前編に引き続き、敦賀医療センターの下門すみえ看護部長へのインタビューをお届けいたします。
充実した研修プログラム
こちらの病院の看護部の理念は「大切な人を安心して託すことができる温かい看護」ですが、これを実践するために取り組んでおられることはありますか。
下門:はい、経年の中で看護師に何を学ばせたいかという目標・目的を明確にして、それに合った研修を計画的に行っています。
研修のプログラムは、143施設の国立病院機構で同じものを使っていますが、それぞれの病院の特徴に合わせて、プラスアルファした内容で研修をします。
研修はキャリアラダーで作っておりまして、経験年数よりもその熟達度によって実施しています。
病院内で行う研修以外に、外部の研修もあるのでしょうか。
下門:はい、外部の研修としては、国立病院機構の中のそれぞれの施設から何人かが出て行うものや、福井県の看護協会が実施するものがあります。
また、災害医療に関するものや診療報酬に関わる内容のものなど、病院として必要な研修は病院の公費で行っています。
様々なスタッフによる業務分担
ところで、こちらの病院には看護補助者もいらっしゃるのでしょうか。
下門:当院は、看護補助者とクラーク、ケアアシスタントといって急性期の方の患者さんの身体ケアを主にやる人と、療養介助職がおります。
看護補助者は各病棟2名ずつの配置で、ケアアシスタントは3名、療養介助者は療養介助専門職と療養介助員と合わせて21名います。
ただし当院は、急性期の病棟と慢性期の病棟と半分半分の病院でして、片方は重度心身障害児のセーフティーネット系の病棟ですので、療養介助職はこの重心のひまわり病棟にしか入っていません。
業務はどのように分けておられるのでしょうか。
下門:国立病院機構の場合、業務基準が成文化されていまして、職種によって業務はきっちり分担されています。
例えば、アメニティセットに関しては、まず説明はクラークにしてもらい、実際患者さんに配布するのは看護補助者にお願いしています。
看護補助者は、患者さんのベッドメイキングやシーツ交換、環境整備、配膳を行ったり、入院患者さんのお迎えや、検査に一緒に付いていったりもします。
看護補助者向けの研修のプログラムもあるのでしょうか。
下門:看護補助者の研修は、当院の方で計画を立ててやっております。
年に数回の研修に加え、技術研修や高齢者のケアについても研修を行っていますし、これからはアンガーマネジメントについても、やっていきたいと思っています。
新人看護師の確保の取り組み
こちらの病院には、毎年どのくらいの新人看護師が入職されるのですか。
下門:十数名、14~15名ぐらいが主です。
当院は看護学校を持っていませんので、新人看護師の確保がなかなか難しく、私が来る前まで当院は稼働困難施設だったのです。
それで看護実習の受け入れについて指導を丁寧にすることや、看護学生に夏休みにアルバイトに来てもらったりして募集活動にすごく力を入れた結果、新人看護師十数名を確保できるようになりました。
新人看護師の入職が増えたことで、どんな良い影響があったのでしょうか。
下門:はい、ある程度人数が潤ったおかげで、当院の機能を強化できるような人たちを育成することができてきたと思います。
がんの化学療法の認定看護師や今年からはがんの緩和ケアの看護師も専従化しましたし、退院支援看護師として、育児中の看護師を3人日勤で配置することができました。
また、実習指導者の研修に3人程度出せたり、認定看護師の教育課程を希望する看護師に半年程の研修に行かせられる状況が作れるようになりました。
スタッフのモチベーションを上げる取り組み
素晴らしいですね。ほかにも離職の防止策として行っておられることは何かありますか。
下門:看護師長会を新人確保グループと看護師定着グループに分けて、いろいろな取り組みをしてきた結果、この7年間、1年目の離職はゼロにできています。
例えば、看護師定着グループの師長たちは、病院のPRのために同じユニフォームを着てツーデーマーチに参加するとか、グッドジョブ賞といって、良いケアをした看護師を表彰して名札にグッドジョブマークを付けてもらう、という取り組みをしています。
いま19人程グッドジョブマークを付けている看護師がいますが、表彰された看護師は仕事を見てもらえていたということで喜んで、次も頑張りますと言ってくれます。
ほかにも、看護師達のモチベーションを上げてきた取り組みはありますか。
下門:医療チームとしての顔の見える関係づくり、コミュニケーションの輪作りということで、スキーや紙すきツワーなど部門を超えたレクレーション活動を取り入れています。
また、看護師たちが前年度にした看護研究を学会で発表するようにしています。
2年前から敦賀の市立看護大学の先生が研究の指導にあたってくださり、研究の質がすごく高くなってきましたし、いろんな学会に行けるので本人たちも楽しみにしていて、研究そのものを楽しんでくれています。
みなさん、意欲的に取り組んでおられますね。
下門:はい、師長たちがよく頑張ってくれていますし、療養介助職も患者さんの気持ちを大切にして仕事をしてくれていますので、非常に嬉しく思っています。
去年のことですが、体験学習を通して、患者さんがミスト浴をする時に下にある板が冷たいということが分かりました。
どう対応するか考えた時に、療養介助職が板にお湯をかけて温かくしてから、患者さんを入れるように工夫してくれました。
この工夫が評価されて、去年は東京の機構本部から優秀賞で表彰されました。
趣味は二胡
素晴らしいですね。ところで、日々お忙しい中、どのように気分転換をされているのでしょうか。
下門: 50歳を過ぎたぐらいから、二胡の音が好きで、二胡を習い始めました。
以前大阪にいる時は、月に2回ほど習いに行っていましたが、今は離れていてなかなか練習ができませんので、時々奏でております。
二胡を弾かれるのですね。他にもお好きな音楽などはありますか。
下門:実は、よくカラオケに行きます。
いま森高千里さんの雨という曲を練習中です。
若い時はNSPが好きでしたが、今は強いて言えばゆず、あと中島みゆきさんの糸という歌も好きです。
3つの大切な事
最後に、新人の看護師、あるいはこれから看護師を目指す方に向けてメッセージをお願いします。
下門:新人看護師へのメッセージということですけれども、私はまず新人にとって一番大事なことは、素直であることだと思います。
やはり素直でないと、指導も上手く自分に入ってこないので、成長のためには素直であることが一番大事だと思っています。
次に大切なのは、したたかであるということですが、したたかというのは少し悪い印象を言葉としてはお持ちになるかもしれませんけども、そういうことではなく、しぶとく、忍耐強いこと、強いことということですね。
アシの木のように揺れてしなやかに強いことも大事だと思いますから、したたかであれという言葉を送りたいと思います。
3番目に、失敗から学ぶということが大事だと思います。
看護師をやっていると、失敗しないことはないので、1度した失敗を次に起こさない、次に起こさないための工夫をしていく、それを次の患者さんに活かすということを心して頑張っていただきたいと思います。
シンカナース編集部インタビュー後記
下門看護部長は、とても明るく熱意のあふれる方でした。
常に患者さんの立場で看護のケアについて考え、気づいたことを実践にまで確実に結びつけていらっしゃいました。
体験学習では、悪い例と良い例を行うことで、スタッフに自分の看護に足りないところを気づいてもらう工夫をしているそうです。
また、体験学習で気づいたことを実際に業務で工夫をしたことが評価され、機構本部から賞をいただいたというお話は、まさに看護部の理念でもあります「大切な人を安心して託すことができる温かい看護」がスタッフにも浸透していると感じました。
そして スタッフの気づきや工夫にきちんと耳を傾けることがスタッフのモチベーションアップにつながっていると強く感じました。
下門看護部長、この度は素敵なお話をしてくださいましてありがとうございました。