今回は横須賀共済病院の長堀先生に、院長になられてからも学び続けていらっしゃるお話などを伺いました。
テニス部キャプテン時代の挫折
中:先生が医師になろうと思われた動機をお聞かせください。
長堀:子どもの頃に虫垂炎になりかけました。
外科の先生に診ていただき、結局は手術には至らず、保存的に治していただいたのですが
その時「医者という存在は素晴らしい癒しを与えてくれる職業だな」と
思ったことがきっかけです。
中:後に外科を専門とされたのも、その体験が関係されているのでしょうか。
長堀:その記憶の潜在的な影響もあったかもしれません。
外科に進んだもう一つの理由は、医学部時代に魅力的な外科のオーベンがおられたので
そのもとで仕事できたら楽しそうだ、と思ったことです。
中:医学部時代の思い出に残っているエピソードはございますか。
長堀:クラブ活動のキャプテンを務めていたのですが、
部員を引っ張っていく上で大失敗した経験が苦い思い出です。
弱小テニス部だったのですが、それをさらに弱くしてしまいました。
中:何故そのような顛末になってしまったのでしょう?
長堀:強くしようと思いまして、練習を積むために出席をとってみたりなど、
部員の自由を奪ってしまったのですね。
そうした結果、かえって部員のやる気を損ねてしまいました。
強権的なリーダーシップはダメだなと思い知りました。
中:学生時代にそこまでお考えになられたのですね。
長堀:冴えない青春の挫折です。
“近江商人の三方よし”
中:そのご経験は、その後の職歴において生かされることもありましたか。
長堀:間違いなく今に生かされていますね。
ただ、そうはいっても外科部長時代は部下に陰で「信長」とか「修造」と呼ばれる存在でした。
何か起きたら一騎で駆け出していき
「みんな後から付いてこい。遅れるやつは放っておけ」といったスタイルでした。
中:かなり強いリーダーシップで進まれてきたのですね。
現在はスタッフに対してどのようなスタイルで接しておられますか。
長堀:4年前に院長になった当初は、やはりその“信長的リーダーシップ”で
「こう決めたからそうするぞ」という感じでかなり猛進してきました。
しかし、最近は経営品質を重視し“近江商人の三方よし”を意識するようになりました。
売り手よし(employee satisfaction.ES)
買い手よし(customer satisfaction.CS)
世間よし(corporate social responsibility.CSR)
を病院に当てはめると患者さんのためだけではなく、スタッフの満足も大切だということです。
また例えば当院であれば、三浦半島にお住まいの人たちが、
当院がここにあることに誇りを持つような存在にならなければいけません。
“信長的リーダーシップ”の限界を感じて、コーチングを受けたりしています。
院長としての研鑽
中:先生ご本人がコーチングを受けられるのですか。
長堀:はい。半年間のエグゼクティブ・コーチングを受けました。
先日の日本医療マネジメント学会のランチョンセミナーで講演した際
強調したのは三点で、まず人の話を関心をもって聞くということです。
コーチングする時は意識して80パーセント、聞き手となります。
今まで聞いていなかった。
二つ目はクリティカルシンキングで、現状を把握し目標とのギャップを明確にして、
どうしたら最短で解決できるかを考えるスキルです。
三番目は、コーチングする相手:ステークホルダーのタイプ分けです。
自己主張と感情を2軸とし、その強弱で4つのタイプに分けます。
個別性を尊び、テーラーメードでコーチングするということです。
中:そういった努力を院長になられてからされているのはすごいことだと感じます。
既に医師としてキャリアを積まれて、さらに病院長になりますと
一般的には固定概念に縛られて、なかなか自分を振り返ることは難しいのではないかと思いました。
長堀:セミナーのタイトルは
「コーチングによる病院長のリーダーシップ再開発」でした。
会場に入る前は「こんな内容に興味を持ってくれる人がいるのかな」
と思っていたのですが、200席以上が満席でした。
リーダーは、自分のリーダーシップにいつも不安を抱えており、
どんな進歩のスキルがあるか求めているのではないでしょうか。
進歩を積み重ねる
中:なるほど。
院長になったら終わりではなく、なった時点からまた次の課題が見えてきて、
学習する必要にかられるということですね。
長堀:院長になったことで満足する人もいるかもしれませんが、私の場合ずっと同じことをしていると飽きてしまい
新たな刺激を求めるという意味もあります(笑)
中:そのような姿勢は外科ご出身の特徴かなと推察いたします。
病院経営についてお話しいただきましたので、次に外科領域のお話を伺います。
先生が医師になられた当時と現在とではかなり進歩があるのではないかと思うのですが
そのような変化をどのように採り入れてこられたのでしょうか。
長堀:その点では、いつも新しいことを採り入れ、
最先端のことをやろうとしていました。
具体的には、当院ですでに導入しているロボット(ダヴィンチ)手術もそうですし
時代を遡れば腹腔鏡手術もやはり患者さんにメリットがあるものとして
積極的に採用してきました。
1990年に日本で第一例目の腹腔鏡下胆嚢摘出術が行われたのですが、翌年
当時私が勤務していた山梨県内の施設で、県下初の同手術を施行しました。
一方で、私は肝臓や胆道・膵臓のがんを中心に手がけてきました。
この領域は本当に長足の進歩を遂げました。
30年前は「肝臓なんか切ったら死んじゃうぞ」と先輩から言われていたものですが、現在は術死率1%程度です。
このような進歩の時代に研鑽を積めたことは幸運でした。
現在は肝臓でも腹腔鏡の手術が導入されていますが、
もちろん、開腹が悪いという単純な話ではありません。
開腹の操作性の良さと、腹腔鏡の低侵襲性、整容性など、それぞれの長所を上手く組み合わせていければ良いのです。
今までを否定するのではなくて、積み重ねが大切です。
後編に続く