国立感染症研究所は15日までに、ノロウイルスなどが原因の感染性胃腸炎の患者が急増したと発表しました。過去10年で患者が多かった2006年と2012年に次ぐ水準です。千葉県など10都県で流行警報の基準となる定点医療機関あたりの患者報告数が20人を超え、猛威を振るっています。
ノロウイルスは冬に多発する食中毒の原因として知られています。保育所や幼稚園、学校などで感染が広がることが多く、感染すると、24~48時間の潜伏期間の後、嘔吐や下痢を繰り返します。
当院でも5年前にノロウイルスが大流行しました。その背景には精神科病院の特徴が関係しています。
<ハード面の特徴>
1.閉鎖環境であること
2.鍵のかかる扉が多いこと
3.窓が10センチ程度しか開閉できず、換気が十分にできないこと
<患者様の特徴>
1.自分からは症状を訴えない
2.症状があっても安静が保てず、動き回る
3.セルフケア能力が低下し、手指衛生が行えない
これらの精神科特有の要因が感染症のアウトブレイクを引き起こすことになります。ここで、お恥ずかしながら私の失敗談をお伝えしたいと思います。
以前、私が精神療養病棟(身の回りのことはたいてい自立している患者様が多い病棟)で働いていた時、とある患者様が「さっき、洗面所で吐いたんですけど、吐いたらすっきりしました。きれいに掃除もしておきました。でも一応、報告しておきます」とナースセンターに言いに来られました。その時、私はノロウイルスの恐怖を知らず、「はい、わかりました」とだけ返事をして、現場の確認を怠ってしまいました。今であったら、すぐに洗面所の周囲を次亜塩素酸ナトリウム溶液で消毒し、対象の患者様への聞き取り、観察も行うでしょうが、その時はまさかアウトブレイクを引き起こすとは考えてもいませんでした。
翌日、入院中の患者様が次々と嘔吐や下痢をし始めました。トイレで嘔吐する患者様、廊下を歩きながら嘔吐する患者様、その嘔吐物を靴の裏に付けて歩き回る患者様、寝ながら嘔吐する患者様…、職員は吐物処理に追われ、さらには職員にも感染が拡がりました。
おそらく洗面所付近についたノロウイルスが原因でしょう。患者様の報告を受けておきながら洗面所付近を徹底的に消毒しなかった私の失態です。
ノロウイルスが流行する前、院内感染対策研修会で吐物処理方法のデモや演習を行っています。その際に、「下痢や嘔吐があったらすぐに職員に言いに来るよう、患者様に指導してください。患者様自身で掃除はしないように、必ず職員が現場を確認し、消毒を徹底するようにしてください」と自身の失敗談も含め、伝えています。
1.自分の失敗を感染対策に活かす
2.同じ失敗は患者様のためにも病院のためにも繰り返さない
3.感染症は院内に持ち込まない、持ち込まれても拡げない
この3つを教訓とし、今年も感染対策の徹底に励んでいます。
シンカナース株式会社 代表取締役社長
看護師として勤務していた病院において、人材不足から十分な医療が提供出来なかった原体験を踏まえ「医療の人材不足を解決する」をミッションに、2006年に起業。 現在、病院に対しコンサルティングおよび教育を通じた外国人看護助手派遣事業を展開。25カ国以上の外国人看護助手を育成し、病院へ派遣することで、ミッションを遂行している。 東京都立公衆衛生看護専門学校 看護師 東洋大学 文学部 国文学科 学士 明治大学大学院 グローバルビジネス研究科 経営管理修士(MBA) 日本大学大学院 総合社会情報研究科 総合社会文化博士(Ph.D.) ニュージーランド留学 帝京大学医学部附属病院 東十条病院 三井住友銀行 元東京医科歯科大学非常勤講師 元同志社大学嘱託講師 元日本看護連盟幹事 元東京都看護連盟幹事 日本看護連盟政治アカデミー1期生 シンカナース株式会社/代表取締役社長 著書 『わたしの仕事シリーズ2 看護師』新水社 『医師の労働時間は 看護業務の「分業化」で削減する』幻冬舎 『外国人看護助手テキストブック』幻冬舎