埼玉県東部の急性期医療を担う獨協医科大学埼玉医療センター
今春、その病院長に就任された岡田弘先生(※2020年3月末病院長退任)は、目下、スピード感を持ってさまざまな施策を実行中です。
その取り組みをお聞かせいただきました。
外科に力点を置いた病棟開設
中:今回は、独協医科大学埼玉医療センター病院長の岡田弘先生にお話を伺います。
先生、どうぞよろしくお願いします。
岡田:よろしくお願いします。
中:まず、貴院の特徴を教えてください。
岡田:当院は獨協医科大学の付属病院として高度急性期医療を提供し、
許容病床923床と埼玉県東部で最大規模です。
昨年11月に手術室をメインに据える外科系診療科を中心とする病棟を開設し、
どちらかという外科優位な診療体制をしいています。
手術室を22室備え、手術施行件数が、当初目標の年間15000件に向かって増加中です。
最近ちからを入れているのは、リハビリテーションです。
整形外科や脳神経外科の患者さんの機能回復のためのリハビリはもちろん、心臓のリハビリなど、
予防を目指すリハビリも行っていますし、小児のリハビリを間もなくスタートさせます。
これは、心身に障害を持つお子さんがリハビリを受けることで、
普通クラスに復帰することを支援するという非常に新しい取り組みです。
また、自由診療ではありますが、生殖医療を担うリプロダクションセンターがあり、
お子さんに恵まれないご夫婦のニーズに対応しています。
さらに、昨年からは腎移植も開始し、現在は肝移植も施行できるよう体制を整備しているところです。
4月から泌尿器科以外でも保険適応になったダヴィンチ手術も、外科と産婦人科で開始されています。
病院から地域に出て行く診療
中:とても多方面にわたり先進的な医療を提供されていらっしゃるのですね。
岡田:病院とは別に、ひと駅離れた所に当院附属のサテライトクリニックを設置しています。
そこでは透析医療や検診・人間ドックのほか、トラベルクリニックなどを行っています。
トラベルクリニックとは、転勤や旅行などで海外へ長期間旅たつ人に、
目的地の環境に合わせてワクチンを接種したり、健康管理上のアドバイスをする部門です。
帰国後に現地の風土病等に罹患していないかチェックもします。
中:病院で行う急性期医療とはまた少し異なった医療ニーズに、
サテライトクリニックで対応されているのですね。
最近、ニーズが高まりつつある在宅医療についてはいかがでしょうか。
岡田:当院は大学附属病院ということで、病院で待っていても患者さんはいらっしゃるのですが、
これからは自分たちも地域に出て行こうという発想で、訪問診療を開始しました。
看護師による訪問看護だけではなくて、医師も患者さん宅を訪問し診療しています。
このようなことができるようになった背景には、
ITの進歩等によって遠隔診療を行える環境が整ってきたことが挙げられます。
ITを駆使することで、当院を退院し在宅に移られた患者さんを地域の実地医家の先生とともに、
当院でも引き続き診させていただくことも可能になりました。
PFMセンター
中:患者さんの入退院の管理などには看護師が果たす役割も大きいのではないでしょうか。
岡田:現在、当院の平均在院日数は11日ですから、
1,000床弱のベッドが単純計算で1カ月に3回転していることになり、入退院のお世話はとても重要です。
これまでその業務を看護部と事務が協力しながら担ってきました。
そこで最近、ペイシェントフローマネージメントセンター、略してPFMセンターと呼んでいますが、
すべての患者さんの入退院の流れを同じ窓口で一括管理するセンターを設けました。
間もなく本格稼働させます。
従来、一人の患者さんが入院されると看護師がアナムネをとり、入院生活の説明をし、
それをカルテに記載してという、必ずしも看護師でなくても可能な業務に2時間ほど要し、
やっとそれから本来の看護業務にとりかかれるという状況でした。
しかし現在はPFMセンターがそのほとんどを行っていて、
入院時には患者さんの情報等が既に入力されているため、
患者さんの入院から最短15分ほどで本来の看護業務にかかれるようになっています。
退院時の諸手続きも同様です。
中:看護師が看護に集中し力を発揮できる時間が増えたということですね。
岡田:入退院の時刻を午前中に設定する必要がなくなり、
午前は退院、午後は入院と時間差を柔軟に設けられるようになったことで、混雑緩和にもつながっています。
医療安全は時間の担保が不可欠
中:患者さんにとってメリットがあることかと思いますが、
それだけでなく看護師の仕事のしやすさも改善され、双方に優しいシステムのように感じました。
岡田:おっしゃるとおりです。
これまではカスタマーズサティスファクション、顧客満足度が重視されてきましたが、
これからはエンプロイーサティスファクション、従業員の満足度も重要です。
もちろん患者さんの満足度は大事ですが、働く人が満足していなければ丁寧な診療はできませんから。
中:先生のそのようなお考え、つまり、スタッフの満足度を高めていくことによって、
より良い医療を提供するというビジョンを、実際にスタッフの方々にもお伝えされているのでしょうか。
岡田:それは常々言っています。
新しく何かを始める時には抵抗はつきものですが、同じ仕事するのであれば短時間で済ませ、
その分、プロでなければできない仕事をすべきだと思います。
時間の余裕を求める理由はもう一つあります。
医療は常に非常に厳しい世間の目で見られていて、どの部分が最も厳しい目にさらされているかというと、
それは「安全」です。
では、その安全を第一に考えた時に何が必要とされるかというと、実は「時間」です。
時間に余裕がなければ安全を担保できません。
そこで当院では、組織の力でその時間を生み出し安全を担保していく、
その努力をしていこうということです。
それにはトップダウンで指示するだけでなく、ボトムアップでの提案も大切です。
そのために部署ごとに意見交換会を行い、現場から直接、意見を吸い上げています。
後編に続く