前編に引き続き、JCHO大阪病院の田中看護部長へのインタビューをお届けいたします。
2交代勤務を導入した師長時代
看護補助者の役割についてお話しいただけますか。
田中:当院は急性期病院ですから非常に濃厚な治療を受ける患者さんがたくさんいらっしゃいます。
医師も看護師も、そのことにだけに専念する傾向があります。
例えば重症患者さんのメンタルケアも看護師に求められます。
個々の患者さんの持っている力を引き出すという、非常に多岐にわたる重要な役割を看護師が担っています。
そういった役割をしっかり遂行し提供していくためには、その一部分を看護補助者に担っていただくことが重要です。
当院の看護補助者もそのような意識が非常に強く、たいへん助かっています。
配膳や院内の案内など、患者さんの生活の場を整える役割を担う中で、患者さんとの関りも生まれます。
その結果、患者さんから
「今日もシーツきれいにしてくれたね。ありがとう」などと言われると、非常に嬉しいという声もよく耳にします。
役職に就かれてから、看護部長になるまでの経緯を教えてください。
田中:病棟スタッフとして11年間勤務した後、当院の付属看護専門学校で専任教員を4年間勤めました。
現場に戻ってから主任看護師を4年、看護師長を3年、副看護部長を9年務めた後、看護部長に任命されました。
いま思い起こすと、看護師長や副看護部長の頃が最もハードだったかもしれません。
当時はどの病院も看護師は3交代勤務が当たり前で当院もそうでしたが、それを2交代勤務に変えたのも看護師長を務めていた頃のことです。
2交代勤務に変更すると出勤日の勤務時間は長くなりますが、休日を多くとれるので労働環境は向上します。
それによって看護師がしっかり休め、看護の質を向上できると考えたのです。
この方針は院内から猛反発されました。
しかし「これは絶対みんなにとって良いことだ」という信念を貫き、自分が勤務していた外科病棟で始めたのです。
1年半ほど試行錯誤しているうちにうまく回り始め、スタッフの満足度が上がりました。
その情報が他病棟のスタッフにも伝わり、間もなく院内全体に広がりました。
現在でこそ2交代勤務が一般的になりましたが、当時そのように変更するための苦労はなかなか大変なものでした。
副看護部長時代にご苦労されたことはどのようなことでしょうか。
田中:短期間で師長から副部長になったために人間関係で多少ぎくしゃくしました。
ただ、いろんなことがありましたけれども、多くのことを学び、その経験を看護そして看護管理に活かしてきました。
苦悩を看護に転化する
どのように苦労を前向きに変えていかれたのでしょうか。
田中:仕事を一つひとつ丁寧にやっていくということです。
考えて実行する。
それを繰り返すことで自分の中に暗黙知として蓄積されていくと私は思います。
それが自信や達成感に繋がります。
その意味で、新人には一つひとつ成功を積ませて上げることが大切だと考えています。
ただ、それに際しても失敗や苦悩がないと、大きな達成感は生まれません。
例えば、看護は業務の幅がたいへん広いので、内科病棟では素晴らしい看護師でも外科病棟では上手くいかないとか、
回復期病棟では良いけど手術室では今ひとつということがあります。
そうであっても、何か一つの分野で自信があれば、その自信を獲得するまでのプロセスが他の分野にも生かせます。
私自身、それまで経験のなかった管理職になった後、そのようにして成長してきました。
看護部長になられてからのご苦労をお聞かせください。
田中:看護の質を高めるために、看護師長を育てることが今の私の役割です。
看護師長は現在23名いるのですが、師長が成長しないと看護師全員が育ちません。
そして師長を育てるのは新人看護師を育てるよりも難しいと感じています。
師長としての経験が浅いことは、あまり問題ではありません。
それよりも、患者さんのケアの質を向上することに真剣に取り組む姿勢を大切にしていただきたいと考えています。
もちろんそれには労働環境を整え、福利厚生をよりしっかりとさせることも必要でしょう。
また、それぞれの師長自身が能力を上げようとする意欲も大切でしょう。
しかしそれでも「看護の質を上げる」ことを一番に考えていただきたいのです。
師長レベルの人たちはすでに価値観や人生の目的が固まりつつある人が多いので、考え方を変えていただくのは容易でありません。
講義や研修など受動的な教育ではあまり効果がないのです。
そこで最近、企業で社員研修に導入され始めているという、レゴブロックを仲介物として活用する試みを始めました。
例えば、「理想の看護師長」をレゴブロックで表現するのです。
レゴブロックを目で見て、手を動かし、自分のイメージしたものを形にして、出来上がったものを自分の言葉で説明していただきます。
自ら思考し、創造し、表現し実行することのできる看護師長になってもらいたいのです。
昨年から何度か実施しましたが、手ごたえと良い感触を得ています。
このほかにも、個人の創造性を高めるなどの価値観を変えられるようなアプローチを模索しています。
看護部長からのメッセージ
田中:当院は4年前に新しいJCHOという組織になりましたが、病院としては66年の長い歴史をもちます。
現在は565床で、全て急性期医療にあてています。
急性期医療を担う病院として、看護師には質の高い看護を実践できる力を当院は求めています。
そのために、新人研修に非常に早期から取り組み始め、既に16年目になります。
新しく来られた全ての看護師に年間約400時間の研修を設けています。
急性期の医療に対応できる、質の高い看護を提供できる看護師を育成するためのプログラムです。
このプログラムが非常に高い評価を得ていて、研修を受けるために当院に来られる看護師も多くいます。
先輩方も新人を育成するということに、楽しみとやりがいを感じながら働いています。
互いに学び、育ち合うことをモットーにしている看護部です。
シンカナース編集部 インタビュー後記
「患者さんとの思い出や達成感があると苦悩を忘れてしまう」「
患者さんの思い出に残り、
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No.156 田中小百合様(JCHO大阪病院)後編「一つひとつを丁寧に続けていく」