前編に引き続き、汐田総合病院の小田副院長へのインタビューをお届けいたします。
常勤の看護補助者は全員有資格者
こちらの病院では看護補助者の方はいらっしゃいますか。
小田:介護福祉士とヘルパーがいます。
看護補助者は院内に40人ほど、法人全体で70〜80人おりますけども、その半分は介護福祉士になっていますし、ヘルパーの資格は全員取得しています。
面接の時に資格がなかったとしても、まずは非常勤で入ってもらって、研修に通いつつこちらでの仕事もして、資格を取った段階で正職員に切り替えましょうと話して、資格を取るのが前提という形にしています。
実際、資格を取られた方たちは、身体介助なども担当されるのですか。
小田:もちろんそうです。
介護福祉士になると、彼らが中心になってレクリエーションを企画したり、ケアプランを作ったり、そうやったことで「患者さんがどれだけ元気になったか」というのをちゃんとまとめてくれるので、年に2回看護部総会の場で発表してもらっていて、お互いの励みにもなっているのではないかと思います。
他院や介護老人福祉施設のスタッフも発表を聞きに来るので、彼ら自身も楽しくやっていますし、高校生を迎える時に、いきいきと仕事しているということがわかった方が、若い人たちが集まってくれることに結び付いていくのだと感じます。
看護補助者が、単純に看護師の手足として動くだけではなく、ケアに関して自分たちも専門職なのだというプライドを持ちたいという人がたくさんいて、男性も多くなってきています。
一つの職業だけで終わらない
みなさん若い方が多いのでしょうか。
小田:若い人もいますし、30〜40代の方もいらっしゃいます。
ヘルパーとして入職して、勉強して国家資格を取る方もいらっしゃいます。
ヘルパーで入られて、看護師になった方もいらっしゃるのでしょうか。
小田:看護師になった人もいます。
救急救命士が看護学校に行きたいと言って、受験をしたら受かったので看護学校に行く、というケースもあり、様々です。
一つの職業だけで終わらないのですね。
やりたい方向に進んでいける土壌というか、サポートしてくださるのは素敵ですね。
小田:何人かの医師にも看護学校の講師を務めていただいていて、私もそこにいるので、ライセンスを目指すという方向で話しますし、支援政策も立てやすいです。
ミスマッチはなるべく少なく
学生や高校生のインターンシップも開催されているのですね。
小田:そうですね。
高校生も看護師のお仕事を見に来ていただきますし、中学校にも行って職業講話もしています。
実際に看護師を辞めた方が、何かしら仕事に戻ってくるということをお手伝いしたいというのもあるので、潜在看護師事業というのを、今お手伝いしています。
一度病院を辞めた人が次の病院に行くのは、とてもエネルギーが要ることですし、説明を聞いてすぐに決めきれないこともあります。
既卒の看護師でもインターンシップをしてからこの病院を選択できるように、ミスマッチはなるべく少なくしたいと配慮しています。
「自分の感覚を信じて」ということで、一回は体験に来て、インターンシップして、それで入職するという形をすすめています。
患者さんにも、スタッフにも良い形の勤務サイクル
看護師さんたちは新卒の方が多いですか?
小田: 30代が一番多いです。
大学の大きい病院などで働いていたけれど、結婚したら続けづらくなって、仕事と家庭の両立を求めて当院に来る人が多いです。
当院では、少し勤務サイクルが異なります。
通常、夕方4時とか5時から始まりますが、当院では7時からで翌朝9時までの14時間です。
自分の子どもに「おかえり」と言って、安心してお互いに今日あったことを話して、それから夜勤に出て来られるので、その点で子育てもしやすいと感じ、子育て中の人も多くなっているのかなと思います。
これは私自身が副部長になったころ、27〜28年前からやっているので、自分自身が働き続けやすいようにしてきました。
患者さんの立場に立って考えても、「おやすみなさい」と「おはようございます」を同じ看護師が言える方が、患者さんとの信頼関係を築きやすいのでは、よい形の勤務サイクルなのではないかと考えています。
また、新人が大きい病棟の中ですべてを網羅して覚えることはとても大変なので、当院では1つの病棟を4つに細分化し、新人が覚えやすい人数としてグループナーシングを取り入れています。
プリセプター(メンター)制度でも常に先輩と一緒に動けるわけではないので、それをグループ員が7〜8人いれば、自分をサポートしてくれる先輩が必ずいるという体制を組めるので、そのように始めました。
自分のキャリアを生涯通した形で設計できる
こちらは法人の中で介護老人保健施設もありますよね。
小田:はい。
同じ法人の中で、看護師も看護補助者も全員1年に1回は「自分がこの後どういう分野で働いて行きたいか」「どういう分野を極めていきたいか」という異動希望書を提出してもらいます。
ちょっと介護老人保健施設に行きたいとか、訪問看護を経験したいという人もいるし、病院の中で働きたい人もいるし、子育て中はクリニックがいいという人もいます。
それぞれ辞めないで、自分のキャリアを生涯通した形で法人の中で設計できるようにするという面で、いろいろな施設を持っているのはとてもいいと思います。
学校に進学したい方も資格を取りたい人も、病院から離れて地域にもっと密着したい方も、希望を出しやすいですね。
小田:通常の病院だと一旦辞めてキャリアが途切れてしまいますが、当院の場合はそれを一つの法人グループとして対応できるので、長く勤続できるかなと思います。
選んだ自分を信じて、責任を持ってやっていくことに価値がある
小田:自分で看護師になりたいと思って、看護学校に行って免許を取って、自分が選んだ職業・職場なのだとしたら、自分が選択したことに責任を持ってそれを信じてほしいです。
自分が選んだのだから、選んだ自分を信じたら、しっかり最後まで責任もって、そのことをやっていく価値があるものなのだと考えます。
どれだけ苦しいことがあって、去りたいなと思ったとしても、完全に辞めるのではなく、すぐに戻れる方法を常に探して、できれば細く長く働き続けることが大切だと思います。
自分自身を取り戻すのは、自分自身が看護をやりたかった最初の頃を思い出して、自分が輝ける場所は患者さんのそばなのかなと思います。
シンカナース編集部 インタビュー後記
病気になってからの医療ではなく、病気になる前から、日々の生活の中で健康を維持することの大切さ、
入院をしていても病院の外で暮らしているのと同じように季節や天候を感じられることの重要性を教えてくださった汐田総合病院の小田副院長。
幼い頃に抱かれた離島医療への疑問。
それを看護師になっても忘れずに、何かするために飛び込んで行かれたその勇気と熱意に感銘を受けました。
医療物資も人材も十分とは言えない場所での勤務を経験されたからこそ培われた、日常生活と健康維持のバランス感覚を小田副院長はお持ちなのだと感じました。
これからの地域医療を支えるためにはその感覚を受け継ぎ、自然と入院前・退院後の生活をイメージして必要な支援を行える看護師、そしてそれを後輩へ受け継いで行くことの出来る看護師が必要とされているのでは無いでしょうか。
小田副院長、この度はお忙しい中貴重なお話を誠に有難うございました。