
小松本:あと車も好きです。
愛車にはもう30年近く乗っています。
嶋田:それでは看護師・看護学生へのメッセーシをお願いします。
小松本:看護の領域は、徐々にフィールドが広がってきています。
私の希望としては、最初はやはり急性期の病院でまずトレーニングをして欲しいと思います。
急性期病院では、さまざまな疾患について医師と看護師が教育しますので、
一生懸命勉強していただければと思います。
また、いま医療はたいへん進化してきておりますので、
常に研鑽を目指す看護師になって欲しいなと思います。
認定看護師などの資格を取得して、さらに素晴らしい看護師さんになってください。
インタビュー後記
足利赤十字病院は患者様や地域の方々にとって最適な環境、
院長先生が行う取り組みは、
JCI認証の取得で職員の心を一つにし、