前編に続き、地域医療の実践から見えてくるこれからの医師・看護師の在り方や、
将来に向けて医療人材をどのように育成し配置していくかといったお考えを語っていただきました。
外科医時代に培われたスタッフとの信頼
中:病院運営を改善するという取り組みは、スタッフとの信頼関係がなければなかなか
実を結ばなかったのではないかと思います。
どのようにその信頼関係をお作りになってこられたのでしょうか。
小澤:私自身、当院に着任した時はずっと外科医を続けていくのだと考えていました。
外科医療は当然、医師だけでは成立せず、また医師の数も少なかったという状況もあり、
術後管理等に病棟の看護師も一緒になって取り組んでいただいていました。
勉強会を頻繁に開き
「今度はこういう手術をするから、術後は中心静脈栄養とし中心静脈圧を調べて欲しい」とか
「呼吸管理はこういう具合で」といったことを、症例ごとに伝達し、
その積み重ねで病院としての診療レベルを向上してきたというストーリーがあります。
同じような関係性を看護師だけでなく、放射線技師や臨床検査技師などとも築いてきました。
ともに汗をかき経験を重ねてきたことが、今の関係性に繋がっているのではないでしょうか。
地域により異なる医療職者の理想像
中:大変な時期をともに乗り越えてこられて今があるのですね。
では、これからのこと、将来についてはいかかでしょう。
先生は看護師に今後どのようなことを求められますか。
期待される看護師像をお聞かせください。
いま看護師も高度な専門化が進んでいて一部では医師の業務に取って代わるような時代です。
この状況は、医師の世界が専門分化してきたことと重なります。
そういう変化の中で当院は、あえて言うのであれば専門医制度の流れに乗っていない病院と言えます。
専門に特化することが許されない病院だということです。
人は一つの病気にだけかかるのではありません。
特に高齢者は多くの疾患を抱え、一つの病気を治療しても健康を取り戻せないことが多く、
その人の生活を理解していないとベターな医療を提供できません。
一つの病を治すより、その人の生活を見ることの方が重要です。
それが地域に密着した医療機関が担うべき役割だと考えています。
では、そういう医療環境に勤める看護師に求められることは何かと言うと、
人を診て人に寄り添い、人を治していくことです。
それが当院のような地域に密着した中小病院が期待する看護師像です。
そして本来それが看護師の姿ではないかという気もします。
幸い当院の看護部長もこの考え方をしっかり理解しています。
この考え方に基づいて看護実習も積極的に受け入れるようになり、
応募してくる看護学生も増えてきています。
看護師のキャリア形成
中:病院の位置付けがそのように明確化されていますと、看護師が勤務先を選択する際にも、
迷わずに応募できるかもしれませんね。
小澤:看護師のキャリア形成において、勤務先を考慮する際の選択条件として
職場環境や雰囲気、人間関係、給料、立地など、いろいろあると思います。
ただ、本来、医療に進んできた人間、医療関係に携わろうとしてきた人間にとって大切なことは
「自分はどういう医療に関わりたいのか」という一点ではないでしょうか。
医療人材を地域で育てる
中:地域医療を志していて、それを担える人材が必要ということですね。
小澤:医療は非常に地域性が強いものです。
ですから最近は、地域で医療人材を育てていく体制づくりが必要なのではないかと考えています。
当院も以前は遠方の大学から医師を招いて専門外来を開いていましたが、
今は近隣の横須賀にある大規模病院などから来ていただく方法に変更しました。
それによって、大規模病院で急性期治療を受けた患者さんが当院に戻ってからも、
引き続き外来で同じ医師に診ていただけるというメリットも生まれます。
あえて大学ではなく近隣の中核病院との関係を構築することで、その病院の医師が
地域医療を経験する場として当院を活用していただくという、別の関係性にも発展してきています。
看護教育についても、同様の方法が成り立つのではないでしょうか。
地域が必要とする人材を一つの医療機関で抱え込むのではなく、
地域で確保して適材適所へ配置することを検討しても良いと思います。
中:非常に素晴らしいお考えですね。
医師はもちろん、看護師のキャリア形成の在り方も変わってくると思います。
ここで貴院に関する話に戻り質問させていただきます。
今までお聞かせいただいた先生のお考えを貴院のスタッフに伝える際、どのような手法をとられていますか。
小澤:電子カルテのトップ画面に、事あるごとにメッセージを載せるようにしています。
ただ、当院はそれほど大規模ではありませんから、
必要なことは私から現場に足を運び伝えることも少なくありません。
私がなぜ当院を勤務先として選んだかと言いますと、この規模がちょうど気に入ったからです。
実はより大規模の県立病院も選択肢としてあったのですが、躊躇せず当院を選びました。
自分の目が直接届く範囲は、当院ぐらいの規模だろうと考えていました。
着任してみると案の定そのとおりで、院内を見渡せ職員もみんな良く知っている間柄です。
中:スタッフの方々も、先生を近い存在とお感じになり、信頼を置かれているのでしょうか。
小澤:そうあってもらえれば嬉しいなと思います。
地域医療における看護の実践
中:最後に先生のご趣味をお聞かせいただけますか。
小澤:学生時代にやりつくしたという感じですね。
学生時代にあれだけ熱中したラグビーも、怪我が続いたこともあってやめてしまいました。
しばらくして自分の子どもができると、子どもと一緒にサッカーばかりやっていました。
その関係で応援団長やクラブチームの父兄代表のような役割を務めることにもなり、
いろんな所を飛び歩いていました。
中:そのようなご活動は、先ほどのお話にあった地域を第一に考え、
院内のスタッフとの関係を大切にされるという優しさに通ずるものがあるように感じました。
それでは看護師に向けてメッセージをいただけますか。
小澤:当院は非常に地域に密着して、地域医療を担う病院です。
こういう環境で必要とされる看護というのは、この地域に暮らしている人の生活を含めた、
人を診る看護、人に寄り添う看護、人を癒す看護、そして人を治す看護だと思います。
是非そういう看護を学びに当院へ来ていただければと思います。
よろしくお願いします。
シンカナース編集長インタビュー後記
笑顔溢れる小澤先生。
地域密着型の医療を望む看護師には充実した環境であることがお話を通じて理解できました。
地域のニーズに徹底的に呼応することで、経営改善も行われた小澤先生は、ゆるぎないポリシーをお持ちでした。
「自分はどういう医療に関わりたいのか」ということをしっかり見極めることが、医療人を継続する上で鍵になる。
看護師の資格があれば、どこの地でも働くことが出来ます。
故に、自らの思いを深く見つめ、自分にとって、継続できる医療現場で勤務することは幸せなことなのではないでしょうか。