No.171 病院長 松尾成吾様(森山記念病院)前編:杉田虔一郎先生の指導を受けて

インタビュー

今回は森山記念病院の松尾先生に、脳神経外科医療の進歩とともに、

その進歩を積極的に取り入れている病院の特徴などをお聞かせいただきました。

 

脳神経外科を基軸に「断らない救急医療」

中:今回は、森山記念病院、病院長の松尾成吾先生にお話を伺います。

先生、どうぞよろしくお願い致します。

松尾:こんにちは。

中:初めに貴院の特徴を教えていただけますか。

松尾:当院の特徴は、24時間365日断らない救急医療を基本としていることです。

1982年の開設以来、これを根幹に医療を提供してきました。

開院当初は、理事長が脳神経外科専門医であったことから、脳神経外科を機軸としていました。

現在も脳卒中関連の患者数が多くを占めていて、脳神経外科の医師は今14人ほど擁しています。

また脳卒中だけでなく、脳腫瘍、てんかん外科、神経血管減圧術、

脳下垂体や正常圧水頭症等の手術も行っています。

もちろん脳神経外科のみではニーズに対応できませんから、

内科や外科、整形外科、その他、さまざまな診療科を開設しています。

 

世界各地を巡った医学生時代

中:続いて先生のご略歴についてお伺いいたします。

まず、医学生時代の思い出などをお聞かせください。

大学は信州大学をご卒業されたと伺いましたが。

松尾:はい。

出身は札幌ですが、親の転勤の都合で高校は都立に通い、そこから信州大に進学しました。

在学中はしばしば海外を訪れていました。

旅先はロシアやアメリカ、あるいはヨーロッパ一周、インドなどです。

南米とオーストラリア以外はほとんど行ったと思います。

ケニアを訪れた際にはナイロビの国立病院を見学させてもらい、現地の風土病を学ぶ機会に恵まれました。

マラリアの他、マンソン住血吸虫症など、日本では珍しい病気もみることができました。

不活化した卵を自分の大学の教室へ持って帰り、研究に役立ててもらったこともあります。

中:何がきっかけで、世界中を見て回るようになられたのでしょう。

松尾:もともとインターナショナルなことに大変興味があったのです。

シュヴァイツァー博士のような存在への憧れもありました。

英語も好きで、外国の方との会話や交流が楽しみでした。

そのような経験を重ねていくと、自然に自分の世界が広がるように感じます。

また日本の良さも悪さも、海外へ出ることで見えてきます。

そんな学生時代でした。

 

杉田虔一郎先生に師事

中:続いてご卒業前後のことをお尋ねします。

ご専門領域として、脳神経外科を選ばれた背景をお聞かせください。

松尾:最もインパクトが強かったことは、学生時代に杉田虔一郎先生のゼミに入ったことです。

杉田先生は脳神経外科領域の世界的権威で、脳動脈瘤手術用の「Sugitaクリップ」の開発者として

現在にも名を残しています。

音楽、美術にも造詣が深く非常に芸術的で魅力的な先生でした。

その杉田先生が私をまるで息子のように面倒をみてくださり「ぜひ来い」と誘ってくださったのです。

中:それで脳神経外科を選ばれたのですね。

脳神経外科医の魅力はどのようなことでしょうか。

松尾:自分で診断でき、かつ手術で直接、脳や脊髄を開けて病巣を確認し、

腫瘍や血腫を摘出したり、動脈瘤を処置したりと、すべて行えることです。

また、CTやMRIなどの画像診断機器も日進月歩で診断治療環境がダイナミックに変化しています。

私が学生の当時は初めてCTが入った頃で、卒業時点では国内に数台しか存在していませんでした。

しかも撮影に30分もかかっていました。

血管撮影をするにも頸動脈に穿刺し造影剤を注入するという手法で、

侵襲が大きく患者さんの苦痛を伴うものでした。

今は、あっという間に外来CT、MRIで画像診断が出来る時代になりました。

夢のような時代の到来です。

 

新幹線から手術手技を伝達

中:診断のための機器が大きく進歩してきたのですね。

松尾:本当に信じられないほど変化しました。

例えばMRI画像をスマートフォンで自宅にいながらにして確認することもできます。

経験の浅い若い医師が助言を求めてきた時、間髪を入れずその場で対応できます。

実際、新幹線の中から手術中の画像をみて指示を出したこともあります。

中:治療面でも長足の進歩を遂げられたと思います。

いくつか代表的な変化を教えていただけますか。

松尾:脳動脈瘤の処置はかつて基本的に開頭してクリッピングしていました。

当初は長ければ半日、あるいはそれ以上かかかる手術でした。

それに対してコイル塞栓術という血管内治療が1990年代から飛躍的に発展を遂げました。

当初はバルーンの破裂やコイルの迷入などのトラブルがありましたが、

最近10年ほどは安定した成績をあげていて、当院でも過半数はこの方法で治療するようになってきました。

先ほど申しました私の恩師の杉田先生が亡くなられて二十数年たちますが、

もし今、先生が今日の脳神経外科医療をご覧になったら、

ご自身が夢に見られた理想的な治療が行われつつあると思われるのではないでしょうか。

AIの可能性

中:脳神経外科以外の領域ではいかがでしょう。

私は脳神経関係を専門としているので他領域についてはあまり詳しいことを申せませんが、例えば、

治療に苦慮していた白血病患者の真の病態をAIのワトソンが直ちに解き明かして治療法を提案し、

患者が快方に向かったという事例がありましたね。

医学の進歩は本当に素晴らしいと、私自身も感じているところです。

中:そうですね。

仮に視点をこれから10年先に向けた場合、医療はどのように進んでいくとお考えになりますか。

松尾:難しいご質問ですね。

やはり一番影響を及ぼすのはAIではないでしょうか。

例えば糖尿病患者さんの血糖値やヘモグロビンA1cなどの代謝関連パラメーターを入力すると

「このような薬を提案します」などとAIが教えてくれることも考えられます。

さらに既に、放射線診断や病理診断などの画像診断では

人間よりもAIの方が精度的に勝るという報告もあるようですから。

中:確かに先日も「AIで1秒間に30人分の内視鏡画像を診断できる」といった記事を見かけました。

もちろん人ではそのようなスピードでの診断は不可能ですから、

AIが診断をサポートする時代が来るのではないかと感じました。

松尾:来るでしょうね。

特に画像所見による診断に関してはAIの導入が早いと思います。

後編に続く

Interviewe Team